吸い殻
最近、朝起きると、タバコの箱から、数本、タバコが失くなっているのに気付く。
灰皿を見ると、吸い殻が、二、三本、一口吸っただけのものが、入っている事があるのだ。
「勿体ない。」
シケモクを手にとり、火を付ける。火消しが雑だったんだろう、吸い殻は中途半端にくねっている。少し唾液を吸い込んだ其れは、かなり、不味い味が、した。
こういうとき、大抵、犯人は一人しかいない。
「また、裏人格かぁ。めんどくさ。」
(何だ、またか。)
頭の中で、同年代の男の声がする。副人格のアキラだ。
「まただよ。一体、人の睡眠中に、ヤニ摂取して。中途半端に眠い。」
(俺でも、知覚できないからな。様子見るしかないだろ。)
「二、三本は貴重なのに。遠慮ないったら。」
(だけど、今お前、一箱半は、吸うだろ?)
「減らせないからなぁ。買わないだけで、服がいくつ買えるか。」
(お前の母親が、冗談で勧めなきゃ、世間で肩身の狭い思いなんぞせんのになぁ。)
堂々巡りの会話をする内に、シケモクは吸い終わり、灰皿に、還って行った。
(カミサマ、とやらでも、呼んで、裏人格の正体でも聞いたらどうだ?)
「まぁ・・・言わないよね。あの方は。」
(取り敢えず、呼んでみろよ。)
「いいけどさ・・・別に。」
ため息ひとつ吐いてから、身体の余分な力を抜く。
神経が一つになるよう、集中し、息を吐く。最初に降りて来た時の事を思い出し、イメージする。
ヒアラ・・・・・・・
ふっと、口元が笑む。抜いたはずの力が、まだ抜けていない箇所があると知覚できるほど、余分な力の全てが抜けて、不思議な安心感が、身体を包んだ。
「なんだい?」
私の口を伝い、神様と呼んでいる、ヒアラが現れる。
いきなりだけど、質問をぶつけてみる。
「裏人格って誰?」
「君の燃え滓だよ、悩む事じゃない。」
「タバコの燃え滓まで、増やすから、溜まったものじゃないんだけど。」
「勝手に吸われるのかい?」
「うん・・・・・」
「少し好きにさせてご覧。無理に縛りつけない方がいいよ。」
「それは・・・、アドバイス?」
「うん。何か、問題があるのかい?」
「お金が勿体なくて。」
クスッとヒアラが笑う。
「君がタバコを吸わなくなれば、吸わなくなるよ?」
「そういうものかなぁ?」
「物理的に、とも言えるし、気持ち的にもね。」
どうやら、思うようにするのは、諦めるしかないようだ。
「分っちゃいたけど、分かりたくなかったかも。」
「それは、どういたしまして。」
アハハ、と、声を上げて、ヒアラが笑った。
「他に聞きたいことがあったんじゃないのかい?」
「私は、何も持たざる者、なのかな。」
「それは、どういう事だい?」
「皆、私を変えようとしてくるし、私自身の興味には、関心がない。私は、主題になることはなくて、副題ですらない。大事に思われるって、難しい。」
「自分自身を主体として、大事にされる事が、ない。と、言いたいんだね。」
「うん・・・。」
「本当にそうかい?いつも君の願いは、一つだったよ。誰か、たった一人、自分を理解してくれるなら、他に何も要らない。って。本当に、誰も、居ないかい?」
「丞・・・が、居る。」
「そうだね、まず、その一人を、大切にする事だよ。そして、自分をころころと、人の思うままに、変容しない事だ。」
「うん・・・・・・。」
「愛し子よ、君は、眩い。懸命に生き、賢明であれ。」
「ありがとう。」
「僕から言えるのは、これだけだ。君だからだよ。」
深く目を閉じ、降りて来た気配は、上へふつと、気配をなくした。




