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私の中のカウンセラー


ほどなくして、私は、真夜中にカウンセラーへ、今までの経緯を整理したい旨を告げ、白い扉を、二回ノックした。

こんばんは。どうぞ掛けて。と、促したかと思うと、私を待たず質問をした。

「あれから、自殺願望についての質問がしたい。リフレインするものの結論というものは、何かあるかい?」

話したい本題からは、逸れると思いながら、必要性を感じる、その質問に、どう話したい事を絡めるか考えながら、まとまっていた思考を手繰り寄せた。

「結局、自分のほんとう。を、受け入れてくれる場所は、はっきり言って、どこにもない。

たった一人、居ればいい方。全体に負け続けた人間は、完璧であろうとする。

そして、全体に、受け入れられる事、これを悲願にする。

でも、完璧であろうとするが故に、誰も信用できない思いが伝わり、鼻に付く行動が、誰の目にも明らかとなって、誰にも受け入れてもらえなくなる。何より、自分が自分を受け入れてないが故の行動だからこそ。と、今では纏まっていますね。」

話すのは、しばらくぶりなので、多少、距離感を察しながら、自然と敬語になる。

「結論が出せたのは、成果だね、しかし、自殺願望というのは、減っているか、増えているか、どちらかな。」

「回数は、減ったけど、慢性化している気がします。」

「最近、調子は、どう?」

昔、医者にこの言葉を言われる度、返答に困った。

大した深い話を繋げていいと、思えなかったからだ。でも、病院歴が長い今は、違うんだと分かるようになった。

「彼氏が、借金を隠していましたし、人格障害でした。」

端的に言うと、カウンセラーの目は曇り、眉は、微動に困惑を押し殺していた。

「そうだったんだね。借金と、それに、人格障害か。借金は、人格が?」

「はい。大まかなものは、本人と思っていた別人格のようでした。」

「それは、難しい問題だね。」

確信に触れない返答のオウム返しの意味が、やはり、昔は違和感があったが、技術的な事だと、本で知ってからは、冷静に、分析して、返答する言葉が見つかるようになる。

患者としては、プロかもしれない。ある程度の対処療法は、試して、何が今、自分が必要とする事かも、洗い出す事までは、できる。私には、ただ、解釈が重要なんだ。

何度も、何度も、過去を咀嚼して、自分を改め直して来た自負があった。

ため息までは、出さないまでも、何だか、苦笑してしまう。

その苦笑に、諦めや危うさを感じたように、カウンセラーは、続けた。

「君の中で、答えが出たのに、更に、問題が浮上したけれど、君の自殺願望の慢性化を手伝っているのかな。」

「若干は。でも、今は、事を片付ける方が先かと。なので、彼のお父さんに、連絡を取りました。返済についての相談と、場合によっては、自己破産かと。費用次第では、弁護士を、頼むつもりです。」

「そうか。君と借金は、関係がないように、思うけれど、それについては、どうかな。」

「これは、情ですね。放っておく方が、心配です。」

「そう・・・。彼氏は、何て言っているの?」

「まだ、話せていません。すごく深く眠っているそうです。何年か前から。他の人格は、父親を怖がっているみたいで。彼自身もでしょうね。だから、外界やお義父さんとのパイプは、

私しかいませんね。」

「なるほど。そうか・・・。君の気持ちとしては、今の自分に、納得している?」

「事を片付ける、それのみ、ですね。片付いた後も、特に、離れる事は、考えていません。

もう、二度としてはいけない事を伝えて、携帯のキャッシングに繋がるネット関連のアプリは、ロックができる機能のアプリを使う事で管理、ですね。財布や通帳は、棚に鍵がある場所に閉まって、鍵も隠しましたし。対策としては、必要な事をしているので。」

「うん、うん。対策をして、できうる限りの事を、相手にしていて、君は、君の精神を守れそう?」

「父親に、精神複雑骨折みたいな状態にされても、今まで、生きてましたし、虐める奴らへの殺意も、自力で降ろしているくらいだから、今回の事で、壊れる事は、無いです。

信用とか、疑いとか、どちらも無くなる事は、無いと思うけど、無いからこそ、正常じゃなくても、平常、なんじゃないですかね。」

「平常。」

「だって、みんな、そんなもんでしょう? 正常な人間が耐え切れない場面でも、平常を保てたら、乗り越える事ができるくらい、人って、不安定で、アンバランスで、必死で、ヤジロベエみたいに、バランスを取ろうと、綱渡りする生き物と、私は思ってますけど・・・」

論理的な解釈より、感情を聞きたがっているのは、分かる。でも、私の感情には、何も起こっていなかった。意外と言うより、納得していた。

過去かつてが、散々な目に遭いすぎて、振り子が壊れているんだから。

今あることの方が、対処がひとつ決まっていて、何より、一番世界で信頼している相手あっての事だった。裏切られた、と片を付けるのは、短絡的すぎやしないかとさえ思う。

正直、自分が、ここまで、理性的でいられるのも、不思議ではあったが、その原因や意味より重要なのは、私が、彼を尊敬する部分が、崩れていなかった事だった。

彼の人間性に覚える、不思議な安心感を、今ここで、説明するのは、無理だった。

彼を見れば、誰だって、分かる事なんだ、そう思っている。

みんな、彼を擁護したくなるはずだ。私に対しては、親になろうとしたり、上に立とうとしてきたり、人の性格まで、直そうと試みてきたり。うんざりだ。

彼が羨ましかった。完全に理解を示すって言うのは、彼に対して、在る言葉なんだと思う。

私は、一体、何の為の生き物なんだろう。

調教したがる人たちの喧騒を逃れても、彼を見てると、まざまざ考えさせられる。

終わりたい。

嫉妬なんて、したくなかった。

くだらない感情で、彼に、当たりたくもなかった。

少し考える仕草の後、カウンセラーが言った。

「僕も、そこに在る鏡に、君と同じ現象を目の当たりにさせられた。君は、それを解決したいかい?」

「すぐでなくとも、理由や起こった意味くらいは、最後に着地点が欲しい、ですけど。」

「これまで、話してきて、玲くんは、自分を追い込むタイプだと、僕は、感じるんだけど、どうかな?」

「答えを急ぐと言う意味でしょうか?或いは、私が、生き急ぐように感じますか?」

「居場所を制限されて、周りに、急かされてきたように、感じるよ。」

何の感情もないのに、涙が流れた。

もう、振り切るしかなかった過去を、誰かが悔いる事が、私の欲しかった返答であると、気付かされた気もした。

「今、私に必要な、治療って、何ですか。」

「僕は、カウンセラー。話を聞く事が、仕事。でもね、道筋を改めて、君が解釈を僕に委ねるんじゃなく、君自身が、さっき僕が言った答えに、辿り着けなければ、君は君を許せないと思うな。患者が、手繰り寄せたり、寄り分けたりしていく対話の中で、自分で答えを見つける道筋をつけるのが、僕の仕事だからね。」

「・・・・・ですよね。」

少し落ち着けても、また課題が出る。カウンセリングとは、そう言うもの。

自分で自分を許すとか、愛すとか、どうしてこうも、難しいのか。

でも、そうする事でしか、前に進む行動にも、自分の真実にも、至らない。

足掻いて、そこで止まってしまうか、沈殿している事に、甘んじて、人に過去の不平をぶちまけて、関係を壊すか。或いは・・・、そこから脱する答えとして、自分の納得いく物を手にできる為に、全ての執着を手放して、踏み出すのか。

荷物は、自分にしか持てない。誰にとっても、その人の荷物が困難では、ある。

そんな事で、悩まないのかもしれないし、けど。

複雑に入り組んだものを詰めた鞄は、誰の手にも負えない。

自分だけが、耐え得る荷物。

そこで立ち止まろうとも。持っていられるから、持ってきた、こだわり。

本来なら、誰かに、相談するのも、場違いかも知れなかった。

それでも、対話の中、違う価値観を持った相手、共有できる相手と、糸を紐解きながら、軽くしていく作業。それが、カウンセリングというものだ。

魔法のように、カウンセラーが、ペンライトを揺らせば、催眠療法されて、無事解決というわけじゃない。

「まぁ、時間はたくさんある。有限でありながらも。僕も、君と同じ時間の長さを持てることは、安心して欲しい。」

「人格だから?」

「やっぱり、分かってたのか。」

「そりゃね。家に知らない本が累積してたり、帰り道の記憶が、毎回なければ、考えてはみるよ。それにさっき、鏡で同じ現象があったと言ったし、やっぱりなぁ、って。」

「うん、もう来るのは、やめるかい?」

「無料でカウンセリングができるなら、いいよ。」

「言うねぇ。」

「久しぶりに、学者肌の人と話せたから、楽しかったよ。」

「そうか、それは良かった。」

「ありがとう。多分、また来るよ。先生は鏡に、布でも掛けた方がいいよ。」

「忠告、痛み入るよ。」

軽く笑いが起こった。

「煩わされないでね。じゃあ、また。」

パタン・・・・・、

ドアを閉めると、私は、また目を閉じた・・・・・


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