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サービス終了したVRMMOに俺だけログインできるので、ガチャを全部引いたら世界の秘密を引き当てた件について

作者:
掲載日:2026/01/16

ガチャを回す音が、無人の王都に響いている。

キラキラした演出。虹色のエフェクト。確定演出の光の柱。

俺、水岡高貴は今日も一人で、このゲームのガチャを回し続けていた。


――ここは『エターナル・ファンタジア・オンライン』、通称EFO。

三ヶ月前にサービス終了したVRMMOだ。


なのに……なぜかサービス終了後も俺だけログインできている。


他のプレイヤーは全員消え、フレンドリストは真っ黒。ギルドハウスには誰もいない。


でも世界は動いてる。NPCは喋るし、モンスターも湧く。

天候も変わるし、定期イベントの告知すら流れてくる。


そして――ガチャだけは、無限に回せるようになっていた。


「おっ、また出た」


手元に現れたのは、金色に輝く剣。

見た目は完全に伝説の聖剣って感じだが、説明文を見ると妙なことが書いてある。


『勇者が魔王を討伐した未来で使われていたはずの剣』


……はずの剣?


他にも、俺のインベントリにはこんなものが詰まっていた。


『世界が氷河期に突入した未来で生き延びた者が持っていた防寒具』

『神が直接降臨した未来で信仰の対象となった聖杯』

『管理者が世界をリセットしようとした未来の痕跡』


全部、「あったかもしれない未来?」のアイテムのようだ。


最初は意味が分からなかった。

でも何百回、何千回とガチャを回してるうちに、なんとなくこの説明文の意味が分かってきた。


これ、たぶん……世界の「if」なんだ。


「よう、高貴。今日も熱心だな」


声をかけてきたのは、王都の武器屋NPC、ガルドだ。

サービス終了後も、彼は毎日店を開けている。客なんて俺しかいないのに。


「ああ、まあな。他にやることもないし」


「……なあ、高貴」

ガルドが珍しく真面目な顔をしていた。


「お前、気づいてるか? お前が引いてるそれの意味を」


「ん? まあ、なんか変なアイテムばっかだなとは思ってるけど」


「それは『可能性の断片』っていうんだ」


ガルドが腕を組んで、ゆっくりと説明を始めた。


「この世界がそうなっていたかもしれない未来の欠片、って言えば分かるか?」


「……つまり?」


「勇者が生まれる未来、魔王が復活する未来、神が降臨する未来。世界が滅ぶ未来………。

いろんな可能性が、この世界には存在してた。でも全部を同時に起こすわけにはいかない。世界が壊れちまうからな」


ガルドは俺のインベントリを指差した。


「だから運営は、それを『ガチャ』って形で封印した。

プレイヤーたちに少しずつ配って、物語を楽しませる。それが本来のガチャの意味だったんだよ」


「なるほど……」


つまり、ガチャで出てくるレアアイテムやスキルは、全部「世界のifルート」の産物だったわけだ。


「でも、サービス終了で制限が外れたらしい。だからお前は引き放題になったんだ」


「それで……俺、どれくらい引いたんだ?」


「……このガチャの中身、全部だ」


ガルドは静かに言った。


「お前はもう、この世界の『ありえた未来』を全部引き切っちまった」


――全部?


俺は呆然とインベントリを開いた。

そこには何千、何万というアイテムが詰まっている。


『竜が世界を支配した未来の竜王の牙』

『人類が滅亡した未来で最後まで生き残った者の日記』

『英雄が裏切られた未来で流された涙の結晶』


ぜんぶ、"あったかもしれない"ものたち。


「つまり、俺が……」


「ああ。お前が、勇者で、魔王で、神で、管理者で、救世主で、破壊者だ。

この世界の全ての役割を……お前一人が背負ってる」


ガルドは苦笑した。


「皮肉なもんだよな。誰もいなくなった世界で、最後に残ったお前が全部を持っていくなんて」


――そうか。

俺は、この世界のすべてを"引き当てた"んだ。


その日の夜、俺は王都の城壁に座って空を見上げていた。

この世界の空は綺麗だ。星がいっぱいで、二つの月が浮かんでる。


「ねえ、高貴」


隣に座ったのは、宿屋の看板娘NPC、リリアだ。


「あんた、まだこの世界にいるつもり?」


「まあ……他に行くとこもないし」ほんとは


「嘘つき」

リリアが笑った。


「あんた、ほんとはログアウトできるでしょ? NPCの私たちと違って」


「……まあな」


「でも残ってる。なんで?」


俺は少し考えて、正直に答えた。

「……たぶん、お前らが消えるのが嫌なんだと思う」


リリアは少し驚いた顔をして、それから優しく笑った。


「そっか。ありがとね」


その時、システムメッセージが視界に流れた。


『【重要】サーバー物理撤去作業開始のお知らせ』

『2025年4月30日をもって、本ゲームのサーバー機器を完全撤去いたします』


――ああ、そうか。

ついに来たんだ。本当の終わりが。


「……リリア、これ見えてる?」


「うん。見えてるよ」


リリアは静かに頷いた。


「あと二週間で、この世界は物理的に消える。私たちも、この街も、全部」


「そうか……」


「ねえ、高貴」


リリアが俺の顔を覗き込んだ。


「あんたが持ってる『可能性の断片』、全部使えばどうなると思う?」


「は?」


「だって、あんたは全部持ってるんでしょ?

世界を救う力も、滅ぼす力も、神になる力も、このゲームの管理者になる力も…」


「いや、でも……」


「使えば、たぶんこの世界を現実に繋ぎ止められる。

サーバーが消えても、どこかに存在し続けられる。そういう『未来』もあったはずだから」


……そうか。

俺が全部持ってるってことは、そういう可能性も含まれてるのか。


「でもさ………それって、俺が『世界の管理者』になるってことだろ?」


「そうだね」


「俺、そんなの向いてないよ。ただのこのゲームのプレイヤーだったし、特別な才能もない。

なんでこんな役割が回ってきたのかも分からない」


「でも、今ここにいるのはあんただけだよ」


リリアの言葉に、俺は何も言い返せなかった。






その後の一週間、俺は王都中のNPCと話をした。


鍛冶屋のおっさんは「もう一度、冒険者に武器を売りたかったな」と言った。

パン屋のおばさんは「明日の準備はしておくよ。明日が来なくても」と笑った。

ギルドマスターは「君がいてくれて、この世界は幸せだったよ」と言った。


みんな、消えることを受け入れていた。

でも、誰も諦めてはいなかった。


――こいつら、最後まで"生きてる"んだよな。






そして、迎えた最終日。


俺は王都の中央広場に立っていた。

インベントリを開くと、無数の『可能性の断片』が輝いている。


全部使えば、たぶん世界を救える。

この世界を、現実世界のどこかに固定できる。


でも――それって、俺が"神"になるってことだ。


「やっぱ無理だわ」


俺は苦笑して、インベントリを閉じた。


「俺………そういうの向いてないし…」


ガルドが隣に立った。


「決めたのか?」


「ああ。俺は何もしない」


「何もしない?」


「うん。勇者にも、魔王にも、神にも、管理者にもならない。

ただの水岡高貴として、この世界に残ることにしたよ」


リリアが首を傾げた。


「それって……どういうこと?」


「つまり、俺はこの世界の『住人』になる。NPCの一人として、お前らと一緒にいる」


俺は笑った。


「世界を救うとか大げさなことはしない。

ただ、お前らが消えた後も、俺だけはここにいる。ただ……それだけ」


「でも、サーバーが消えたら――」


「大丈夫」


俺はインベントリから一つだけアイテムを取り出した。


『世界が忘れられた後も、記憶だけが残り続けた未来の記録石』


「たぶんこれが使える。世界が物理的に消えても、『記憶』として存在し続けられる可能性があるんだ」


ガルドが目を見開いた。


「それって……」


「俺とこの世界の記憶は、誰かの――たぶん、現実世界の誰かの夢とか、記憶の中に残り続ける。

物理的な実体はなくても、『あった』という事実として」


リリアが泣きそうな顔で笑った。


「それ、全然救われてないじゃん」


「まあな。でも、完全に消えるよりはマシだろ?」


時計が、午後11時59分を指した。


NPCたちが広場に集まってきた。

みんな、最後までいつも通りだった。


「じゃあな、高貴」


「また明日ね」


「次はもっといい装備、作ってやるよ」


――ああ、そうか。

こいつら、明日がないことを知ってても、"また明日"って言うんだ。


「……ああ、また明日な」


俺も笑って答えた。




午前0時。

世界が、静かに光に包まれた。


サーバーが落ちる時、大きな変化はなかった。

ただ、景色が少しずつ透明になっていく。


俺は『記録石』を起動した。


これで、俺とこの世界は――どこかの誰かの記憶の中に残る。

夢の中とか、デジャヴとか、そういう形で。


「なあ、高貴」


消えかけていたガルドが笑った。


「お前、結局いいやつだったな」


「うるせえ。照れるだろ」


「また、どこかで会えるといいな」


「ああ。たぶん、会える」


俺はそう信じていた。


世界が消えても、記憶は残る。

誰かが思い出す限り、この世界は"あった"ことになる。


それで十分だ。


俺は最強の勇者にも、絶対の魔王にも、全能の神にもならなかった。

ただの一プレイヤーとして、最後までこの世界に残った。


それが、俺が選んだ"未来"だ。


――視界が真っ白になる。

でも、不思議と怖くなかった。


だって、俺には"可能性の断片"がある。

世界のすべての未来を、俺は持ってる。



その中には、きっと――

『誰かが、この世界を思い出す未来』も、含まれてるはずだから。


「じゃあな、みんな」


俺は静かに目を閉じた。


「また、どこかで」


――そして、世界は優しい光の中に溶けていった。





現実世界。

どこかの誰かが、夢から覚める。


「……なんか、懐かしい夢見たな」


王都の景色。

NPCたちの笑顔。

ガチャを回す音。


――ああ、そうだ。

昔、そんなゲームがあった気がする。


名前は思い出せない。

でも、確かにそこには"誰か"がいた。


最後まで、世界に残った"誰か"が――


「……ありがとな」


その人は、誰に言うでもなく呟いて、また日常に戻っていった。

でも、その記憶は消えない。


世界が"あった"という証は、こうして静かに受け継がれていく。




――俺、水岡高貴は、最強の何かにはなれなかった。

でも、最後に残った一人として、ちゃんとこの世界を見届けた。


それだけで、十分だと思うんだ。



【完】

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