第1巻 第3章 第2話「回帰能力の自覚、身体・精神の成長」
椅子に座り直した蒼月トウカは、まだ鼓動が早い胸を押さえつつ深呼吸をした。
「これは…回帰…やな」
チラホラとワシという口調が無意識に出るのは、変身時の名残か。20歳の身体に、59歳の記憶が微かに重なる感覚。
「ワシ…身体が少し軽い…?動きやすい気がする」
振り返ると、ヒロインたちが心配そうにこちらを見つめている。
「ウチ、無事やったし大丈夫やで」
桐生さくらの優しい笑顔に、胸の緊張が少し解ける。
回帰の影響は思っていたよりも大きかった。瞬間的な反射速度、判断力、そして微妙に身体能力が強化されている。
「なるほど…これが回帰の力か。何度も繰り返せば、もっと強くなれるってことやな」
「でも、危険は減ったわけやないし、油断はあかんで」
紫苑の舞鶴弁混じりの冷静な声に、トウカは頷く。
「せやな。慎重に、けど前向きにやらなあかん」
その日、トウカはキーボードに向かい、昨日の出来事を文章に書き起こしていく。
「これを作品に反映すれば、もっとリアルな感情描写になるはずや」
書きながら、自分の成長を文字で確認する不思議な感覚。
「小さな危機やけど、ここから学ぶことは大きいんやな」
男性陣も日常に戻る中で、男の娘が軽口を叩く。
「ほらほら、俺もウチも手伝うで、トウカくん」
男性陣と女性陣を微妙に惑わせながら、場を和ませる存在。トウカは苦笑いする。
「…うん、助かるわ」
日常に戻ったかと思えば、作中作の素材として使える貴重な経験。
「よし、今日の回帰は無駄にせんぞ。次の執筆に生かすんや」
回帰によって得た気づき、ヒロインとの絆、そして新たな意欲。
蒼月トウカの成長は、この小さな事件をきっかけに静かに始まった。




