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想い出

作者: 松本 和

あのころに戻りたい。本気で思う。15歳の夏に戻りたい。…思い返せば、あのころが一番楽しかった。

いつまでもこうしていたいと思った。…一番輝いていたんだ。…あのころに戻りたい。


15歳、中学3年生の夏。私は部活を引退した。バスケ部だった。弱小部で、一回戦さえも勝てなかった。

でも3年間の思いをぶつけた。練習はそれなりにきつかったし。いろいろな苦労をした。


でも負けて、バスケ部を引退した。バスケは好きだった。後輩も好きだった。顧問の先生も好きだった。

だから、夏休みは受験勉強も宿題もそっちのけで、毎日のように部活に行った。


部活が終わってからは同じ学年の友達と顧問の先生とで話をした。午前中に部活だったら、午後はずぅーっと話をした。

日が暮れて、真っ暗になってもみんなといる時間が楽しくて、ずっと話をしていた。


ときには、レストランへ行って食事をしながら楽しんだ。試合観戦に行った。お祭りにも行ったし、その後花火をして遊んだ。

遊園地にも行ったし、ファーストフード店でハンバーガーを買っては、近くの公園に行った。食べた後はひたすら遊んだ。


移動は先生の車だった。先生の車の中話しをすることもあった。そのころには先生の車は自分のうちの車のように感じた。毎日毎日同じことをして過ごしたから、日にちの感覚も曜日の感覚もなくなってしまったくらいだ。


毎日暗くなってから帰る私を母はよく怒った。でも後悔なんてしなかった。私にとって一番大切なのは

「みんなとの時間」だった。何よりも優先した。


私達の関係は微妙だった。いつも3年生と先生とで遊んでいた。

先生に仕事があるときは、午前中部活の後、2時間でも食べずに待っていた。

でも、どんなにお互いに合いたいという気持ちがあっても私たちは所詮は先生と生徒の関係で歳の差は10もあった。

先生が特定の生徒を特別扱いするのは良くないことなんだ。


夏休みはあっという間だった。毎日が楽しかったんだから、当たり前か…。

夏休みが終わると前ほど遊べなくなった。私たちは受験生だったので、部活に行くことは禁止されてしまった。

なんで?部活やらせてよ?私たちの邪魔をしないで?頭の中ではいつもそのことばかり考えていた。


何度か秘密で部活に行った事がある。なんとかバレずにすんでいたけれど、以前より行動しづらくなったのは事実だった。

前より遊べなくなって嫌だった。受験が近づくのに比例して、夏に戻りたいと思うようになっていた。


部活に行けなくなってからも、みんなで遊んだ。映画に行ったし、ボーリングもした。

先生も私たちと遊びたいと言ってくれた。それなりに楽しかった。…でも夏の日々に勝るものはなかった。


今、私は高校生だ。いつかあの夏は遠く、記憶の彼方に沈んでいくものだと信じていた。

そしてもう、思い出すたびにこんなに辛い思いはしなくなると信じていた。

泣きそうになる。邪魔をした人たちを憎く思う。胸が締め付けられて、息がつまりそうになる。


全然褪せたりしない。思い出そうとすると、色鮮やかに浮かんでくる。あの美しい思い出。

戻りたい。また、時間なんか気にせずに、みんなと遊びたい。どうしてそれが出来ないんだろう。


大人になるにつれ、自分に素直になれなくなる。なにかに縛られる時間が多くなる。

それなら、大人になんかなれなくてもいい。そう本気で思った。


前ほどではないが、今でもあのころに戻りたいと思う。

この泣きそうになり、胸を締め付けられる感覚。

私はまるで、あの夏に恋をしているみたいだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 激しく同感します! 僕も高校生ですが、15歳の頃が一番楽しかった。 バスケ部でしたし。(優勝候補と言われて、一回戦敗退しました・・・) これからも頑張って下さい、次回作楽しみにしています。 …
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