鏡の正体
今日のカウンセリングで、多分、最後になるし、最後にしていいと、彼女は言い残して、
ドアの向こうに去った。
自分以外は、誰もいない、この診察室には、彼女のファイルの束だけが、机に積み重なっている。ここは、彼女以外、誰も入れない、彼女の精神世界の診療所。
今日の出来事も、その内、その束の一つになるであろうな、などと、感慨深くなっていた。
目の端に映る、姿見が、この部屋で、やけに家庭的な木目で縁取られて、何の意図があって、
私が赴任する以前からあるのかは、知らなかった。ふと目をやる。
何か揺らいだものが写ったように感じた。
不似合いな自分の口元の笑みに違和感があり、頬の皺が、寄ったであろう部分に、手をやり
伝わる感触で、背筋が凍った気がした。
鏡越しの、何かが、私を捉えたまま、口火を切った。
「さぁ、会話しようか、先生。」
見えない何かは、語りかけ、その都度、僕の唇は、震えた。
だから、今、私は彼女の手を通じて、これを書いている。
最初の幕引き
茜空が広がる病院の屋上で、山々と湿地だけが広がってる。
昔ここに、精神病棟が立つなんて、誰も思いがけなかった。
立地的には、逃げられないようにする意味も込めていたと思う。
寂しさを誘う景色に、鶴が舞い降りた。
記憶を置いて行けず、抱えたとしても、捨てるタイミングを見計らいながら、
謎を解くように、
ワンオンリピートした、一つの曲のように、繰り返す命を運び続ける。
私たちの幕引きがあるのなら、きっとこの人生を終える時、
最高の形で、収穫があると信じてる。
晴明が幕引きに一言添える。
「貴方は鏡になろうとしていましたが、成功していますよ。こうして、私たちを映してる。いつもね。」




