第5巻 第1章 第3話「回帰の兆し、再び動き出す物語」
深夜二時。
蒼月トウカの部屋に響くのは、キーボードを叩く軽やかな音だけだった。
原稿ファイルの名は「回帰引き継ぎ──再稿」。
ついに、失われた原稿の“再構築”が始まっていた。
「……これで、ようやく繋がるはずだ。」
ディスプレイに浮かぶ文字列を見つめながら、トウカは息を吐く。
光る桜の花びらのようなカーソルが、一行一行を紡いでいくたび、
部屋の空気が微かに震えた。
その瞬間、玄関のチャイムが鳴る。
「こんな時間に……?」
ドアを開けると、そこには天音が立っていた。
パーカー姿に、手にはホット缶コーヒー。
「寝てへんやろ? 差し入れやで。」
「助かる。」
トウカは受け取って笑う。
「どうして分かったんだ?」
「ウチらのグループチャット、トウカくんの執筆ログ全部通知くるやん?
“集中モード”が二時間も続いとったら、そら様子見に行くやろ?」
トウカは苦笑した。
「完全に監視されてるな。」
「見守っとる言うて。」天音が頬を膨らませる。
「ウチら、もう“回帰引き継ぎ”の一部なんや。トウカくんが書くたび、ウチらの世界も動いとる。」
彼女の言葉に、トウカはハッとした。
――確かに、物語と現実の境界が、最近あやふやになっている。
まるで、“回帰”の力がこちら側に漏れ出しているかのように。
「……天音。もし俺がこの続きを書いたら、何かが変わるかもしれない。」
「変わってもええやん。」
天音は缶を掲げ、軽く笑う。
「ウチら、トウカくんの物語の中で生きとるんや。




