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邂逅

父親の夢を、久しぶりに、今朝見た。

実家の書斎で、父親が、私に、嬉しそうに、話しかけた。

「今やっている商売で、応援している文具があるんだ。」と言う。

付箋のパッケージを取り出し、そこに書かれていた文字が、やけに記憶に鮮明だ。

「Men’s lib」(男性解放運動)

朝。目覚めてから、意味を改めて調べた。


つまり、男性による、ジェンダー平等を目指す運動、だという。

簡単に例えるならば、時代と共に生まれゆく男子変容体系の生存権主張運動。


父親らしからぬ考えを一瞬、垣間見たようで、鼻で笑ってしまう。

まさか、と。

男尊女卑の、あの父親の目指すところって、何だ。

レディースデイよりマンズデイなんぞ、曜日に埋め込みそうな荒ぶる昭和の男神なのに。

つまるところ、ジェンダー平等を、女性からの抑圧に男性権利を主張する運動。って事か?

けど、途端に、そう笑っていられもしなくなった。

調べてみれば、1400万年後にはY染色体がなくなり、男性がいなくなって、人類が絶滅する説があったりしたし、ニュースは、しばらくすると、L G T B Q+を取り上げ始めた。

神の祝詞降ろし何かをやっているせいで、親父が予言を置いてきたりした事がある。

親父の現在の職業が、神の右腕らしく、「右神」って敬称らしい、って事。

父親のお付きが言うには、私が「左神」として、父親の制御を担う役割が約束されている。

父親は、右神の権限をフルに使って、天国に専門学校を作ってしまったらしい事。

天国には、通貨がないのに、職業の概念があるという事。

まさか死んでまで、上で、働き続けるのかよ、と思ってしまうが。

私には、「近江一族に気をつけろ」っていうから、家紋のルーツや先祖を調べてみると、今の滋賀県で藩が所有していた土地の関係を、見受けられたりもした。


晴明からの、修行の勧めは、入院前の実家療養の時期以来、ぱったり止んでいる。

一体、私に、何をさせたい。

何も答えが、分からないまま、現実の痛みを紛らわす為に、注いでいた日々だった。

「誰かを死なせたい時に、語尾につける仮名は、重要な意味を持ちます。

死ね、という言葉自体、死が寝付く(根付く)事を結ぶ、という意味を含みますが、時期的な事を付け加えないと、効力を発揮するものではないのです。

付け加えたからといって、即座に効力を発揮するものでもなく、根付くという事は、願いを地上に降ろしているけれど、神を介さずに行う発音なので、そもそも、叶いません。

そういう時は、「願い、払い、下げ渡される。」という語句で、即座に打ち止めされています。」

すぐに死んでほしいと、誰かに願う事は、多かった。が、大抵、時間がかかっている。

まぁ、そういう時は、頭の中で、何重にも、殺しているが。

そういう想像を働かせる事自体、左神にも、向かなければ、サイコパスとしか言い難い。

変わった人間に、育ったものだ。長く息を吐きながら、目を閉じる。

誰かを脳内で、殺害する度に、口元が緩んだ瞬間が、思い出される。

憎んだ感情が、腹にストン、と落ちて、火種を燃やし、パチパチと火の粉を上げる。

多分、祝詞降ろしより、「呪」に一番向いているのが、私という、人間なのだろう。

そんな大それた人間が、四十八願を打ち立てた前世なぞ、あるわけがないのだ。

何かに、言い聞かせるよう、思いの蓋を閉じた。


ふと晴明の気配を感じて、話を逸らす為に、気になっていた事を訊いた。

「ねぇ、神様って、皆が信じられる姿で、全ての国に現れていただけだったりしない?」

彼の一瞬の笑みが、私の表情筋に伝わり、頬が上がって、口角が笑んだ。

「よく、気付きましたねぇ。まぁ、諸説いろいろありますが、人は見えないものほど、信じたように、見るものですから。」

カウンセラーが言っていた言葉を思い出す。

「昔は、白黒テレビだったろう? その頃の、人々が見る夢の景色は、白黒が大概で、赤い花が一輪、鮮明な夢を見た、なんていったら、不気味だ、とか、気がおかしくなった、なんて言われていたよ。今みたいに、鮮明に、フルカラーで見えるようになったのは、カラーテレビが、普及するようになってからなんだよ。幽霊は、日本では、一時期を境に、足がなくなったんだ。何故か。足のない幽霊の掛け軸が出回ってからだよ。自分の思ったように、人は、物を捉えようとする。目を凝らす事が、真実から遠ざかるのだとしても、だ。」


目を凝らす事が、真実から遠ざかる事だと知りながらも、人は、信じたい姿を様々に見て、敬称を付けた。人が、安心する為には、写実から受ける事実より、主観を交られる、写真が見たいのと似ている。印象という生き物は、ファジーにできている。

その代わり、結論を曖昧にしているから、多角的に、視野で捉えようとする出来事もある。

「トラウマ・・・か。」

幼稚園は、星組だった。ピンクのフェルトの星が、クラスの目印に、ぶら下げてあった。

毎回、ピンクの扉を引開く事が、億劫だった。

朝、園に来たら、出席シールを手帳に、自分で好きなのを選んで貼る。

そして、どこからともなく、「おはよう」の合図と共に、背後から、ふくらはぎに一撃。

そして、肩に二発打撃。

暴力は、シールを貼り終えるまで、続く。身体が、硬直して、うまく手がシールを貼れない。

刈り上げた髪に、前髪だけ垂らした男の子が、私をニンマリと見つめて、今日も暴力ができた!と、嬉しそうにしている。先生も他の子も、気付かないように、立ち回っている。

褒めてくれと、言わんばかりに、私を笑顔で見つめてくる。

正直、それは、恐怖でしかなかった。

誰にも言えなかった。

その内、スカートは、着られなくなった。

アザだらけの脚は、悲鳴をあげていて、少しでも、打撃が和らげと、ズボンを選んだ。

(淡い桜色は好きなのに)ピンクも大嫌いになった。

痛みを思い出す以前に、記憶が気絶する瞬間は、何度もあった。

人間の心理が読み取れず、対処しようがあろうか。たかだが4歳だぞ。

その内、年長組だった、その子は、卒園して行った。

スカートを履く事、弱いと思われた自分を、許す気には、成れそうも無かった。

自分の性に失望する、第一の門をくぐった。


みんな、優しさに触れたくて、母親に手を伸ばす。

その内、それは、与え返されるだけの義務を負う事になる。

みんな、理由や権利を欲しがる。

幾度となく、繰り返される失望に、根拠なんていらなかった。

理由もなく、私へした仕打ちが、些細と思っている出来事が、

全て事実だと言うなら。

それを事務的に片付けていく日々に、生きている価値なんてなかった。

生きる意味と、生き甲斐は、似ている。

生きる手段と、生き抜く術ばかり長けていても、虚しくなるばかりだった。

みんな、誰かと、心を通い合わせたい。

それが、取捨選択を人に当てはめていくような、姑息な自分との対話が始まっても。

理想は簡単に、捨てられない。

誰かと話して、傷つくたびに、また、思い起こされるものだから。

他罰か、自罰か、無罰か。

人は、自分にとっての、楽を、遂げている。









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