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悪役貴族は暗殺拳で無双する~原作主人公の成長イベントを全部横取りしたら大変なことになった件~  作者: 石田おきひと


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第2話『vsドノヴァン』

「本当に()るんだな、『出来損ない』!?

 撤回するなら、今からでも遅くないぞ!」


 一時間後。

 夜会の会場にある中庭、少し開けた場所に、俺とガブリエルはいた。

 俺たちの周りは、物見遊山(ものみゆさん)とばかりに詰めかけた貴族たちに囲まれている。


 俺は刃から胴体を守るための革ベストを、メイドのミラというらしいに着せてもらいながら、落ち着き払って返した。


「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ、ガブリエル。

 それより、身につけるのはベストだけでいいのか?」


「なに?」


 眉間にシワを寄せるガブリエルに、俺はいやらしく口の端を吊り上げた。


「おむつも履いといたほうがいいんじゃないか? せっかくのいいズボンが台無しになるぞ」


「な、なめやがって……!」


 激昂するガブリエルに同調するように、観衆たちが噂し合う。

 

「オイオイオイ、ヴァンのやつ死んだぜ」


「ガブリエルの野郎もいけ好かねえが、決闘ならあいつの右に出るやつはいねえ」


「俺、あいつと決闘したことあるけど、半端ねえぜ。まるでこっちの動きがぜんぶ先読みされてるみてえなんだ」


 下馬評通り、原作のガブリエルとヴァンなら、間違いなくガブリエルのほうが強い。

 なにせ、ヴァンが序盤雑魚であるのに対し、ガブリエルは中ボス格。

 特定のスキルを持っていないと、かなり苦戦を強いられる強敵だ。


 具体的に言うと、ヴァンは主人公様が学園に入学してきた直後に絡んできて、決闘でぶっ殺されて即退場するミソッカス。


 それに比べてガブリエルはというと、主人公様が仲良くなったヒロインを奪おうとして、結構だいそれた事件を起こす小悪党ならぬ中悪党。


 独特の立ち絵姿や、戦闘演出の良さと相まって、プレイヤーからの覚えもよく、『VAN(ヴァン)様』などと愛称までつけられているくらいだ。

 

 クソ、どうせ悪役に転生するなら、ガブリエルに転生したかった……。

 まあ、嘆いたって仕方ない。

 与えられたカードで勝負するまでだ。


 俺は身内に用意してもらった細身の片手剣を手に取り、手首だけで振ってみた。

 軽い。鋼でできているはずなのに、まるで木の棒のようだ。

 やはり、ヴァンには才能がある。

 惜しむらくは、それをまったく活かせなかったこいつの気性だ。


(ヴァンは素手のほうが強いんだけど、まあルールだしな)


 設定資料集を見ないとわからないことだが、実はヴァンの得意な戦法は、剣術ではなく徒手空拳。

 それも、『暗殺拳』という特殊な武術なのだが、どういうわけか原作では使われない、いわゆる死に設定となっている。


 公式によると、『ブレマジ』の初期構想では、ガブリエルではなくヴァンが中ボス枠であり、妙にステータスが優遇されているのは、その名残なのだとか。

 

暗殺拳(そっち)のほうは、おいおい鍛えていくとして……)


 今は目の前のガブリエル戦に集中だ。


「では、始め!」


 審判役を名乗り出た、お祭り好きの貴族が号令をかける。

 わあっと周りが盛り上がるが、ガブリエルも俺も動かない。


「どうしたんだい? 威勢がいいのは口だけかな? かかってきたまえよ」


 余裕しゃくしゃくといった様子で、ヒュンヒュンと剣を振るガブリエル。

 こいつの持つ特殊なスキル、それが――。


 俺は何気ない動作で一歩踏み込むと、ベストで覆われた胴体目掛けて剣を突き出した。


 だが、


「おっと」


 ひょいっと半身になるだけで、俺の刺突はかわされてしまう。

 続けざまに何度か斬撃を繰り出すが、全て空を切るばかり。

 まるで、あらかじめ俺の剣の軌跡が見えているかのように。

 おおっと観衆が沸いた。


「すげえ、よくかわしたな!」


「やっちまえー! ガブリエル!」


 応援の声に気を良くしたのか、ガブリエルはキザったらしく観客のほうへ一礼し、俺のほうを向き直った。


「なかなか華麗なダンスだな、『出来損ない』。よく練習したと見える」


「ただの準備運動さ」


 そう言いながらも、俺はガブリエルのスキル――『超回避』の厄介さを実感していた。

 それは、ゲーム的には、回避率が上がり、攻撃を避けやすくなるというもの。


 パーティに攻撃が必中になる『心眼』というスキルを取得したキャラがいないと、まともにダメージを与えることすらできない。


 それがこの世界では、どうやら短期的な未来予知のような形で再現しているらしい。


(しかし、だ。それくらいなら、別に大したことはない。ヴァンなら(・・・・・)


 俺はガブリエルの懐にすっと潜り込むと、


 ヒュン!


 コンパクトな振りでガブリエルの脇腹を狙った。


「おっと!」


 もちろん、当たらない。ガブリエルは飛びのいた先で、ひらひらと踊るような動きをして俺をコケにする。

 周囲から笑い声が起こった。


 さらにもう一発。


「クソ! 食らいやがれ!」

 

 いかにも苦し紛れな大声を出しながら、もう少しだけ速度を上げて、逆袈裟の切り上げ。

 今度は、切っ先がガブリエルのベストから一センチくらいのところを薙いだ。

 剣の風圧で、やつのワイシャツの裾が動いたのを、俺は見逃さなかった。


(よし、実体はある。ならいけるな(・・・・)


「ワーオ! 惜しかったな! もう少しで届いたのに!」


 その後も何度か大振りな斬撃を繰り出しては、呆気なくかわされるということが続く。

 ついに、俺はゼエゼエと息を切らしながら怒鳴った。

 

「ちくしょう、チョロチョロ逃げ回りやがって! 恥を知れ!」


「何を言ってるんだい? 君が遊んでいるから、僕もそれに付き合っているだけだよ?

 ……おっと、失礼。それでも真剣のつもりなのか! あっはっは!」


 ガブリエルの哄笑に合わせて、爆笑が巻き起こる。

 嘲笑の渦の中、ミラだけが俺のほうを心配そうに見つめてくれていた。


(安心してくれ、ミラ)


 俺は心の中でつぶやくと、だらんと腕の力を抜いた。

 ガシャンと剣が地面に落ちる。

 ガブリエルが不思議そうに首をかしげた。


「なんのつもりだい?」


「クソ、もう限界だ。剣が……持てない」


「惨めだな、『出来損ない』! まあ、仕方ないか。ろくに鍛錬もしていないお前が、この僕と対等に戦えるはずがない!」


 俺は悔しそうに顔を歪めながら、荒い吐息を漏らす。


「もういいだろ、俺の負けだ!」


「ダメダメ、決闘のルールを知らないのかい? 

 降参は認めない! どちらかの剣が、相手のベストに触れたら終わり! それだけが終了条件だ」


 そこでガブリエルは言葉を切った。

 

「……しかし、しかしだ。君がどうしてもと言うなら、優しく倒してあげてもいい。どうだい?」


「ぐっ……!」


 俺は歯噛みしたが、やがてひざまずき、両手を組んでガブリエルに懇願した。

 それは、この国においては、最上級の謝罪の意思を示す所作。

 いわば土下座のようなものだ。


「た、頼む。終わらせてくれ……」


「ぷっ、はははは! なんて情けないザマだ! 見ろよ、みんな! これでも貴族か!?」


「仕方ねえさ、ヴェイルハイムは俺たち貴族の御用聞きだ! 誇りなんて持ってるわけがねえ!」


 ガブリエルと観衆が馬鹿笑いを響かせている間に、俺はひたすらタイミングを計っていた。


(まだか。さっさと来い。足がしびれる)


 やがて、ひとしきり笑ったのか、ガブリエルが剣を構える気配がした。


「顔を上げろ、『出来損ない』約束通り、終わらせてやる。痛みを感じる間もなくな――!」


「ヴァン様――!」


 ミラの絶叫が響く中、ガブリエルが猛進してくる。

 野生のイノシシのごとき速度。とても人間業ではない。


 ……が、別に反応できない速さでもない。

 

 ガコッ!


 衝撃音とともに、ガブリエルの膝がストンと落ちる。

 

「……あ?」

 

 わけがわからない、とばかりにガブリエルが間抜けな声を漏らした。

 俺がやったことは単純だ。

 ただ、ガブリエルの突きに対し、立ち上がりざま、奴の顎を下から掌底でかち上げただけ。


 特に、技名がついているわけでもない。

 反射神経と、身体能力だけで、適当に放ったものだが、予想通り効いた。


 俺はグラグラと揺れているガブリエルを見下ろしながら小声で言った。


「お前の『超回避』がただの予知でよかった。動きを予知しても、反応できない速度で殴ればいいだけの話だからな」


「お、まえ……なに、を……」


 事実、ガブリエルは攻撃を霧と化した身体で受け流すとか、当たったはずの剣がすり抜けるとか、そういう超常現象を起こしはしなかった。

 ただ、俺の攻撃を予測して避けていただけだ。

 だったら、付け入る隙はいくらでもある。

 

「要するに――原作のほうが強かったってことだよ、VAN様」


 トン、と剣の先端で胸元を軽く突くと、糸の切れた操り人形のようにガブリエルは仰向けに倒れた。

 完全に白目をむき、失神してしまっている。

 ぽかんとしていた審判が、慌てたように勝利宣言をした。

 

「し、勝者! ヴァン・フォン・ヴェイルハイム!」


 どよどよっと観衆がざわめいたが、やがて、


「マジかよあいつ! やりやがった!」


「すげえ!」


 わあっと一斉に十数人の興奮した貴族たちが駆けつけてきたかと思うと、なぜか俺を胴上げし始めた。

 さっきまで、俺のことをバカにして笑っていたくせに、現金な連中だ。

 しかし、悪い気はしなかった。


「よくやった! ガブリエルの野郎、前から気に食わなかったんだ!」

 

「ざまあねえぜ!」

 

 わっしょいわっしょいと担ぎ上げられながら、俺は次なる作戦を練っていた。


(ガブリエルを倒したって話をしたら、龍老師(りゅうろうし)も俺のことを見直してくれるはず)


 龍老師とは、現在ヴェイルハイム家に滞在している、暗殺拳の師匠のことだ。

 しかし、ヴァンの性格が災いして、ほとんど見切りをつけられている状態のはず。


 このままでは、老師は俺の家を離れ、主人公の家に行ってしまう。

 老師に修行をつけられた主人公は、身体のみならず、精神までもが鍛えられ、どんな苦境にもへこたれない強き男へと変貌する。

 そうなったら、もう手がつけられない。

 それだけは、必ず阻止しなければ。


(そもそも、主人公との決闘イベントは回避できないのか?

 ヴァンのほうから喧嘩売るんだから、俺が余計なことしなければいけるかも)


 そのへんも含めて、今後要検討、要検証だ。


「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」


 いや、いつまで胴上げしてんだよ! もういいわ!

 はよ降ろせ!

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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