第3話:キオラス 「きっと、大丈夫! なんとかなるよね!」
初めまして、キオラスです。テオの妹です。
えっと、好きなことはお菓子を食べること、野原で寝っ転がって太陽の光を浴びること、あとはみんなが笑っていることです!
ここでは、テオと別れて行動していたキオのお話をするね!ラングっていう男の子と冒険するよ。お楽しみにね!
今日も、あなたが幸せでいてくれてたら嬉しいな〜!
テオ、キオは一人で港町にやって来たよ。ここからはたくさんの山が遠くに見えるんだね。テオはあの山のどこかにいるのかな。こっちは眼下に広がる海!キラキラできれいだな〜。テオとこんなに長い時間離れることは人生で初めて。いつもどこでもテオがいたのに、不思議な感じ。でも、ルシャングを見つけるためだもん、キオ1人でも頑張るぞ〜〜〜!!!
「やめてください!」
え、なに? 誰かが追われているみたい。どうしよう。きっと、テオなら……。
ーー……助けるぞ!
って言うよね。声のする路地へ行って、状況を確認しなきゃ!
きれいな白いローブに身を包んだキオと同い年ぐらいの身なりのいい男の子が、黒服のスーツの男たちに追いかけられてる!
路地の隙間にはたくさんの洗濯物が旗のように吊り下げられているのが見えて、窓が開いているのに、人影は見えない。やっぱり、キオが助けないといけないよね! きっと、このまま路地は一本道だから、このままこっちに向かってくるはず! ってことは、この紐を解けばきっと……。
「!? なんで、急に服が!?」
「君、こっち! ご近所のみなさま、洗濯物のひも、解いてごめんなさ〜〜〜い!」
キオは、男の子の手を引っ張って、一緒に港町へ向かう。あっちへ行けばきっと人が……。
「僕、人が多いところは困るんだ!」
「! じゃあ、こっちね!! 息を止めてね!!」
走って男の子の手をつないだまま、一緒に海に飛び込む。
ばしゃーん!
はっ! 春先なの忘れてた! ちょっと水温が低いから寒い!!
でも、今は干潮で、潮が引いているから桟橋の下に空間が生まれている。ここを泳いで船に乗らせてもらえれば、と思っていたんだけど、男の子は浮いてこない。
キオはね、小さい頃から海の近くで暮らしていたから、海に飛び込むのなんて遊びの一つだったの。だから、泳げない人がいるって、聞いてはいたけど、本当にいるなんて知らなかったの。
海の中で男の子の体をしっかり抱きしめて、海面に顔を出せるようにしてあげる。キオの想定通り、黒服の男の人たちは街の方へ探しに行ったのか、引き上げていったのが見えた。
男の子は泳げないみたいだから、船に乗る計画はやめて、桟橋へ押し上げる。続けて、キオも上がる。あちゃー、テオからもらった薬草もびしょびしょだ。まぁ、きっと、大丈夫!なんとかなる!
「あ、君は大丈夫?」
「大丈夫じゃない! いきなり海に飛び込むなんて、どんな教育を受けているんだ!」
「ご、ごめんなさい……」
いきなり海に飛び込むなって、確かにルシャングやテオにいつも言われていたような気がする。うう。反省。
「でもまさか、本当に泳げない人がいるなんて知らなくて」
「喧嘩売っているのか、きみは!?」
「ふわぁあ!! き、きれい!!!」
白いフードが脱げて、金髪碧眼のきれいな男の子の顔にしばらく見とれる。
海の水でずぶ濡れだけど、太陽の光が反射してキラキラしていて、すごく、きれい……。キオと同じ金髪碧眼だけど、この子の方が髪は銀髪に近く、瞳の色は朝焼けが終わった直後に少ししか見えない青色みたい。
「……はっ。うんん!全然違う! 追われてたみたいだから、助けなきゃって思って……」
男の子は周りを見渡す。
「……た、確かにアイツらは追い払ってくれたみたいだな。礼を言う。……はっくしょん! さ、寒い……」
「待って。君、手を出して」
男の子は渋々手を出す。相当寒いようで、手は冷たくがたがた震えていた。なんか、濡れた子犬みたいで可愛いなんて言ったら怒られるよね。
「『サマーウインド』! キオはね、実は少しだけ精霊術が使えるんだ。あ、これ、言ったらダメなやつだった。……でも、ほら。もう服も乾いたでしょ」
「……君は、精霊術師なのか? それなら、僕が雇ってやる。契約書を準備するから、こっちへ。護衛の期間は1週間だ」
ん? 護衛? キオが? 1人で!?
「ええ?!」
男の子名前はラングって言うんだって。キオよりも一つ年上の13才。薄い金髪碧眼。すごくきれいな顔立ちをしているの。見とれちゃう。
はっ。ちがうちがう、うっかりサインしちゃうところだった。
「だから、キオは護衛できないんだってば!」
「……わかった。支払額を3銀貨から、5銀貨に上げてやる。これならいいか?」
「……お金の問題じゃないの。キオは、テオと待ち合わせしてるから、約束の日に間に合わせなきゃいけないの」
「……テオって誰?」
「キオのお兄ちゃんだよ」
「家族なの? じゃぁ、家に手紙書けばいいだろ」
「待ち合わせ場所は家じゃないの」
「じゃぁ、飛脚や伝書鳩、通信ペンダントを使えばいいだろ」
「?? なあに、それ」
「……田舎者め」
ラングってば、キオと出会ってからずっと怒っているみたい。どうしたら笑ってくれるんだろう。
「じゃぁ、そのテオってやつに、待ち合わせ場所の変更を伝えれば、僕の護衛をしてくれるんだな?」
「えー……。なんか、ラングってすごく威圧的でこわいなぁ。テオだったらいつも静かで優しいんだけど。だから、キオにラングの護衛は無理かな!」
「……」
怒っていたラングの顔がさらに赤くなった。唇は鳥さんみたいにとんがっているし、可愛い!
それでもきれいな顔で、気合いを入れないとすぐに見惚れちゃう〜。はぁ、きれい……。
「べ、別に……威圧的なつもりはなかった。僕は、いつも、……召使いとしか話さないから。……だいたいいつもこんな感じなんだ。……こわがらせていたら、すまない。許してくれ。……僕もなるべく、静かで、……優しく……したい」
照れているのかな。かわいい!
「うん、分かった。テオに待ち合わせの変更を連絡したいな。それまで、ラングの側にいるよ。ところで、誰になんで狙われているの?」
「! 本当だな! やっぱりなしは、なしだぞ!……あ、ありがとう……」
ラングに手を掴まれる。ラングの目は涙でいっぱい。きっと、心細かったんだろうな。キオもテオと別れた初日の夜は涙でいっぱいだったから、よく分かるよ。一人で頑張ってきたんだね。偉かったね。
ラングから、これからの内容を聞いて、すぐに後悔したけど、まぁ、きっと大丈夫! なんとかなるよね!
早速ラングからテオへの連絡の方法を聞いたよ。
流れ星の夜、運が良ければ流れ星が地表に落ちて種子になって、芽吹くんだって。星灯草は、1日で花になってまた空に帰っていくから、空に帰る前に願いを込めれば、相手にだって届くはずなんだって。
「今はちょうど、流星群の時期だから、夜に探しにいけば、きっと昨日運良く落ちた流れ星が成長して、星灯草が見つかるはずだ。」
夜になって、港町から離れた小高い丘へ向かう。流星群を待つため、丘の上に二人で寝転がり夜空を眺めると、目の前にはいっぱいの星空! きれい!!
「すごいね! なんで流星群の時期とか、星灯草のことを知ってるの?」
「……僕、星を見るのが好きなんだ。あっ……」
「うん、星を見るのが好きなんだね!」
「……うぅっ。恥ずかしい。……なんか、お前といると調子が狂う。ふぅ。……べ、別に、いいだろ。なんの役にも立たないけど、星を見ているときは、自分の悩みなんて小さく感じられるんだから」
「ん? 別に、恥ずかしくないと思うよ。知っていてくれたおかげでキオは助かるんだし、星ってキラキラしてきれいだよね。ラングみたい」
「え……お前、それ言ってて恥ずかしくないのか?」
「べっつに〜。だって、本当のことでしょ!『本当のこと言って、正直に生きることが大事なことだ』っていつもルシャングが言っていたよ」
「ああ、確かに言いそうだな」
「……ん? ラング、ルシャングのこと知ってるの」
「え、キオも知っているのか?」
「だって、ルシャングは……。ん、ねぇ、あそこ! あれ、星灯草じゃない?!」
上体を起こして向き合って話そうとすると、ラングの後ろの方に小さく光っている何かを見つけた。
駆け寄って見ると、ほのかに光る蕾がスルスル開き、十字に交差し合う8枚の花びらの花が咲いた。
「いまだ! 両手で挟んで! 潰さないようにな!」
「うん!」
「相手の名前と、願い事を伝えるんだ」
「テオに、届いて。キオは、南の町フェルシアにある星読みの塔に向かうね。そこで待ち合わせよう!」
星灯草は、あわく光ながら、ぐんぐん空へ登って山の方へ向かって飛んでいった。
「……僕の時と、方角が違う。……そうか、もしかして、僕の願いは……」