第12話「みんなともっと一緒に、居たかった。」
ラングが夢うつつに見たのは、顔を黒いベールで隠した女性が目の前で不気味に笑っている姿だった。
ーー嫌悪感。
ラングは彼女が自分の命を狙っていることを本能で理解した。
目を覚ますと、見慣れない天井があった。高い位置にある窓から、一際明るいオレンジ色の星が見えた。
(……あの橙の光はアークトゥルスだ。いつも塔から眺めていた星だ。つまり東の空だな。時刻は午後九時ごろか)
星を見て方角と時刻を割り出せたことで、少しだけ冷静さを取り戻した。
目が慣れてきて、ここが小さな小さな部屋ーー独房だということが分かった。
支えられて歩いた記憶。
(……僕の存在が気に入らないのは4人の兄様たちの誰か、もしくは全員かと思っていたのに、黒幕が女性だったことは意外だった。……あの人は、ラングの四番目のクアーテル兄様の母君だ)
ラングは犯人が分かり、深く息を吐いた。
(……きっと理由は、四男のクアーテル兄様に確実に領地の継承権を与えるためだろう。兄とは10歳も離れているのに、僕のどこが脅威だったんだろう。もし、話し合いができるなら、僕は放棄したいと考えていると伝えたら、何かが変わるのかな。いや、もう遅いかな)
ラングは、実の母が亡くなった幼い頃から1人で北の塔に閉じ込められてきた。年に4回、叔父が訪れることが唯一の外部との接触のチャンスだった。歳の離れた兄たちとの楽しい思い出は、ない。いつも兄弟同士がいがみあっていたのをなんとなく覚えている、その程度だった。
「”満月が血に染まり闇に奪われる夜に流れる血族の血を飲めば、その者の力を奪うことができる”ーーと、書かれた本が星読みの塔にあるのを見つけました」
唐突に、ラナがいつもと違う冷たい声でクアーテル兄様の母君に話していたのを、ラングは思い出した。
ーー僕たちは騙されていたんだ。ラナがキオラスに近付いたのも、僕に近づくため……。そういえば、キオラスやテオはどうなったんだ。僕がしっかりキオラスの後をついていたら、こんなことにはならなかったのに。
悔しくて涙が目に溜まる。
ーー今頃、二人は僕を探しているかな。それとも、今までの護衛みたいにもう離れて行ってしまって……いや、そんなことはあるはずがない。……ただ、二人が無事であることを祈ろう。そして、ラナが本当は敵だったことをどうにかして伝えないと。
涙で前が霞み、ぼやけてしまう。
月はやがて赤く染まる。その夜、血が必要だと——本に書かれていた。
ラングはこの三日間を一緒に過ごしたキオラス、テオ、ラナのことを思い浮かべた。
--護衛するって意気込んでいたのに、こんな結果になってごめん、キオラス。君の笑い声が懐かしいよ。
……もっと話がしたかったよ、テオさん。植物の見分け方をもっと教えてほしかった。
……どうして裏切ったんだ、ラナさん、ルシャング。ふたりとも、僕と旅をした仲間だと思っていたのに。
……僕は、みんなともっと一緒に、居たかった。
我慢していた涙は、本音と共に止まらなくなり、ラングは声を押し殺して泣いた。
そして、儀式当日を迎えた。




