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第6巻 第1章 第1話 「最終章の執筆、そして始まりの終わり」

――午前4時。


デスクライトの下、蒼月トウカはキーボードを叩き続けていた。

目の下には薄いクマ、机の上には散らかったメモとコーヒーの空き缶。

それでも、彼の指は止まらなかった。


「あと……もう少しで……」


モニターには、“最終章”のタイトルが表示されている。


『第6章 第1話「最終章の序章」』


指が走るたび、過去の記憶が蘇る。

桐生さくらの笑顔。桔梗の静かな微笑。紫苑の導くような瞳。

そして――みんなの「ウチら、ここにおるからな」という声。


まるで、文字を打つたびに彼女たちが背後で見守っているようだった。


「……なあ、さくら。」


ぽつりと呟く。

彼の心の中には、確かに“彼女たち”がいる。

もう会えないはずなのに、なぜか、隣にいるような気がした。


「ウチな、トウカはんの書く物語、好きやで。」


ふと、耳元で囁くような声がした。

驚いて振り向いても、そこには誰もいない。

それでも彼は微笑む。


「……そっか。なら、最後まで見届けてくれよ。」


トウカは深呼吸をして、再び画面へ向き合う。


指が走る。

「回帰」と「継承」を繋ぐラストシーン。

それは単なる物語の終わりではなく、彼自身の“贖罪”であり、“告白”でもあった。


――俺は、彼女たちを生み出した。

 でも、同時に“消す運命”を与えた。

 だから今度こそ、最後まで責任を持って書き上げる。


カタカタと音が響く。

そのリズムは、まるで心臓の鼓動のようだった。


外は夜明け前。

東の空がわずかに明るくなり始める。


画面の文字が、次第に形を成していく。


> “書くことで、彼らは生き続ける。

> 想いが消えない限り、物語は終わらない。”


最後の一文を打ち終えた瞬間、トウカは大きく息を吐いた。


「――完成、だ。」


静寂。

だがその静けさの中に、確かな充足感があった。


ふと視線を上げると、窓の外に一枚の桜の花びらが舞っていた。

季節外れの桜――まるで祝福するように、朝日に光っている。


「ありがとう……みんな。」


そう呟くと、デスクの上に置かれた“桜筆”が微かに光を放った。

まるで、「おつかれ」と言うように。


その光の中で、トウカの姿が一瞬、誰かと重なる。

年老いた“福田朋広”の面影。


彼は微笑み、まるで遠くの誰かに語りかけるように呟いた。


「……これが、ワシの最後の物語や。

 いや、みんなと“繋いだ”物語やな。」


やがて画面には、完成したタイトルが浮かび上がる。


> 『回帰引き継ぎ ― 桜魂の継承者 ―』


その瞬間、外の空が完全に明るくなった。

夜明けの光が、彼の部屋を満たしていく。


まるで、終わりではなく“始まり”を告げるように。

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