フラッシュバック
最後の審判の前日に、姿見は、狐の子ども二匹が、魂魄を食わせろと煩くて、叩き割った。
その日の夜、何かの集会が鏡の前に、その気配を憑依させるかのように、私の手を使い、
壁時計を降ろさせ、鏡の前の絨毯に、平行に起き、近付けると、ヒビ割れが少しずつ、下から、パチパチと音をたてながら、修復している様子を見せたのだった。
彼氏は、私の横に座っていても、座りながら、寝入っていたから、証人にはならない。
私は、その集会で、「悪魔の花嫁」について、教えられた。
その「花嫁」は、悪魔の眷属の中で、第3番目の子どもで、幼少時期から、地下に小部屋を与えられ、あらゆる性被害の地獄絵図を見せられ、そうして「淫魔」にならぬよう、箱入りとして、閉じ込められていたそうだ。
オブザーバーとして、私に、彼女を講義して欲しいというのだ。一体何の為に?
かと思えば、私に、音楽をやれと言う者もあった。
突拍子のない、まるで無謀な発想だと思った。でも、彼らにとっては、何かの思案があった様子は見受けられた。それをする事によって、実体を持たない彼らが、住みやすくなる、と仕切りに、繰り返し言う。
霊感の強い数少ない友人が、霊的に降りてきて、久しぶりに自宅で霊感を介して話した事もある。私を伝う感覚の其れは、友人である、彼女の其れに似ていたし、まるで、笑う時に使う筋肉の微細な動きさえ、彼女であると、認識できた。扁桃体に伝う声も、彼女の声に、変わったし、疑いようも無かった。
最後の審判から、怖くて、心細くて、裸足で実家へ逃げていき、母の鏡台に、初めて付き合った人の名を仕切りに呼んで、自分が未だに、その人を忘れ切れていない事実に、ただ、打ちのめされた。彼氏が死んでしまった事を認めてしまっていた。 自分が、燻ったものに、蓋をし切れていない事と、最後の審判で死んでしまったであろう、彼を、一番に据えられなかった事実なのだとしたら、自分は、ただのエゴで彼を選んでいたのだとしたら、何遍謝ろうとも、帰って来ない彼に、何の別れを告げた事になるだろう。
泣きながら、鏡の前で、へたり込むと、「牛車が来ている」と実家の二階から飛び降りさせようとした誰かの声に抵抗して、部屋から出ようとする私を、何かが押し倒した、その瞬間、
光る龍が体に一直線に走った。ラジオアプリで民営の霊能者とコンタクトし、それが若い龍がした、浄化行為だと教わった時に、何かが、コトリと音を立て、事実を置きに来たと確信した。
実家の仏間で、祖母の銀杏と紅葉の漆塗りの箱と、箪笥から出てきたアレキサンドライトの指輪で誰かと婚姻する儀式をした時、右足が嫌がって、左足と合わさらなかった事で、その儀式が中断した夜、姉の花嫁衣装の黒地に色とりどりの花模様が施された着物が箪笥から出てきて、それを着て、キッチンの鏡面に立てと言われたりもした。
そうした後、誰かと話していた事も、おぼろげに思い出している。
これはしたく無かったが、実家にある、札という札を結局、全て剥がした日の事も、多分、自分の輪郭を外し、世界との境界線を無くして、色んなものを呼び込んでしまった元凶だろう。入院中、視聴覚室でYouTubeを開いて、アーティストの動画を見るたびに、彼らを片端から降ろして、会話して、きっと幻覚の一種だと、気に留めなかった時、ある1人のアーティストに、近々結婚する相手の名を、机に指文字で書いていて、少し記憶が蘇って、テレビで本当に結婚した事を知った。一般の女性と聞いてはいたが、ふとした時、ネットでその女性の名を知ったが、いつか机で書かれた名と同じだと気付いた時、少し身震いがした。
4、5歳の頃、家族と紅葉狩りに行って、走り去ろうとする車の後ろを、銀狐が必死で追いかけて、自分の意識に彼が、本当の親になるべき人だった事を悟った事を思い出す。
母親を産んだ後の祖母が、稲荷神社の潮来卸に、妹の運命を占ってもらう為に、境内を上がる途中で、産後の体に、狐が入り込んでしまい、精神病等に入れられた事も同時に浮かぶ。
だが、家を飛び出した日の記憶が二日分ある。
一つは、最後の審判で、彼が死んでしまった、あの日の朝。
もう一つは・・・、彼に髪を切ってもらおうとして、彼が、ケープの代わりに、プラ袋の首部分だけ割いて、腕を通せない状態の、その袋を頭から被せて、身動きが取れず、不安なまま、彼が取り出したバリカンを鏡越しに見て、何か嫌な予感がして、プラ袋を外し、何かを感じて、彼の携帯を取り出し、S N Sを介して、私の母親に、何度かコンタクトを取っているのを知った瞬間、全て何かに裏切られたような思いがして、そのまま夜を飛び出したんだと、思い出した、その時。
変わった人間だという、周囲の評価は、好ましい其ではなかった。
害鳥を見る目であった、周囲の眼差しを受けながらも、
人間観察だけは辞めず、絶えずその眼差しと協調し、自分にケチをつけて、
人間の好きな鏡にさえなれば、人間は自分を認めてくれる。そう考えて、
人の写し鏡になる事を良とし、自分の中で自我を亡くして往く事に、
何の躊躇いも、絶望もなかった。
だがそれは、幽霊のように、扱われ、蔑まれ、益々、存在価値を周囲に認めてほしがるような、浮いた悪目立ちの結果を招いた。
父親と姉は、私を軽視していた。母親と弟は、私を厄介だと異物の様に扱った。今も、それは変わらない。
リフレイン・・・・、リフレイン・・・・・リフレイン・・・・・
全ての直感から来る行動のツケが私を不幸だと、嘲笑う限り、何も信じ得られないのだと、悟ってしまった気がしたのだ。
死ぬっていうのは、案外、計画的にやらなければ、脆く崩れやすいのは、何度か試したから、知っている。そういう時、誰に別れを告げる事で、成功に導きやすいかも、知ってる。
ねぇ、Lu.死んだら私を迎えに来て。私にとって、心地よくいられたのは、あなたの闇だけ。
きっとあなたの居る場所に、泣く事など、今以上に、無い筈だから。
ねぇ、晴明。私にとって唯一の友は、貴方だったように、思う。
神様になるより、貴方に認めてもらえた日々が、何より嬉しかったよ。
もう二度と、会えなくなるね。
ずっと、庇ってくれて、ありがとう。
・・・・・・・さよなら。




