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加我身

家族には、養ってもらっている恩があった。負い目だった。

発言権は、成人するまで、無かった。

必要な物を買ってもらう事も、

私を必要としない彼らにとって、負うべきじゃない義務を果たしてくれている、という意識が働いた。だから、「いくらしたんだ?」と買った物の、値段を聞かれるたび、「要らない私の為に、金をかけた」というメッセージを受け取っていた。

習い事は、一生の失敗だった。「お前の為に、金をドブに捨てた」と、父親に言われ続けたからだった。この家族に、馴染む為に、一体、どのくらい途方もない時間をかけるのかと、心休まる日々は、皆無だった。

ある日、自室に、両親が来て、

「反抗期は、許さないから。わかったな。」と、笑顔で言った。

この話は、成人して、しばらくして、主治医や、カウンセラーに言ったら、呆れていた。

でも、その焦点が、両親に対しての、呆れと言うことに、ある種、ショックを受けた。

私にも、権利があったんだと、眼から鱗だった。

躾と言うものが、昨今、揶揄されているが、それはもう、「飼育」に近いのではないか、とさえ、思う。

自分に対する態度が、喩え、そうであったとしても、親が我が子を愛さなければならない理由や義務は、本当は、ない。自分が、親を愛せない時期があるように、親に愛情という義務は、ない。責任も、強いて言えば、無い。

けれど、自分が、家族になった以上、付き合い続ける事、慣れて、うまくやっていくことは、求められる。職の様に、家族を変えることは、できない訳だ。だからこそ、過程という檻に、誰もが、もがいたり、苦しんだり、拒否反応が出たりするんだと思うが、そう、愛するという義務は、発生していない。強要される暴力を、互いに課す事は、無いわけだから、法的根拠として、制定もなければ、人として最低限扱う事しか、求められている範囲はないのだ。


誰も居ない家で、鏡を見ることが習慣になった。

鏡だけは、自分を見つめ返していた。

問うと同じことの問いかけだけが返ってくる。

大体は、それに飽きて、鏡を見なくなるんだろう。

でも、予測できることしか言わない、その事が、自分にとっての救いでもあった。

鏡をイマジナリーフレンドとして、自分は、歓迎していた。

それがいずれ、予測できない答えを返すようになるなんて、思っても居なかった。


「鏡という字の成り立ちは、学校では、教えないんでしょうね。」

フレミングの法則の逆手をしながら、晴明が、鏡越しに、私に、話しかけた。

やがて、足が赴いたのは、電話台の前のメモ帳の前で、そこから、晴明が、私の手を使い、

字を書きながら、講義が始まった。

「鏡という、発音は、『神』『我』『身』という字で構成されていました。

我を写し、神と交信する為の、神器だったからです。

しかしながら、諸説色々あるようです。

『加』『我』『身』−・・・。つまり、我を、その窓に加えて、身を写すからだ。と、解釈した方々もおりました。ところで。『私』という字の成り立ちについては、ご存知でしたでしょうか。」

聞くまでもなく、知らない。黙っていると、また、自然と手が、文字を描き始めた。

「『私』という字こそ、字の成り立ちの真髄と、私は思うのですよ。

鏡と似ていますが、『我』を『足す』―・・・。それが、『私』という字の、基礎の成り立ちです。しかしながら、これもまた、諸説色々とあり、私が、祝詞で、あなたに読んで欲しい時の、発音、ですが。こう書きます・・・・。」


手は、滑らかに、字を書き始める。


「『輪』、『足』、『子』?」

意味を測りかねている。わかるようで、分からない。つと、晴明が講義を続ける。

「輪の中に、愛される子、つまり。自分を足すのです。」

益々、分からない。

愛されてもない自分を足すことはできないじゃないか。

「何を言っているの?足されない子だっているのに・・・。」

半ば、反発心だった。

すかさず、晴明は、話を続ける。

「自分で、自分を。愛してから、足す、という意味です。愛せないならば、いくら、発音したところで。何も。この世に、足されることのないままの命です。

自分を誰かに表明するということは、権利を公使します。その為に、自分を愛せない人間は、主張すらできない。そういう、成り立ちです。無論、発音だけ、真似して、紛れる人間も、少なくは、ないですけどね。

まぁ、あなたが幾ら、愛そうとなさらずとも、あなたは、神の子、光の子と、敬われておいでですよ。」

「どこが、どう、そういう事になるのか・・・私には、理解できない。」

「あなたが、あなたとして、生きておいでの、限りは。実に、優秀ですよ。」

冷たくて、意味深なものを、感じるが、それは、私には、違和感と、異物間でしかない。

晴明が言う、「優秀」と言う言葉だけが、妙に、引っかかる。

所詮、晴明の言う、基準を満たした、道具としてしか、見られていない気になった。

少し、溜息をついて、私の授業は、その日、終わった。


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