第9話:「オレは信じている」
「ねぇ、テオ。もしもだけど、もし、私がテオの考えと違う行動をしたら、どう思う?」
「え、びっくりすると思う」
「……それでも、私のこと、仲間だって思ってくれる?」
テオには、ラナが何か伝えたいけれどはっきり話せないような雰囲気を感じた。それは、小さい頃のキオラスが、うまく言葉にできなくて、でも大事なことを伝えようと必死になっていた姿と重なっていた。
「ラナは、出会った時からいいやつだと思ったし、仲間だと思っているよ」
「……まだ出会って1週間ちょっとなんて、信じられないね」
「……信じているよ。オレは」
テオは無意識にラナからもらったペンダントを握っていた。それを見たラナは、笑顔になり、胸が暖かくなった。
「! ……テオ。信じてくれて、ありがとう。」
--それなら、私もテオを信じるわ。だから、テオ、私を信じていてね。
ラングがさらわれたのは、みんなの油断が重なったからだった。
キオラスは、護衛をしつつ昼飯を買いに出かけ、テオは珍しい薬草が売っていた露店に少し顔出し、ラナは情報をギルドに収集していた、その一瞬だった。
「みんな、お待たせ! 焼き鳥があったよ! あれ?みんな?」
「キオラス、半月草が売ってあった。これを乾燥させれば……ん? ラングは?」
「お待たせ〜! これといった情報はなかったんだけど、気になるのが一つあってね……、あら、どうしたの? ラングはどこに行ったの?」
ラングは、キオラスの後ろをぼんやりと歩いていた。
——皆既月食の言い伝えは、良いものばかりではない。
確か……なにか、捧げ物とか、生贄とか……。
それが何だったのか、どうしても思い出せなかった。考えているうちに、キオラスから離れてしまっていた。
ラングが戻ろうと踵を返した時に、目の前に現れたのは、フードで隠しているが、茶髪に赤い瞳の数日前に見慣れた笑顔だった。
「……よう、ラング。あれから元気にしていたか」
「……ルシャング。……君が護衛を抜けてから、ぼくにもいろいろあったんだ。今日はどうして、ここに?」
「ラングに会いたかったんだ。ちょっとついてきてくれないか」
ラングはルシャングはの横を通り抜けようとする。
「あいにく、僕には君に用事はない。先を急ぐのでこれで失礼す……る」
「そんなこと言うなよ。お前に会いたがっている人もいるんだ。付き合ってもらうよ」
ルシャングはラングの首元を強打し、ラングはその場にルシャングに支えられるように倒れ込んだ。
「待ちなさい!その人をこちらに渡しなさい!」
ラナが道を塞いだ。ラナが一瞬にして全身を張り詰め警戒したことがすぐそばで見ていたテオには分かった。
「ラングを返して!!」
「……キオラス、待て、あの人は」
テオの静止も届かない。キオラスの剣が、風を裂いてルシャングへと振り下ろされた。
——けれど、届かない。
ラングを抱えたままのルシャングが、その剣を難なく受け止めた。
その動きに、キオラスが驚く一瞬。
「……成長したな。けどまだまだだ、キオラス」
フードを外した顔は、六年前と変わらぬ、優しい笑顔。
「……ルシャング……?」
キオラスの動きが止まる。その一瞬、ルシャングは力を入れて、キオラスの剣を真上へ弾き飛ばした。同時にルシャングが持っていた剣をしまい、落下してきたキオラスの剣を左手で受け取った。
「そっちはテオだな。2人とも大きくなったな。6年ぶりか」
「……どうして」
ルシャングはその場にラングを置き、放心していたキオラスも峰打ちで気絶させた。キオラスがその場でしゃがみ込む。その目には涙が溢れていた。
「……ごめんな。どうしても満月にラングが必要なんだ」
いつもなら迷わず飛びかかっているラナが、動かないでいた。テオはその様子に違和感と不安を覚えた。
テオはひたいに汗を浮かべ必死に考え、ラナに小声で話しかける。
「……ラナ、ルシャングは六年前でも、島で一流の剣士だった。二人がかりでも敵うかどうか……。どうした、ラナ?」
「ラナ、戻れ」
ルシャングが突然命令口調になる。記憶の中の優しい兄の声ではなかった。
「ラングの拉致、挽回のチャンスだ」
ラナの表情が変わる。
「……ラナ」
テオは、見たことのある鋭い目を思い出した。あの時の、刺客の目だ。
「……まさか……」
ラナに手を伸ばそうとするテオ。
するりと届かない場所に行ってしまうラナ。ラナは、ルシャングのそばにいく。足元で倒れているラングの両手足を手際よく拘束した。
「……そういうわけだから。ごめんね、テオ」
いつもの明るいラナからは想像もつかない今までに聞いたことのない声だった。その声は冷たく響き、テオの心をえぐった。
「ラナ、嘘だろ。……こんなことって……。オレは信じているって言っただろ」
ラナはテオから目を離さずに、いつもの笑顔を作りペンダントを握る。
「……ねぇ、ルシャング。このキオラスって子も金髪碧眼でしょ、きっと使えると思うの。連れて行っていい?」
「……好きにしろ」
「やった♪」
テオはラナの一挙一動目を配っていた。
「ごめんね、テオ。信じてくれて、ありがとう」
ラナは無造作にテオに近付き、テオのポシェットから睡眠効果のある酩酊草めいていそうに水をかける。甘い香りをテオに嗅がせ、テオはその場で座り込んでしまった。
テオはラナからもらったペンダントを握りしめていた。




