交わりの地タナトシェル〜赤き翼の羽ばたき〜
「おい、いい加減諦めて俺の物になれ。客も入らないんだ、今月の銀貨百二十枚なんて払えないだろう?」
帯剣したお供三人を引き連れた駄目駄目ボンボンが喚き散らし女主人さんはとてもお困りです。
席を立って駄ボンボンの前に進みます。
「ご主人、この事だったのですね。こちら銀貨120枚以上の価値はあります。肉団子のレシピを教えて頂くお礼にお渡しするお金、こちらの方にお渡ししますね」
駄ボンボに宝石を押し付けて玄関の方に押し出していきます。護衛には研ぎ澄ました殺気を当て牽制します。
微かに駄ボンにも殺気が当たったようで歯をガチガチ鳴らしながら玄関の外に座り込んでしまったので、護衛の方に早く連れて行くように言って戸をパシンっと閉めてやりました。
『毒を喰らわば、ご馳走様までちゃんとしろ』
愛の神様の聖句に従いこの件は最後までアリスちゃん預かりとなりました。さて、女主人さんに事情を聞きましょう。
戸の向こう側で、喚く声がしますがどうやら護衛の方はそこそこ出来る方のようで無理やり駄ボを連れて行ってくれました。
もう少しで、愛の説得が始まるところでしたのでいい判断です。
「ご主人、出過ぎた真似を申し訳ありません。お話をお聞かせいただけますか?」
口をパクパクさせているご主人に笑いかけ、目の前のカウンターに座ります。
「あっ、ありがとうございます。何からお話しして良いのか?」
とてもお困りの顔で思案されるご主人。かわいいですね…………うん、愛の神様かわいいは正義ですね。
私がご主人の思考がまとまるまで頬杖をついて待っていると、戸が開いて上腕が逞しくなかなかの美形の男性が血相を変えて店内に入ってきます。
「ソフィア、またあいつが来たんだって。大丈夫か?」
どうやらお知り合いのようですね。それにしてもソフィアさんですか、かわいらしくぴったりなお名前です。
「アレン、私は大丈夫よ。この方に助けていただいたの」
アレンと呼ばれた男性は私に頭を下げ挨拶をしてくれます。
「ソフィアを助けていただいてありがとうございます。俺はアレン・タシュル、建築の職人見習いです」
私も席を立ち、ふわりと法衣をひるがえしてお辞儀をします。
「わたくし、愛の神官アリスという旅の者です。神のお導きによりいささかお節介かと取られるかと思いますが、お手伝いさせていただきます」
ソフィアさんにもお辞儀をします。
「神官様、本当にありがとうございます。貴方様の神様に感謝致します」
ソフィアさんとアレンさんが手で丸を作り額に当て軽く会釈をなさいます。この辺りで多く信仰されている大地の女神様の簡易な儀礼です。
私も、もう一度、優雅なお辞儀の後席に付きました。
さて、事情の前にソフィアさんの現状を改善していきましょう。
「ご事情を聴く前にできることを先に致しましょう。ソフィアさんこちらに来て隣の席にお座りください」
ソフィアさんはキョトンとしながらもカウンターを出て、素直に私の前に座りました。
右目に力を込めモノクルを起動します。ソフィアさんの体内を巡る魔力の流れが私の目に映ります。
魔力が濁っており循環が滞っていることがわかります。これは、体内の魔力を浄化して流れをよくする器官の働きが弱っている証拠です。
胸の少し下あたりに両手をかざし私の魔力を強めに放出します。
「んっ、ふぁ」
ソフィアさんの口から吐息のような声が漏れ体をよじらせます。彼女の後ろでアレンさんのゴクリとツバを飲み込む音が聞こえます。
手を離し、立ち上がってみるように言います。
「あれ? なんか足が軽い」
そうですね、魔力が淀んでおり足もむくんでいたのでそれが解消されたはず。でも一番は。
「腰の痛みが無いわ」
腰のあたりは一番太い血流の他、魔力も通るのです。
淀みがなくなりスムーズに流れるようになったことでシコリのようになっていたものがなくなり痛みが消えたのです。
「ありがとうございます」
ソフィアさんが抱きついてくれます。うん、ひとまず応急処置は済みました。次は、根本的な治療です。
と、その前にもう一度あんかけ肉団子を作っていただきましょう。あぁ、涎が出てしまいますね。
絶対おいしいですよ。
アリスの旅は続く〜
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