作家との小噺
突風が吹いたらあっという間に飛んでいきそうな家がぽつんと建っていた。
小さな少年が乱暴に戸を開ける。
「ああ。また来てくれたんだね、ナギ」
「・・・売れねえ作家が死んでねえか確かめにきただけだ。」
「だから売れないんじゃなくて売らないの。」
「つかまだ書いてんのかよ。」
「もちろん。ぼくの一番の楽しみだからね。」
「風流のある文章、だろ?」
「わかってるじゃないか。」
「耳にタコができるぐらい聞いた。」
「ははは。」
「ふん。」
ナギ。
年齢は14~16ぐらいの少年である。
彼は旅をしていた。
そして、もう一人の男。
アキ。
作家である。
ナギ曰く売れない作家だ。
だが本当は売らないだけである。
アキには、ひとり息子と若い妻がいた。
妻は息子を抱いてから2週間と経たずに病気で亡くなった。
ひとり息子のイチもアキの名を呼ぶことなく、妻とおなじ病気で亡くなった。
彼らの会話はゆるゆると続く。
「・・・また戦争がはじまったって。」
「・・・そうか。」
「ばかだよなあ。敗戦した国がどうなっていくのか、しっかり見てるはずなのにさ。」
「・・・そうだな。」
「・・・あんたは、他の国に逃げないの? ここも、じきに戦場になるかもしれねえんだぞ?」
「逃げるつもりはないよ。ここには今まで育ててきた野菜もあるし。」
「・・・イチがいるからだろ。」
「・・・そうかも知れないね。」
「なあ。イチはあんたが死ぬことを望んじゃいねえと思うぞ。」
「はは。いやなことを言うね。ぼくだって、まだ死ぬ気はないよ。」
「・・・ここに残るのは死ぬのと同じだ。」
「なんだ、ナギにしては珍しく心配してくれているのかい。」
「んなわけねーだろ。なんであんたみたいなじじいを心配しなきゃいけねえんだ。」
「・・・じじいって・・・。ぼくまだ30前半なのに。」
「ふん。」
「・・・ナギは相変わらず、まだ旅を続けるのかい?」
「・・・ああ。」
「・・・どこかに落ちつく気はないの?」
「ねえな、からっきし。おれには、これが一番合ってる。」
「そっか。ナギは頑固だから、なにを言っても聞かないだろうね。小さいし。」
「んなっ! 小さいは関係ねえだろ!」
「あれ。この前来た時と身長変わってない気がするのはぼくだけか?」
「っうっせえよ! 視力悪くなったんじゃねえの!?」
「そうかも。暗い中で文章を書いてたから。」
「けっ!」
ナギはこの時間が好きだった。
旅の疲れを癒してくれる。
幼いころに親を戦争でなくしたナギにとって、アキは父親のような感じだった。
風がするすると流れる
落ち葉がちらちらと舞う
青い空は、広大だ
時は世界が全盛期をこえた3008年。
人口は、減少し続けいてた。
全盛期と呼ばれていた時期2500年ごろには30億人をこえるほどだった人口がどんどんしぼみ、今では5000万人ほどに落ち込んでいる。
そのため、発展途上国などではすでに無法地帯となっているところも少なくはない。
ナギの住んでいた国も、他国との戦争で負け、無法地帯どころか焼け野原に近い状態になってしまった。
世界は少しずつ、だが着実に、ほろほろと、滅びていた。
それでも、世界は広くて、美しくて、悲しい
ナギサだと、キザっぽいからナギ。
秋が好きだから、アキ。
そんな単純な作者です。
どうぞ読んでやってください。