第6巻 第1章 第2話 「作品公開、そして広がる波紋」
発売当日の朝。
蒼月トウカは、いつもより少し早く目を覚ました。
窓の外は穏やかな快晴。
けれど胸の奥では、嵐のように心臓が鳴っていた。
「……今日、やな。」
机の上には、完成した『回帰引き継ぎ ― 桜魂の継承者 ―』の見本誌。
淡い桜色のカバーに、自分の名前――“蒼月トウカ”が印字されている。
ただ、その下に“福田朋広”の名はない。
「……この名前で、どこまで通用するかやな。」
呟く声は、緊張と覚悟の入り混じったものだった。
その時、スマホの通知音が鳴った。
画面を見ると、編集の伏見美琴からのメッセージ。
> 【おはようございます!
> ついに発売日ですね。反響がすでにSNSで出始めてます!】
「……もう?」
寝起きの頭が一気に冴える。
急いでSNSを開くと、トレンド欄に“蒼月トウカ”の名前が躍っていた。
> 『新人作家のデビュー作、想像以上の完成度!』
> 『泣ける、読後感が凄い』『キャラのセリフが心に刺さる』
> 『これ、本当に新人? ベテランの筆致やん……』
――嬉しい。
けれど、どこかで“心臓を掴まれるような”ざわめきもあった。
「……福田の文体に似てる、か。」
そんな呟きもちらほら見える。
しかし、そこに悪意はなく、ただ“敬意”のようなものを感じた。
インタビュー記事の依頼メールも早々に届く。
ニュースサイトの記者がこう書いていた。
> 『“新人離れした構成力と情緒表現”。
> まるで、かつての福田朋広氏の再来だと感じました。』
「……やっぱり、そうなるか。」
小さく笑いながら、トウカは椅子にもたれる。
窓の外を見れば、桜の花びらが一枚、ゆっくりと舞っていた。
その瞬間、扉がノックされた。
「トウカはん!起きとるんやろ?ニュース見たか!」
勢いよく入ってきたのは桐生さくら。
寝巻き姿のまま、スマホを握りしめている。
「見た見た。朝からテンション高いな。」
「当たり前や! ウチら、ようやったで! この物語、みんなのもんやもん!」
「……そうやな。」
さくらの無邪気な笑顔に、胸がじんと熱くなる。
彼女だけでなく、他のヒロインたちもすぐに集まってきた。
桔梗が髪を整えながら笑う。
「まったく、朝から騒がしいこと。でも……嬉しいわね。」
紫苑も静かに微笑む。
「ようやく、“報われる時”が来たのかもしれませんね。」
天音がスマホを掲げて叫ぶ。
「トウカはん、ランキング一位やで! 一位!」
「……マジか。」
心臓が跳ねた。
ページ更新ごとに数字が伸びていく。
レビュー、感想、再読――そのどれもが、彼の想いを受け取ってくれているようだった。
トウカはゆっくりと立ち上がる。
窓の外を見上げながら、深く息を吸った。
「――ありがとう。ウチらで、ここまで来れたんやな。」
背後から、誰かが小さく笑う。
「トウカはん、これからが本番やで。」
ふと、男の娘・ユイ(通称:由比)が口を挟んだ。
中性的な声で、いたずらっぽく微笑む。
「うんうん、恋も仕事もここからやろ? 俺ら、見届けるで?」
「……お前はどっちの味方やねん。」
「ウチ? 俺? ふふ、気分次第かな。」
笑い声が響く。
だがその空気の中に、“確かな幸福”があった。
この瞬間、蒼月トウカは確信した。
――作品は、人の心を動かせる。
たとえ、現実と物語の境が曖昧になっていこうとも。
彼は再び、机の上の原稿用紙を見つめた。
次に書くのは、きっと“未来”の物語。
「さあ、行こうか。ウチらの次の章へ。」
そして、画面に新しいタイトルが浮かび上がった。
> 『蒼月トウカ 新連載企画:桜魂 永久継承録』
それは、まだ誰も知らない――新たな“回帰”の始まりだった。




