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最後の審判

真紅の朝焼けと、グレゴリーのような悪魔が、窓の前の二軒向こう、アパートの上から、こちらを見下ろしている。

この景色が、特にと言って、不思議じゃないのは、そんな事を実感するに至った、経緯の所為(せい)。割れた鏡の向こう側で、誰かが手招きする気配を感じて、鏡に近づいた。


「最後の審判が始められる」


肌が粟立(あわだ)つのを感じる。

なにかに試され裁かれるのだと。すぐに想像が拡がった。

鏡は、間髪入れずに、次の言葉を映す。


「モーセの墓に、物申すか、或いは、涅槃(ねはん)かを選べよ」


鏡の向こうに、冗談の気配なぞ、(つゆ)とも感じない。

どちらか一つ。

だが、どちらを選んでも、私は、きっとここで死ぬと決まっている選択でしかないんだろうと予想はつく、

いや、本能で、危険を察した。

3つ目の選択肢を選べば、或いは、どれも選ばなければ、恋人は、眠ったまま死ぬ。

そう次いで、告げている。

自分の命が、どんなふうに終わるか。想像はつく。

恋人の命も、どんなふうに終わるかも、視えてしまう。

足が震え、絨毯(じゅうたん)の上すら、危険に満ちているかのように、立っていられず、

私は、混乱の中、泣き叫んだ。

恋人の心臓は、止まっているのだろうか。

恐ろしい想像を掻き消すよう、駆け寄る。

肩を揺すっても、起きる気配もない。

呼吸を手のひらで、確かめた。


息をしていない。


「やめて!やめて!お願い!ねぇ!」


心臓に必死で押し付けるように、手をあてがう。

何も返ってくる音がしない。

「モーセの墓か、涅槃か」


なにかの意思が、動悸の強い思考に直接、流れ込んでくる。


私は、答えを出していない。でも選べないのも、見抜かれていると悟った。


「やめて!ねぇ!やめて!」

私が殺してしまった。

どんなに、走馬灯を描いても、代わりに死ぬ事は、できない。

なぜ、なぜ、なぜ。

これがやり直しが利くゲームじゃないのは、痛いくらい理解できてる。

悲しくて、怖くて、叫んだって、戻らない命が目の前にある。

記憶の視界が暗転する。そして、ひとりぼっちになった。


記憶が二重にある。アパートから程遠くない実家へと逃げ込んでから、絶えず続く。

最後の審判の日。

今日は、逃げ出した日の翌朝。二階へ向かう階段に積まれた古新聞を漁る。

異様な4ページのお悔やみ欄を見つける。

新聞は、3日分。死者数は1日にして、3ページである。

三日間の記憶がないだけなのか。判断ができなくなっていた。

不安な気持ちで、自宅に戻り、ベットに塞ぎ込んだ。

前方に気配を感じ、伏せた顔を上げると、壁しか無いはずの目の前に、リビングが映った。

居るはずのない父親が、リビングのソファに座り、私の今いる部屋へ入ろうとする母親の姿を追っている光景が広がった。

白昼夢。すぐ気付いた。それを見た途端、わかってしまった。

死んだ父が他にもチラと映る家族と笑い合っているのに、私はそこに居ないということ。

そして私は、誰にも見つめられる訳もなく、あの家で、ただ理想の家族の肖像を見て、

心が遠くから震えているだけの、他人だったということを。








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