愛してる
呪われた公爵様と、孤児であり平民でもあるリーシャリは結婚した。
何故ならば、孤児であり平民でもあるリーシャリしか相手が見つからなかったからである。平民にまで断られ、孤児にまで手を伸ばしたのだ。
そして逃げなかったのが、リーシャリただ一人だけだったのだ。
実際に動いたのは国王様だったが、そこまでリーシャリは知らない。ただお金で苦労しない条件で結婚したのだ。
式はなく、教会で署名だけ。この日のためにリーシャリは文字の練習をしてきた。すでに公爵様は記入してあった。
神父による祝福を受けて、リーシャリは、リーシャリ・ロブリンダーとなった。
呪われた公爵様は、クロード・ロブリンダー。ロブリンダー国王の、歳の離れた王弟であった。
孤児だったリーシャリに求められるのは、跡継ぎを生むこと。ただそれだけだった。
立派な馬車に乗り、公爵家に辿り着く。
降りると、執事長が出迎えようとしていた。
そこでリーシャリは思い出す。開くまで待っていることを。それなのに自分で降りてしまったのだ。
「ようこそ奥様。さあ、旦那様がお待ちです」
鞄を持つ執事長にリーシャリは慌てた。
「あ、はい。えーっと」
見様見真似で貴族令嬢がするカーテシーをする。
「あなたに求められているのは、旦那様との跡継ぎを生むことです。さあ、きなさい」
優しそうに見えて何処か冷たい執事長の後をリーシャリは慌て追いかけるのだった。
応接室に招き入れられたリーシャリは、すでにいた男性を見た。
顔が鱗で覆われ、瞼はなく、目は透明な鱗で覆われいる。
やっぱり何度見ても蛇みたい、とリーシャリ
は言葉を飲み込んだ。そしてその変わりに見様見真似のカーテシーをした。
クロードは冷たく言い放す。
「私は子供なんて欲しくなかったが、国王陛下の命令だ」
「あの。何て呼べばいいですか?」
「クロードだ」
「よろしくお願いします。クロードサマ」
にっこりと笑うリーシャリに、クロードは変なものでも飲み込んだような顔をした。
執事長は何処かホッとする。
二人はその日から、ぎくしゃくではあるものの、平穏に暮らした。それは物語ならば、めでだしめでだして終わるかのように。
だが、そうはならなかった。
ある日突然、クロードの呪いが解けたのだ。
周囲は喜び、二人も喜びを分かち合った。
だがリーシャリはふと思った。
自分は不用では、と。
呪いが解けたクロードならば、相応しい貴族令嬢が見つかるのではないか、と。
そう思うとリーシャリは不安になり、そして決意した。
出ていこう、と。
リーシャリは屋敷から抜け出し、遠くを目指した。目指した途中で、妊娠していることに気がついた。
運よく心優しい老夫婦に拾われて、家を借りることができた。
老夫婦はリーシャリを孫のように可愛がった。
老夫婦の家でリーシャリは生むこと決めて、老夫婦は助産師を探した。
「怖いよ。アマリリスさん」
大きくなったお腹を触りながら、老夫婦が探してきてくれた助産師に、リーシャリは弱音を吐く。
助産師は老夫婦とそう変わらない歳だが、現役で、しかも三日前に元気な赤ん坊を取り上げていた。
「大丈夫さ。心配することはありませんよ」
「お願いしますね。アマリリスさん」
長い時間をかけて、リーシャリは、クロードによく似た男の子を生んだ。
老夫婦は喜び、リーシャリは我が子を抱く。
「愛してる」
生まれてくる我が子を愛することを、リーシャリは決めていた。
我が子を抱きしめるリーシャリはまだ知らない。
痩せこけたクロードに見つかり、愛を叫ばれることを。
リーシャリはまだ、知らない。




