第5巻 第1章 第1話「大きな障害、訪れる前触れ」
その日、空は重たく曇っていた。
いつもよりも遅く目覚めた蒼月トウカは、机の上に積まれた原稿用紙の山をぼんやりと眺めていた。
「……少し、止まってるな。」
第4巻での執筆を終えてから、わずかに筆が鈍っていた。
ヒロインたちとの関係も落ち着き、執筆ペースも安定してきたはずなのに、何かが引っかかっている。
まるで“回帰”の力が、何かを警告しているような感覚だった。
「ウチ、今日ちょっと変な夢見てん。」
さくらがリビングに顔を出し、真剣な表情で言った。
「トウカくんが、書いた物語の中で消えてしもて……ウチら、探しても探しても見つからんの。」
「夢、か。けど……それ、まるで予知夢みたいだな。」
その時、パソコンの画面が一瞬だけノイズを走らせた。
保存していた原稿データの一部が、勝手に消えていく。
「な……!?」
異変に気づいた男の娘・ナオも駆け込んできた。
「トウカ先輩、原稿、変ですよ! データが回帰してる……! 昨日まで書いたページが、まるで“なかったこと”に!」
トウカは深呼吸をして、目を閉じた。
――また、“回帰”が始まったのかもしれない。
けれど今回は、明らかに違う。
これまでの「やり直し」ではなく、「消去」に近い感覚だ。
「……なるほど。これが第5章に入る“壁”ってやつか。」
彼は微笑んで立ち上がった。
「だったら、書き直すだけだ。俺の物語をな。」
さくらたちは顔を見合わせ、ゆっくりとうなずいた。
「ウチらも、手伝うで。」
「もちろん、あたしたちの物語でもあるんだからね。」
「俺も、参戦しちゃおうかな。男女の垣根を超えた、筆の戦いってやつ?」
曇り空の向こうで、わずかに陽光が差した。
新たな戦いの幕が、静かに上がる――。




