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第4話 ラング 「これが、友達。すごいな、友達って!」

 僕の名前は、ラングシリウス・カエリス・クインテル=ヴェルディア。13才。父はヴェルディア領主。僕は、クインテルという名の通り、五番目の息子だ。しかも、兄たちとは10才以上も離れているため、後継者争いからは生まれた時から除外されて育った。まぁ、僕も興味なかったし、才能も備わってないから別にいいんだけどね。

 僕の興味はもっぱら天体観測だ。

 いくらでもみていられる。


 好きなことがあるのは、人生に彩りを与えてくれる。


 君と出会えて、本当に良かった。


 その夜、僕は、星灯草に願いを込めて空に放った。


 流星群が接近するのは知っていたし、近くの丘に流れ星が落ちていたので、運が良ければ、流れ星の落ちた翌日の夜にだけ咲く星灯草が見つかるんだ。


「……僕のことを大事にしてくれるあなたへ、僕はここにいる。どうか、僕を、……見つけて欲しい」


 届けたい相手と、願いを星灯草にささやく。星灯草の核は勢いよく飛んでいった。


 ……僕のことを大事にしてくれる人なんて、この世界にいるのだろうか。


 僕は生まれた時から兄様たちの足手纏いだった。領主の五番目の、しかも兄様たちとは10才以上歳が離れていたため、領主の継承権争いから除外されて、城の離れにあったかつて天文学で使われていた古い塔で、本や星空に囲まれて育った。

 この星灯草も、今まで読んできた本で知っていた。実際、願いをかけたのはこれが初めてだった。


 ……叶うわけない……よな。


 僕が放った星は、低く港町の方へ飛んでいき、そのまま見えなくなってしまった。


 そんな次の日、僕はキオラスに出会ったんだ。

 キオラスは、いきなり僕を海に落とすは、喧嘩を売ってくるはで、初対面の印象は最悪だった。しかし、4人の兄様の、誰かの策略で僕の護衛はいなくなってしまった僕には、どうしても護衛が必要だった。南の町フェルシアにある星読みの塔で待つ叔父様に会わなければならない。

 僕は、キオラスに星灯草の伝達方法を教えたので、改めて契約書を交わそうと提案を持ちかけた。

 すると、君は笑顔で「そんなの、いらないよ!」と流星群を見上げながら言い放った。

「ラング、すごいことを教えてくれて、ありがとう! キオと、友達になろうよ! 友達なら、契約書なんていらないでしょ? キオ、ラングともっと仲良くなりたいよ」


 僕と友達になりたい? 冗談だろ。そんなこと言う人なんて、今までいなかった。


「ね、みて。さっきの星灯草かな。ん、なんか、違うみたい。『……僕を、見つけて?』」

「! それは、僕が昨日飛ばした……なんで、お前のところに……」

「もぉ! 『お前』じゃないよ、キオラスって名前で呼んで欲しいな! ね、ラング」


 ……僕のことを大事にしてくれるのか、キオラス、君は。


 さっきまで見えていた流星群や星の光が、ぼやけて見えなくなる。

 暗くて良かった。

 初めてできた友達に、涙を見られなくて済むから。


 翌朝、僕たちは南の町フェルシアへ向かった。

 キオラスは、どうやってここまで一人でやってきたのか心配になるほど、ドジでおっちょこちょいで、方向音痴で、目の前のものにすぐ飛びついて、かと思ったら、すぐに木に登って鳥の巣を観察して……と、とにかく、天真爛漫を通り越して、傍若無人なんじゃないかと思えてきた。

「ラング、見て!」

「ラング、これは何かな?」

「ラング、助けて〜!」

 鹿用の罠にかかり、片足を吊り上げられているキオラスを見て、ちょっと悟ってきたら、イライラもおさまった。

 でも、時々、キオラスは本気の顔で、「ラング、この道はダメだよ」って僕に警告する。僕にはよく分からないが、良くないことがあるらしい。星占いでも、同じ結果だから、きっとキオラスは僕たち一般人とは違うものが見える人なんだろう。


 南の町フェルシアは、2日間かけてたどり着いた。

 港町と三方から人や物が集まる賑やかな街だ。昔からある街なので、路地が港町よりも入り組んでいる。

気を付けろよと言う前に、キオラスが迷子になった。全く、もう、護衛だったら契約解除だ!……でも、僕たちは友達だから。

 キオラスと離れて気付く。彼女と過ごした3日間は、僕にとって、「末っ子ラング」でも「非継承権のラング」でもなく、ただのラングでいられた貴重な時間だった。キオラスの言ったことややったことに対して、僕は純粋に心を躍らせ、キオラスの笑顔でどれだけ僕も幸せな気持ちになれたことか。


ーーこれが、友達。すごいな、友達って!


 路地を走り回って探していると、ようやくキオラスを見つけた。何故かキオラスは口をもぐもぐしている。

「……何か、食べてる?」

「うん! 親切なおじさんにお菓子もらった!」

「……はぁぁぁ。キオラス、知らない人からお菓子をもらったらダメだって、教わらなかったか?」

「はっ!! 本当だ、どうしよう。ルシャングに怒られる……」

「あ! なぁ、そのルシャングって、もしかして、茶髪に赤い瞳のお兄さんか?」

「うん! そうだよ! ラングは本当に物知りだね〜! って、え!? なんで知ってるの!?」

「前に、護衛してもらったことがあるんだ」

「キオ、テオと一緒にルシャングを探しているの! 詳しく教えて!!!」

「ああ、いいよ。まずは叔父様が居られる星読み塔に行ってからな」

「やった〜!」

「こら! こんな狭くて人が多い路地でぴょんぴょん飛び跳ねると危ないぞ」

「じゃぁ、手をつないでいてよ。それなら大丈夫でしょ、ね」

「ええ!? あ、ああ。そうだな。それなら……ってうわ!手をつないだまま大きく飛び跳ねるなよ!」

「なんで〜!? ラングも一緒にジャンプしようよ〜! あはははは」

 キオラスが無駄に跳ねたり走ったりを繰り返すので、叔父様の星読み塔に着く頃にはすっかり疲れ果ててしまっていた。全く、本当に、キオラスってやつは。


星読み塔は小高い丘の上にあり、周りに高い木や高い建物はない。南の町フェルシアからどこでも塔が見えていた。

キオラスが迷子にならないようにずっと手をつないで、ようやく塔に着いたころ、キオラスが話す言葉は「……お腹すいた」だけになっていた。


塔の周りには長い高い塀があり、入り口にいくと馬車が止まっていたので、僕らは順番に着いた。

「あぁ、今回は可愛い子供に出会ったよ」

門番と話す、聞き慣れた男性の声に、僕は心が震えた。

「……叔父様!!」

「おやおや。これは珍しいお客様だな。……北の塔のラング様かな、すっかり大きくなられましたね」

 叔父との再会は何年ぶりだろう。叔父様が両手を広げるので、僕がその腕に駆け込もうとすると、それより先にキオラスが叫び、叔父様に抱きついた。

「!! アーモンドおじさま!!! 助けてください! キオ、もう、お腹ぺこぺこ〜! なんでずっと塔が見えていたのに、こんなに遠いの〜!?」

「キオラス! アーモンドおじ様じゃないぞ。アステラモンド叔父様だぞ。……って、なんで叔父様のこと知っているんだ」

「おやおや。君は街で迷子になっていた少女だね。大事な人には会えたみたいで良かったね。フェルシア名物アーモンド月クッキーを気に入ってもらえて良かったよ。中にお入り。たくさん用意しようか」

「はい! お願いします!!」

 キオラスが叔父様をさらに強く抱きしめ、僕は呆然とした。


ーーキオラスって、なんでこんなに人とすぐに仲良くなれるんだろう。


そんなことを考えている僕のことに気付いたのか、叔父様は僕にも手を差し伸べる。

 ちょっと恥ずかしくなって、立ち止まっていたら、キオラスが僕の手をぐいっと引っ張って、僕ら3人は仲良くハグをすることになった。


ーー叔父様に会えて、ここまで来られて、本当に良かった。



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