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第10話「ラングを助けるためのお手伝い」

 テオは、朝ごはんにまたあのまず……健康的な薬草を食べていたわね。薬草師だから、性分なのかしら。私には理解できないわ。

 あと、この紫色の小さな花を付けるカスマグサは、テオといっしょに旅した時に「ラナの目の色に似ている」と言われたわ。「草といっしょにしないでほしい」と言った私に、テオは少し怒りながら「きれいなんだから、別にいいだろ」と口を尖らせて呟いていたわね。

 テオと旅した日はまだ1週間ぐらいのことなのに、もうずっと昔のことのように感じるのはどうしてかしら。

「……眠らせたのか?」

「うん。テオが暴れても、いいことないでしょ。テオは作戦を練る方が得意なんだから」

「……俺の弟のこと、よく知っているんだな」

 ルシャングはラングとキオラスを丁重に麻布の中に入れながら、ラナに話しかけていた。

「……テオは、正直で分かりやすいだけよ。あんた、お兄ちゃんなのにそんなことも分からないの?」

「あはは、ラナは厳しいな。それで、キオラスを連れてどう言い訳するんだ?」

「ほら、あの後継者は金髪碧眼じゃないといけないんでしょ。金髪碧眼のキオラスは、もしかしたら依頼人の息子さんのお嫁さん候補になるかもしれないでしょ。そうなったら、紹介した私には手数料が入るってことよ」

「……いや、俺たちの可愛い妹を、妹が望んでもいないやつに、俺が売り渡すわけないだろ」

「あら、ルシャング、私たちは今、ラングの敵なのよ。ラングを守るものは、キオラスもテオも、今の私たちの敵でしょ?」

「そうだけど、キオラスは……」

「ストーップ! この件は私に任せて。それよりも、早くいきましょう。テオが目を覚ます前に!」

「あのなぁ、俺は……はぁ。……ラナ、本当にお前って……すごいな」

「ほら、急ぐわよ!」


 その場が静かになる。

 テオは実はこの会話をはじめから聞いていた。

 ラナがテオに嗅がせた酩酊草めいていそうは、実は全く効いていなかった。それもそのはずだ。テオは、今朝もラナと一緒に情報収集していた時に朝ごはんの代わりにと噛んでいたのだから、耐性がついていたのだ。

 それを一緒にいたラナが知らないはずがない。

 きっと、「ごめんね、テオ。信じてくれて、ありがとう」が合図だったのだろう。

 テオは、ラナが話していたことを思い返す。


 テオが暴れても、いいことないでしょ。ーー……ああ、暴れるな、ってことか。

 テオは作戦を練る方が得意ーー作戦を考えろ、だな。

 テオは、正直で分かりやすいだけよ。ーー正直に行動しろってことかな。それなら、俺はラナたちの跡を追う。

 キオラスもテオも、今の私たちの敵でしょ?ーー”今は”敵ってことだよな。……あとで味方になるのか?

 テオが目を覚ます前に!ーー起きろって意味だ、な。


 テオは不思議に感じていた。

 ーーラナのこと、信じるだけで、一人でもこんなに力が湧いてくる。それに、あいつはルシャングに話しかけるつもりで、オレにも話しかけていた。やっぱり、ラナは、……すごい。


 テオは離れたところからラナとルシャングの跡を追う。ところどころに、ラナが目印に抜いた小さな紫色の花をつけたカスマグサが落ちていた。

 きっとラナのことだ。「まだ着かないの?」「これ、お茶にすると美味しいのよね〜」とイライラした装いや何気ない姿で、カスマグサを抜いて行ったのだろう。


 夕日に反射して、ラナの髪留めに使っていたリボンが木にかかっているのを見つけた。それは、ここがキオラスとラングが連れ去られた神殿だというラナからのメッセージだろう。


 神殿の周りはお堀があったが、幸い水は流れていなかった。辺りを調査していると、荷車いっぱいに詰められた食品を運ぶ馬車が通りがかった。テオは行者が神殿の者に確認のやり取りをしている隙に、荷物に紛れて侵入することができた。


 馬車が食糧庫に着く前に降りたテオは、神殿の影に隠れた。満月が近く、月の光は強かったが、その分影も濃くなっていた。


 --キオラスやラングは大丈夫だろうか……。

 --ラナはどこにいるんだろう。

 --ルシャングは、離れていた6年間でオレたちの敵になってしまったのだろうか……。


 〜*〜*〜*〜


「はっ!!」

 キオラスは跳び起きた。

「テオ、ラングは? ルシャングがラングを……あれ、テオ?居ないの???」

 キオラスは薄暗い部屋のベッドで寝かされていた。服装も変えられている。

「キオラス、起きた?」

「ラナ! ラングがルシャングに倒されて……。キオも、倒されちゃった。ルシャング、強かった。……ラナも?」

「……キオラス、よく聞いて。テオはあなたを助けに来てくれているわ。もう少し時間がかかるわ。……それまで、ラングを助けるために、お手伝いをして欲しいの」

 ラナはキオラスの質問には答えなかった。キオラスの記憶は、「ルシャングがラングを倒した」ところで、ルシャングに気絶させられたので、キオラスにとってラナはまだ味方の意識のはずだとラナは考えていた。

「テオは無事なんだね!よかった!」

 ラナはキオラスに全てを話せない表情をしていたが、部屋は薄暗く、キオラスには読み取れなかった。

「……ラングを助けるためのお手伝い?」

「そう。はい、これを身につけて!……私たちは、この神殿に潜入して、ラングの敵を探るため、臨時のメイドになるわよ!」

 ラナもキオラスと同じエプロンを付けた服装に変わっている。

「キオラスは、掃除・洗濯・調理・身支度とか、得意なことある?」

「うん!なんでもできるよ!!」


 ぐううぅぅ


 とお腹の音が鳴る。

「ん〜、お腹減っちゃった!でもここ、お洋服もきれいだし、お布団もあるし、ちょっと暗いけど、あとはご飯が食べられたら、すごくいいところだね!」

「あはは!あるよ、美味しいご飯!食べたら早速、臨時メイドとして、一緒にラングの敵について情報収集をやっていきましょう!」

「うん!」

 キオラスの明るさに、ラナはいつも救われていた。


 〜*〜*〜*〜


「君は新しい臨時のメイドかな?」

「はい!クアーテルさま!キオ、キオラスって言います」

 クアーテルの部屋で、お茶を入れていたキオラスが笑顔で応える。

 クアーテルは23歳。肩まで届く金髪を下ろしている。目を閉じているが、顔はキオラスの方に向いていた。

「声がだいぶ若いな。年齢は?」

「12になります!」

「……その若さでどうしてここへ?」

「え、えっと〜……」


 キオラスの中で、ラナが言っていたことを思い出した。

 ーーいいこと、キオラス。クアーテルさまはラングの兄で、目が不自由なの。だから、目ではなく、耳であなたを判断すると思うわ。だから、聞かれたことに嘘をつかずに、でも任務のことは言わずに、正直に、ね。キオラスならきっと大丈夫よ!私は、何か隠しているからって部屋付きメイドにはなれなかったの。でも、厨房のメイドにはなれたわ!側にいてあげられないけれど、陰ながらに応援しているわね!


「……キオの家、貧しくて大変だけど、ここならご飯がちゃんと食べられるからです!あと、寝る場所もあるし、服も綺麗だし!あ!ちがった!!クアーテルさまにお仕えするためです!」

 ーードキドキしたけど、言えた!

「正直でいいな。昔から言うだろう――『The end justifies the means.』」

「あ!それ、知ってる!えっと、一緒に、『Never do evil that good may come of it.』も大事!嘘も方便だけど、悪いことはしちゃダメってことですよね!昔、兄に教わりました!」

「……君は、なかなか面白そうだね。しっかり頼むよ」

「はい!任せてください!」

 キオラスは無事に採用されたが、キオラスの淹れたお茶はこの会話の間放置されすぎ濃すぎて飲めたものではなかった。

 全てが終わったら、ラナに話さないといけないことがあるとテオは心に決めた。


 それはーー


「キオラスは、依頼人のお嫁さん候補に……」という内容についてだ。

 これは、テオもルシャングと同じで、


 ……全く認められないな、


 と寝たふりをしていた時のテオは考えていた。

 なぜならば、キオラスは俺たちの可愛い妹なのだから。

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