第5巻 第2章 第4話「ヒロインたちの願い、そして選択」
夜の桜並木。
淡い光に照らされた七人のヒロインたちは、静かに輪を作って立っていた。
中心には蒼月トウカ。
手には、さっきまで暴走していた“桜筆”が穏やかな光を放っている。
「……これが、あんたの“世界を繋ぐ”筆、なんやな。」
桔梗が静かに呟く。
その声に、他のヒロインたちも順に頷いた。
「トウカくんがこの筆で書いたもんは、全部“現実”にも影響してる。
ウチらの記憶も、感情も、もしかしたら“存在”さえも。」
九条つばめの声は落ち着いていたが、その奥には深い不安が潜んでいた。
トウカは息を吸い込み、ゆっくりと目を開く。
「……わかってる。
これを使えば、たぶん『回帰』の本当の意味が発動する。
でも、その代わりに――今の“この日常”は消えるかもしれない。」
一瞬、誰も言葉を発しなかった。
沈黙を破ったのは、天音だった。
「けどさ! ウチは、それでもええと思うで!」
「えっ……?」
「ウチら、みんな知っとるやん。
トウカくんが“書く”ことでここにおるってこと。
せやけどな、それでも“消えたい”わけちゃう。
ウチは、書かれたまんまでも、もう一回トウカくんの物語に出たいんよ!」
その言葉に、ほのかが微笑む。
「ウチもや。
この世界が夢やったとしても、ウチらの想いは本物やろ?
だったら、消えるんやなくて、“残る形”にしてほしい。」
「残る……形……?」
トウカが呟いた瞬間、紫苑が前へ出る。
その瞳は、どこか達観したような光を宿していた。
「書き換えではなく、“継承”。
あなたが次に書く世界に、ウチらの欠片を残して。
新しい物語の中で、また誰かが“ウチらの魂”に出会えるように。」
トウカの胸が熱くなる。
――“継承”。
それは、消すことでも留めることでもなく、繋ぐこと。
桐生さくらがそっとトウカの手を取った。
「トウカはん、ウチも信じとる。
あんたが書く限り、ウチらの魂は咲き続けるって。」
「……ありがとう。みんな。」
風が吹く。
桜の花びらが、夜空に舞う。
その一枚一枚が、まるで七人のヒロインの想いを乗せて輝いていた。
男の娘――ひばりも、少し離れた場所から笑みを浮かべていた。
「俺も混ぜてくれよ。
俺だって“書かれた存在”だけど……消えるのは趣味じゃないからな。」
その軽口に、場の空気が和らぐ。
笑い声が混じり、夜が少し温かくなる。
トウカは筆を掲げた。
「――なら、みんなの願いを“継ぐ物語”を書こう。」
桜筆の先端が光を帯びる。
それは夜空に大きな円を描き、桜の花びらが無限に広がるような光景を生み出した。
そして、光の中に浮かび上がったタイトル。
> 第6章 第1話「最終章の序章」
トウカが筆を走らせる。
現実と物語の境界が再び溶け合い、七人の声が遠くで響く。
> 「ウチら、ここにおるからな!」
> 「また会おな、トウカくん。」
> 「次の世界でも、書いて、そして――笑って。」
光が包み、世界が一瞬で静寂に戻った。
トウカの前には、閉じたノートと、一本の桜の花。
それはまるで――彼女たちの想いそのものだった。
「……みんな、ありがとう。
今度こそ、最後まで書く。俺の、そして“俺たち”の物語を。」
桜の花が、風に乗って夜空へ舞い上がった。




