第6話:「女の子の秘密の魔法」
「ラナです! 今回は、キオラス大変身!女の子の秘密の魔法編です!」
「秘密の魔法って、なあに?」
「キオラス、あなたを大変身させる魔法のことよ」
「え、キオ、変身するの!? なら、鳥になりたいな!空を自由に飛びたいといつも思っていたんだよね〜」
「あ、そっちじゃないの。ほら、見て、これとか、こんな感じとか」
「ええ!!! キオ、できるかな?(ドキドキ)」
「それは読んでからのお楽しみ!」
「なんであそこでテオが出てくるのよ! 別れたのは朝だったのに!」
少し離れた海岸線の洞穴で、ラナは黒い服を脱ぎ、地面に叩き付ける。
「ん? テオは薬草とか植物採取が趣味だから、まだどうせ時間を忘れて採取してたんだろうな」
ルシャングは晩御飯を作っている。茶色の髪に赤い瞳。16歳。テオとキオラスが探しているその人だ。
「ルシャング! あんたの弟ならちゃんと教育しておきなさいよね! 私も何度も注意したんだからね!」
ラナはルシャングの向かいに座り、ルシャングから夜ご飯のシチューを受け取る。
「いや、生き別れたのは6年前だから。でも、あはは。ありがとう。いいな。ちゃんとテオはテオのままだ。俺も早く会いたいよ」
ルシャングは小さい頃の弟妹を思い出して微笑んだ。
「……あいつもあんたのこと、探していたんだから、さっさと再会してあげればいいじゃない。なんで姿を隠すの?」
「……今は、まだ。その時じゃない。……それよりもラナ、珍しいな任務失敗なんて」
わざと話を逸らし、しかもラナが反応するように言葉を選ぶ。ラナはルシャングの予想通りの反応を示す。
「だって、あそこでテオが出てきて、しかも、私が選んであげた果物ナイフで参戦するとは思わないじゃない! それに、あんたの妹も何者? 私と剣で互角だったわよ」
「まぁ、キオラスは多分俺たち3兄妹の中でも一番優秀だから、なんでもできる子なんだ」
「なんでもできちゃうルシャングがそれを言っちゃう?」
「いやいや、俺は一人じゃなんにもできないよ。ラナ、君の力が必要なんだ。期待しているよ、相棒」
「……はぁ。仕方ないな。で、次の作戦はどうするの」
二人は夜遅くまで計画を話し合っていた。
〜*〜*〜*〜
「あ、お姉さん、これ、落としましたよ」
キオラスはフェルシアの町を散策していた。緑色の髪をポニーテールにしたふりふりのスカートを履いた綺麗なお姉さんに目を奪われていたら、お菓子の箱を落としたので、拾ってあげたのだ。
「あら、ありがとう」
お菓子の箱は、有名店の物だった。
「その箱って、フェルシア名物の……」
「よく知っているわね! そうよ、フェルシア名物のアーモンドチョコよ。開店して30分で売り切れるシロトの店の。私もさっきようやく手に入れられたの! ね、もし良かったら、一緒に食べない? おひとり様3箱までだったから、まだ1箱持っているのよ」
「え、いいの!! はい! すっごく嬉しいです!! ありがとうございます!」
「私は、ラナっていうの。よろしくね」
「はい! キオラスです!」
「……ちょっと、あなたキオラスっていうの?(うそ、昨日私と戦ったあの子? 全然雰囲気が違うじゃない! 分からなかった! どうしよう……)」
「ラナさん?」
「……め、珍しい名前ね(キオラスって、あのテオの大事な女の子でしょ? 確かに、かわいい……けど)」
「はい! あ、あっちにベンチがあります! んふふ〜!嬉しいな〜!最近いいことばっかり!!」
「何かあったのかしら?」
「はい!離れ離れになっていたテオと再会できたんです!」
「そう、良かったわね(ちょっと、テオと再会したのにその格好なの!?)」
街中の噴水近くのベンチに二人は座る。一緒にいただきますをして、アーモンドチョコを頬張る。
「おいし〜い〜!!!」
「ね、おいしいわね!(……それにしても、この娘、素材がいいのに、女の子らしさが全然生かされていないわ!よ〜しこうなったら……)ねぇ、私、この後ショッピングに行くんだけど、一緒について来て感想を教えてくれないかしら」
「え! キオ、ついて行っていいんですか?」
二人は南の町でショッピングを楽しみ始めた。
最初はラナのものを見ていた。
「ラナさん、何を着てもかわいいし、かっこいいし、何よりきれいです!」
「あら、キオラスもかわいいわよ、どう? 一緒にこれ、姉妹コーディネートしてみる?」
「え! キオもラナさんみたいになれるかな?」
「大丈夫、私を信じて! 私は、女の子をみんな可愛くする魔法を知っているのよ!」
「えぇ! ラナさん、魔法使えるの〜?」
「もちろん、キオラスも使えるようになるわ! ほら、この水色ワンピースを着てみて!!」
「ラナさんは薄紫色のワンピースなんですね! きれい!!」
二人は同じデザインで色違いのワンピースを身につける。
「よく似合っているわ。ね、今日は私の妹として、一緒にこのままお出かけしてくれない?」
「ええ!キオ、お金持ってないから、ダメですよ。それに、テオに怒られちゃう」
「じゃぁ、困った時、私を手伝ってくれない? その帯剣、剣士なんでしょ」
「はい!でも、まだまだ半人前で」
「いいじゃない。じゃぁ、この先、いつかのために今日の分は前借りってことにしておくわ! 忘れないでよね!私の取り立て、厳しいんだからねっ!」
「……ラナさん! ありがとうございます! 大好き!!」
キオラスがラナに飛びつく。素直な愛情表現をされて、ラナは心が温まった。
「ふふ。私も、素直な子はだいすきよ。ね、このあとは、ヘアーセットしたいんだけど、一緒にしようね」
次に、ラナはキオラスのボサボサだった髪を綺麗に切りそろえてくれる美容院に連れて行った。ラナはポニーテールで、キオラスはツインテールにセットされた。
鏡に映る自分を見たキオラスは、目を丸く輝かせて笑顔になって頬に手を当てた。
「……うわ!これ、本当にキオ? 魔法ってすごいね!! ラナさんってすごいね!!」
「ふふ! 気に入ってもらえて良かったわ。私のことは、ラナって呼んでいいわよ。実は、さん付けされるの、慣れてないの。私、末っ子だったから。かわいい妹がいたら、きっとこんな感じなのね。私も楽しいわ!」
「ラナ! だ〜いすき!!」
「あら!今日2回目の『だいすき』ね」
美容院では、二人のやり取りでみんなに幸せが訪れていた。
〜*〜*〜*〜
最後に、二人が街のカフェで休憩している時、テオとラングがやってきた。
「……キオラス、どこにもいないな。いつもならこの辺でお菓子のショーケースを眺めているんだけど」
「……あれ、ラナ?」
テオはラナに気付き、声をかける。
「……あ、ハロ〜! テオ、また会ったわね(やば!そうだった、対象者も一緒じゃん!どうしようかしら……)」
「あ!テオ!ラングも!!」
ラナと相席だったツインテールの金髪の水色のワンピースを着た少女が席を立ち、大きく手を振る。
「え?……」
「ええ!? キオラス!? どうしたの!? かわいい……」
テオは怪訝な表情になり、ラングは赤面して顔を押さえている。
「ふふん。女の子の秘密の魔法よ。見違えたでしょ?」
「……ラナ、本当にお前って……すごいな」
「どういたしまして。もっと褒めてくれてもいいわよ!」
ラナは内心ではハラハラしていた。
(……気のせいかな。テオってば、キオラスを少しみただけで、あとはじっと私を見つめてない?……昨日の襲撃で、正体がバレたのかしら)
ラナはキオラスを見る。キオラスはラングと呼ばれた男の子と一緒に楽しそうにおしゃべりをしている。
(テオのためにキオラスを可愛くしてあげたけど、……失敗だったかな。この調子は、テオの失恋だろうな。テオの大事な女の子は、どうやらテオじゃない男の子に興味があるみたいね)
ラナが冷静な状況判断をしている間、テオはずっとラナを見つめていた。顔が熱くなるのを感じたラナは、ついにテオの声をかけた。
「……ねぇ、ちょっと、いくらなんでも見過ぎじゃない? テオ」
「……? そうか。悪い。つい、きれいだったから」
「! ちょっと、テオ?」
「なんだ」
「意味、分かっていってる?」
「? どんな意味だ?」
「もう! 知らないッ!」
かくして、キオラスはこの日から女の子の秘密の魔法を獲得したのだった。
ラングはこのあと鼻血を出して、ちょっとした騒ぎになった。




