第2話:ラナ 「さぁ、行くわよ!」
こんにちは!こんばんは!おはようございます!ここでは、大富豪で緑色の髪に紫色の瞳をもつ宝石大好きな私、ラナがお届けします!
え、賞金稼ぎ? これは、戦後の混乱に乗じて、自分ルールでなんでもやっちゃう悪い人を懲らしめ、捕まえたら賞金が貰えるっていうお仕事よ。まぁ大人の人が多いけど、10歳ぐらいからギルドに登録しておけば、働けるのよ。体を鍛えて、悪を懲らしめ、お金ももらえて、私は14歳だけど、生活には困っていないわ。
昨日の夕方東の町を散策していた時、賞金首を偶然見つけたの。こっそり後を追うと、町の外で待ち構えていた黒い前髪で顔を隠したフードの少年ーーテオがいたのよね。
テオはターゲットとすれ違う瞬間によろけて、隠し持っていた薬品を相手に振りかけたわ。ターゲットは右腕でガードし、すぐ左手でテオに反撃しようとしていたところ、すでに飛び蹴りを準備して空中にいた私に蹴られて、簡単に意識を失った。私はターゲットを縄で縛りながら賞金の取り分をどうしようか考えていたんだけど、気が付いたらテオはすでにその場に居なかった。
「そのあと、すぐに道端で再会したってことで、合ってる? テオ」
「ああ」
「ね、何食べてるの?」
「朝ごはんの代わり。ん」
「ありがとう。……苦っ。ごっくん。……そして、今、私たちはそのターゲットの仲間に捕縛されているってことで、合ってる?」
「ああ。……楽しそうだな」
賞金首を換金したあと、私はホテルでぐっすり寝たわ。それで今朝、馬車に揺られていたら、道端でたまたまテオを見つけて、一緒に乗っていたら馬車ごと拉致られたってわけ。しかも、馬車を運転していた行者も換金所のおじさんも、賞金首の息がかかり、私たちは泳がされて捕まったというわけだ。
「もちろん! イーストレアの近くにアジトがあるのは知ってたけど、まさか、アジトまで招待されるなんて思ってもみなかったから!」
「招待って……。お前が、宝石鑑定や呪われた宝石の解除ができるっていうから、目をつけられたんだろ。オレのことは助手だなんて嘘まで吐いて」
「あら、私を誰だと思っているの。宝石大好きラナちゃんだよ! 機会があるならこの世界の宝石を全て見てみたいじゃない!」
「……はぁ。ところで、呪いの解除ってどうやるんだ」
「え、私にできるわけないでしょ。私は武闘家! 拳士! 宝石の鑑定は出来るけど、解除は無理よ。テオ、呪術師でしょ。朝飯前でしょ?」
「……オレは薬草師」
「……え、だって、あの時の液体……」
「呪いじゃなくて、唐辛子に水を入れたもの」
「え。……じゃあ、呪いは……」
テオと私の目が合う。
ど、どうしよう〜〜〜!?。
地下室の牢屋で話していた私たちに、ついに試練のときがやって来た。
縄を解かれ、アジトの中の商談室に連れて行かれた。天井が高く、照明が長く吊り下げられている。部屋の入り口の脇には、紅葉樹の切り枝が飾られている。部屋の中央には、高級でふわふわなソファーセット。そして、大きな一枚板の杉の机に、箱が開いた宝石箱が3つ並んでいる。
「中にある宝石は、ダイヤモンド、アゲート、エメラルドかな」と、聞かれる前に答えを伝え、先手を打つ。どう、合ってるでしょと、笑顔で商談室の中の一番服装にお金をかけている装飾過剰な服装のボス風の男に視線を送る。男は一瞬目を見開き、私を認めたみたい。男は部下に新しい宝石を持ってくるように指示をした。
次に目の前に置かれたのは、漆黒の木箱。中には、深いえんじ色の台に収まる、ダイヤモンドの形をした黒い宝石のついた小さな指輪が入っていた。
「これは、ディーダ島のエイアンの指輪……」
テオがぽつりとつぶやいた。へぇ、知っているんだ。さっきまでは運賃や値下げ交渉も知らなかったくせに。ちょっと見直したかも。
テオがこれ以上何も言わないから、代わりにボスが話を続ける。
「そう。6年前に忽然と姿を消した小さな島の宝石、影闇エイアンの指輪。もちろん今は、島は沈んで世界に出回っている宝石も数が限られている。そして、この指輪の持ち主には不幸が訪れるという呪いがかけられている」
「知ってるわ。初めの持ち主は、業火に焼かれ、二人目の持ち主は洪水に飲まれたってやつでしょ。でも、呪いの指輪なんて、実際に初めて見るわ! 鑑定してもいいかしら?」
鑑定用の手袋をつけた私の手首を後ろに立っていたテオが急に掴む。
「……ラナ、触るな」
私の耳の近くに顔を寄せ、小声で私にだけ聞こえるように話すテオ。
どういうこと?と目線で話しかける。
「えんじ色の台に劇物が染み込んでいる。指輪の呪いかは分からないけど、鑑定させてそのまま殺す気だ」
ふ〜ん。せっかくこの私が鑑定してあげるっていうのに、そんな態度なのね。あ〜ヤダヤダ、自分のことしか考えない人って。さて、どうしようかしら。商談室は狭く、ボスの男とその後ろに護衛が1人、入り口に1人。ふふ、子供だからって、油断しているわね。
(私が時間を稼ぐから、脱出経路確保お願いね)と小声でテオに伝える。
テオは小さくうなづく。
「ねぇ、私が誰か知っている? ヒントは、緑色の髪に、紫色の瞳。」
「……もちろんですとも。だから、昨夜貴女が一人で居られるわけないと考え、従者を回収するまで待たせていただきました。……セイファルト家の末のお嬢さんですね? ミラナ様。何、私どもは解呪する方法を探しておりましただけで、お嬢さんだと存じていれば、危害を加える気はなかったのですよ」
「ふ〜ん。でも、お父様がお知りになられたらどう思われるかしら。鑑定を依頼したのにも関わらず、えんじ色の台に劇物が染み込んでいるってね!」
私は指輪の箱を持ち上げ、蓋を閉めて、後ろに下がったテオの方へ投げる。ドサっと誰かが倒れる音がした。振り返ると、テオが無言で護衛を足元に転がしていて、箱をポシェットにしまったところだった。テオが箱の代わりに液体の瓶をさっと出して、飾ってあった植物にふりかけると、一瞬にして狭い商談室に甘い香りが漂ってきた。良い香り!やる気が出てきたわ。
「さぁ、行くわよ! 助手くん!」
「……だから、助手じゃ、ないんだけど」
「つべこべ言わない!特別手当出してあげるわよ!」
「……はいはい」
あとはボスとその護衛のみ。もちろん護衛は私を狙ってくるでしょう。ほらね。
私は座っていたソファーから大きくジャンプして、護衛を大きく避ける。そっちはよろしくね、テオ。
長い照明をターザンロープ代わりにして、反動をつけ、逃げようとしているボスの頭上に降りる。その場でスカートを脱ぎ、ボスの目を隠す。前が見えず慌てたボスは私の一撃をみぞおちにくらいそのまま倒れ込む。
「テオの方も終わったわね」と振り返る。テオの足元には2人の護衛が伸びている。幸せそうな顔で寝ているみた。でも、テオは私を見ようとしない。
「? どうしたのよ、テオ」
「おま、さっきスカート脱いでなかった? あ、オレは見てないけど!」
珍しくテオが動揺しているのかしら。馬車の中ではあんなことしてきたくせに。
「あ、安心して! ちゃんと短パンを履いているから!」
「……」
あまりにも静かに倒したので、商談室の外には気付かれていないようだった。
「仕方ないわね。身バレしちゃったし、お父様の力を借りるか」
「……」
まだ半日しか出会ってないけど、無表情に見えるテオだけど、結構感情が顔に出るわね。
ペンダントを3回叩き、しばらく待つと声がする。
「ミラナちゃん? 久しぶりだね。どうしたんだい?」
「あ、パパ? 私。なんか、東の町とイーストレアの近くに、強盗団のアジトを見つけたから、解体をお願い〜。位置情報を送るわね。ここ、だいぶ東の町も手を回しているみたいだから、あとはよろしく! あ、情報料と手数料は、アジト解体で得た30%でいいわ。いつもの口座に振り込んでおいねて! 大好き、パパ! ありがとう」
「……何、それ」
「え、通信ペンダント。石の共鳴を使っているらしいんだけど、脆くて3回使うと壊れちゃうのよね〜。私の国では当たり前だけど、初めて見るの?」
「……うん。通信ペンダントもだけど、お前、何者?」
「え、ん〜。まぁ、ただの武道を嗜む宝石大好きな女の子だよ☆ ところで、植物に何かけてたの? どうして急に甘い香りになったの?」
「……。酩酊めいてい草、別名メーデー草。アルコールにつけると、急に甘い香りになって、眠くなったり、意識が遠のく」
「私たちは大丈夫なの?」
「朝ごはんの薬草のおかげ」
「あ、あの苦いやつ? ふ〜ん。やっぱりテオって、すごいんだね。ちょっと見直しちゃった!」
しばらくすると、パパの部下のヨシーダさんが護衛団を連れてきて、アジトは無事に解体されたみたい。
「……海が見える」
遠くを見ていたテオがぽつりとつぶやく。
「アジトが山の高いところにあるからね。あの山の影が、イーストレアで、あの海はもっと遠くの港町の近くね。遠すぎてここからじゃ小さな青い三角形にしか見えないけど」
私はヨシイダさんから約束のお小遣い(情報料・手数料)をたくさんもらって、テオとイーストレアに向かった。昨日からばたばただったから、ちょっとはのんびりできるかしら。
あ、あとね。
「今日の助手代、特別手当くれるんだよな」
ってテオが馬車で行ってきたときは大笑いしちゃったわ。