第7話:「ラング護衛隊、結成だね!」
嬉しいな。今日は、「ラング護衛隊」結成記念日だ。
でも、本当はこわい気持ちもある。キオラスやテオさん、ラナさんに危険が及ばないかな。
狙われているのは僕だけなら、僕が対抗できる力をもっていれば良かったのに。そしたら、キオラスも、みんなも、僕に巻き込まれなくて済んだのかもしれない。
僕も、力が欲しい。
誰かに守られるばかりじゃなくて、ーー大事な人を、僕が守れる力を。
……今はまだ、星を読むことしかできないけど、ね。
いつかは、きっと。
昨日の夕方、キオラスと再会できたテオは、ラングの叔父であるアストラモンド侯爵が暮らす「星読みの塔」に行った。これからのことを相談したかったのだが、アストラモンド侯爵は不在だった。そのため、街の宿屋でキオラスと二人で1泊してから、翌朝に話すことをラングと約束した。
翌朝、テオはキオラスを連れて行こうとしたのに、泊まった宿に彼女は見つからなかった。テオは仕方なく、公爵家に向かい、ラングに事情を話す。快くラングは搜索に加わりたいと申し出てくれて、二人で街の中を探していた。すると、大変身したキオラスと薄紫色のワンピースにポニーテールをしたラナと再会した。
テオは、ラナとは少しの間しか離れていただけなのに、ラナはきらきらしてきれいだったと思った。
ラングは、迷子のキオラスをよくしてくれたから何かお礼をしたいと思い、ラナを星読みの塔に招待することにした。
しかし、ラングは春の昼の日差しに当たりすぎたのか、鼻血を出してしまいテオの作ったスペシャルドリンク(不味い)を飲むことになった。
ラングは鼻血を出したことを恥ずかしがってか、キオラスが手を貸そうかと言っても、首を振って断ったり、明後日の方向を見たりして、キオラスをチラッと見るだけで、挙動不審な動きをしていた。それを見たテオがまた薬を出そうとしていたが、ラナに強く止められた。
アストラモンド侯爵は、キオラスの大変身を絶賛し、ラナに好きなだけ滞在することを許した。ラナも一緒に今後の話を聞くことになった。
「今後はテオとキオラス、そしてラナの三人にはラングを守ってほしい。昨日の襲撃の犯人も捕まっていない。ラングはしばらく誰かと必ずペアで動いた方がいいな」
「叔父様、でも僕、星の観察を……」
「ここで続けなさい。道具も揃っているよ」
「……はい。……ありがとうございます」
アストラモンド侯爵は、ラングの身を案じて善意で勧めている。
「あ、私、賞金稼ぎをしているんで、一人で情報収集出来ます!」
「……オレも情報、集める。……ラナと一緒に」
テオとラナの目線がつながる。
テオは昨日の襲撃で、犯人の目を見ていた。
ーーあの目は、……オレの目の前にいる彼女の、紫色の瞳と、よく似ていた。
ーーラナが、犯人だったらどうしよう。
ーー……オレが一緒にいれば、ラナの潔白を証明できる?
テオは、なぜか胸が、ちくんと痛んだ。
「……そうか。では、二人は情報収集を頼むよ」
「「はい」」
テオの隣に座ってそわそわしていたキオラスが、身を乗り出してラングに笑顔で伝える。
「じゃあ、ラングは基本的にはキオと一緒に行動するんだね! 安心して、キオが守ってあげるからね!」
キオラスの正面に座っていたラングは、まだ大変身したキオラスに慣れておらず、どぎまぎしてるようだった。キオラスは無邪気にこう続けた。
「ふふふ。ラング護衛隊、結成だね!」
「う、うん。……ありがとう」
「それでは、解散。……ラナ嬢は一人残ってもらえるかな。これからのことを話したい」
「……はい」
ラナは小さく返事をした後、テオの方を見た。
テオはいつも通り無表情だったが、じっとラナを見つめていた。そして、おもむろにラング、キオラスの後に続いて廊下に向かった。
(……テオに、“待ってる”って目で言われたのかしら)
部屋にはラナとアストラモンド侯爵の2人になった。昼下がりの優しい春の日差しの中、部屋の空気はどこか凛としていた。
「……君には別の依頼をしていたはずだが、私の記憶違いかね」
「おじ様の記憶は、正しいです。すみません、私の判断ミスでした」
ラナは背筋を正し、淡々と頭を下げた。
「私は君に、依頼をすでに任せているんだが、ーーその全てを遂行することは、可能だろうか」
「はい。全てやり遂げます。お任せあれ」
侯爵は目を細め、ラナの真意を探っているようだった。ラナはいつも通りの笑顔を作って見せた。
それから二人は、この屋敷での暮らし方について、簡単に打ち合わせをした。
話が終わり、廊下に出ると、テオが壁にもたれて待っていた。
「……なんだって?」
(やっぱり。さっきの目配せは“待ってる”だったのね)
テオとの付き合いはまだ1週間程度なのに、言葉がなくても考えていることがわかって、ラナは笑顔になった。
「……テオ、心配して待っていてくれていたの?」
「……!」
テオは照れて顔を背け、外を眺める。ラングとキオラスが中庭に出ていた。
キオラスが「私についてきてね!」と言わんばかりに、先頭を歩き、ラングが後を追いかける姿が見えた。
「短い別れだったわね。またすぐに一緒に行動できるとは思ってなかったわ、テオ」
「……ラナ、オレ……」
テオが何か言いかけた時、侯爵が扉を開けて廊下にやってきた。
「おぉ、どうした二人とも。私に何か用があるのかね」
「! あ、いえ、ラナを待っていました。行くぞ、ラナ」
そう言うとテオはラナの手を握って歩き出した。
屋敷の階段を降りながら、ラナは先を行くテオの手を見つめた。
「ねぇ、いつまで私の手を握っているつもり?」
「!」
テオは、無意識に握っていたので、ラナに指摘されて真っ赤になって手を離した。
「ふふ。……ね、このあとはどうするの」
「え、えっと……」
「ちょっと、何も考えていないの? ギルドに行って、情報収集をしましょうよ、ね」
「……うん」
今度はラナが先頭に立ち、ポニーテールを左右に揺らしながらリズミカルに階段を降りていった。
「……ラナ、オレ……信じているから」
テオはさっき言えなかった言葉を口にした。
気が付くと、ちょうど、ラナが階段の下に着いたところだった。
「ちょっと、テオ! ぼーっとしてどうしちゃったの。早く行きましょうよ!」
ラナは笑顔で振り返り、テオに手を振った。
テオの言葉は、ラナには届かなかったように見えたが、実はラナには、ちゃんと聞こえていた。
ラナはテオの心配を消したくて、わざと明るく振る舞った。
(やっぱり、あの時……なんとなくテオには分かっちゃったのかな。それでも、信じてくれるなんてーー。……これからどうしよう。ねぇ、……テオ)
春の日差しの午後は柔らかく、街は穏やかだった。




