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悪役貴族は暗殺拳で無双する~原作主人公の成長イベントを全部横取りしたら大変なことになった件~  作者: 石田おきひと


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第12話『世界に愛された男』

「おっと」


 押し寄せる暴風の渦を、ルークは横っ飛びにかわしてみせた。

 次の瞬間、風の塊が背後の壁に激突する。


 ドガァン!


 轟音とともに、石壁に大穴が開き、闘技場が揺れた。


「おお……!?」


 観客席がどよめいた。


「よく避けたな……」


「ぜったい当たったと思ったのに」


 ガレスは忌々しそうに舌打ちした。


「悪運の強い男だ」


「それだけが取り柄なもんでね」


 平然と身体についた埃を払うルークに、ガレスは矢継ぎ早に魔法を放つ。


「【風の一撃(ウィンド・ブラスト)】! 【風の一撃(ウィンド・ブラスト)】! 【風の一撃(ウィンド・ブラスト)】!」


 ドンドンドン!


 立て続けに大威力の魔法が放たれ、試験場の石畳を穿つ。

 魔法の直撃ではなく、飛び散った瓦礫で攻撃しようという算段だろう。

 だが、


「悪いね。飛び道具の類は、生まれてこの方食らったことがないんだ」


 そのどれもを完璧にすり抜け、ルークはガレスの目前へと迫っていた。

 驚くべきは、やつの身のこなしだ。

 決して速くはないし、効率的でもない。

 だが、()()()被弾しない。


 まるで、安全地帯を無意識に察知しているかのように。


(これが、『直感』スキルの力……!)


 畜生、なんて法外なんだ。

 気がつくと、俺は手に汗握りながら、ガレスを応援していた。


(頑張れ、ガレス! 頼むからそいつを倒してくれ!)

 

「は、はっ! バカが! 懐に入れば、どうにかなると思ったか!?」


 見るからに焦っていながらも、ガレスは剣を抜き、ルークを迎え撃とうとした。

 そのとき。


 バキン!


「「なっ……!?」」


 俺とガレスの声が重なった。

 なぜなら、彼が一歩踏み出した途端、足元の石畳が、薄氷のように割れてしまったからだ。


 何度も魔法攻撃に晒されていた場所ならともかく、ガレスの周辺の石畳は、どれも綺麗なまま。

 ヒビも入っていなかったのに、ピンポイントにそこだけもろくなっているなんてことがありえるだろうか。


「く、おおおおお! 【風の一(ウィンド・ブラ――)】」


 ルークの斬撃を、崩れた体勢のまま防ぐのは不可能と判断したか。

 ガレスは苦し紛れに杖を抜き、詠唱を紡ぎ始めた。


 だが、今度はガレスの杖が、不自然なほど激しく発光し始めた。


「危ない!」


 観客の誰かが叫んだ。

 直後。


 ドガァン!


 ガレスの杖が大爆発を起こした。

 至近距離で爆風を受けたガレスは、全身が黒焦げになったまま立ち尽くしていたが、やがて地面へくずおれた。

 彼の身体に、戦う力が残っていないのは、誰の目にも明らかだった。


 言うまでもなく、ちゃっかり飛び退いていたルークは無事だ。


(これが、主人公補正の力……)

 

 原作でも、不自然なご都合展開は散見されたが、ここまでのものはお目にかかったことがない。

 まるで、どうあっても、世界(シナリオ)がルークを合格させようとしているかのようだ。

 俺は鳥肌が立つのを感じた。


「ガレス・フォン・ブラント、戦闘不能!

 勝者、ルーク・フォン・エーデルシュタイン!」


 しばしの沈黙ののち、思い出したかのように審判がルークの勝利を宣言した。 

 それと同時に、我に返った観客たちが、口々に話し始めた。


「なんだ、今の……!」


「杖が爆発したんだよ! 魔力の暴走だ!」


「そりゃあ、ありえないことじゃないが……今起きるか?」


「石畳も割れてたよな? あれも偶然か?」


 場内が不穏なざわめきに包まれていく。

 そんな中、観客の一人が、ぽつりとつぶやいた。

 

「あのルークってやつが、仕組んだんじゃねえのか?」


 その一言を呼び水に、会場の空気が一変する。

 

「ふざけるな!」


「イカサマだ!」


「ぶっ殺してやる!」


 ガレスに賭けていたのだろう観客が怒声を発し、場内は騒然となった。

 そのうちの何人かはすでに階段を駆け下り、闘技場へなだれ込もうとしている。


(おいおい。これはちょっと、いくらなんでも……!)


 いくらルークでも、この人数に囲まれたら、ひとたまりもないだろう。

 確かに、ルークは俺の倒すべき宿敵だ。

 しかし、こんな目に遭うほどのことはしていない。

 あいつは、ただ運がいいだけだ。

 

 俺はすぐそばの階段に立ちはだかり、押し寄せる暴徒を止めようとしたが、別の場所から男たちが試験場へ侵入してしまっていた。


「が、学園長!」


 万事休すに陥った審判が、リゼットの座る上方(じょうほう)の観覧席を見上げる。

 すると、リゼットは呆れたように首を振ったかと思うと、


「――静粛に」


 短く、そうつぶやいた。

 ただそれだけで、


 ゴオオオオッ!


 会場全体が、猛吹雪のごとき極低温の魔力で満たされた。

 

「っ……!」


 数千人からなる観客たちが、その場に崩れ落ちる。

 今まさにルークへ殴りかかろうとしていた暴徒たちは、失神して白目をむいていた。

 

 直接魔力に晒されなかった俺も、リゼットから発せられた強烈な威圧感に気圧され、思わずよろめいた。


「諸君」


 拡声器のような魔法を使っているのだろうか。

 低く、冷たい声が場を席巻する。

 

「周知が足りていなかったようなので、改めて自己紹介をば。

 私は『凍土の魔女』リゼット・フォン・シュトラール。

 この王立魔法学園の学園長であり――」


 眼鏡越しの緑色の目が、冷淡な輝きを帯びる。


「王立魔法協会が認めた、五人の特級魔法使いの一人だ」


 観客たちが息を呑んだ。

 特級魔法使い。

 それは、単独で一国の軍に匹敵するとされた人物に付せられる称号。

 個人の範疇を超越した権力を与える代わり、国外は言わずもがな、国内の移動さえ制限されるという戦略兵器の代名詞。


 もっとも、その気になった彼らを押し留められる者など、この世には存在しないのだが。


「この試験に不正はない。全ては私の監督のもと、厳正に行われている」


 リゼットは杖を取り出し、手首でクルクルと回した。

 たったそれだけの動作で、会場の空気がどんどん冷え切っていく。


「断言しよう。ガレス少年の杖にも、石畳にも仕掛けはない。

 もっとも、この私の目が、たかがいち学生風情にできる小細工すら見抜けぬ節穴だと言いたいのならば、いつでも申し立てればよろしい」


 リゼットの唇が、三日月型に釣り上がる。


「そんな勇気のある者が、いるとすればの話だがね」


 いるわけがなかった。

 誰一人として声を上げないのを見て取ると、リゼットは肩をすくめて杖を振った。

 すると、途端に会場の空気が軽くなる。

 それでも、観客たちの口は重く、今しがた行われた横暴への苦言を呈そうとはしなかった。


(リゼット……やっぱ半端ねえな)


 俺は知らず浮かんでいた額の冷や汗をぬぐった。

 リゼット・フォン・シュトラール。

『ブレマジ』において、味方NPC中最強の女キャラ。

 あまりの強さゆえに、ユニットとして運用できるのは、とあるボスとの戦闘のみ。

 しかし、その活躍度合いが非常に印象的だったために、人気投票においては、下手なサブヒロインよりも高順位を記録した『攻略不可ヒロイン』

 そのビジュのよさと最強設定だけが独り歩きし、今では新規を『ブレマジ』にハマらせ、さらには『リゼットルート待機沼』に漬け込む誘引剤としても機能しているのだとか。


(リゼットを味方につけられたのは本当によかった)


 もし、マッチング操作を申し出たときに機嫌を損ねていたら、どうなっていたことやら。

 だが、同時に、俺にとっては大変不都合なことが起こってしまった。


 それは、ルークの合格が確定したということだ。

 しかも、他ならぬ学園長リゼットが後ろ盾になるという形で。

 これでは、異議の申し立てようがない。


(……さすがにショックだ)


 俺は椅子に座り込み、頭を抱えた。

 老師による修行。

 ノナの仲間入りイベント。

 薬湯(やくとう)入手と酔拳の習得。

 さらには不利マッチングの強制。


 これだけやっても、なおルークの主人公補正の前には手も足も出なかった。

 間違いない。

 あいつは、世界に愛された男だ。

 

 ひとしきり落胆したあと、俺はすっくと立ち上がった。


(……上等だよ。やってやろうじゃねえか)


 俺は拳を握りしめた。

 主人公補正が強大だということはわかった。

 世界がルークを勝たせようとしていることもわかった。


 ならば。


(俺は、もっと強くなればいい)


 努力、修行、策略を駆使し、世界(シナリオ)の強制力すら上回る力を手に入れれば、ルークを超えられる。


(待ってろよ、ルーク)


 闘技場を後にしながら、将来の宿敵へと心の中で呼びかける。

 これから始まる、長い戦いの序章が今、幕を開けた。


 ここまでお読みいただきありがとうございました!

 ついに満を持して原作主人公の実力お披露目となります! 

 モチベーションにつながりますので、ブクマや☆評価、感想などで応援していただけると大変うれしいです!

 

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