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石の噂

 洞窟から7人ほどが担架で運び出されている。7人とも、顔は布で覆われていて、毛布で体が包まれていた。ジェルを含めて怪我をした人達は集められて簡単な手当てをされた。

「君は大丈夫そうだね。」

 手当てが終わった後、医者が言った。大丈夫と言われた人達は途中から午後の仕事に加わった。

(治療してた時間は、給料から引くのかよ…。)

 事務員に何度か食い下がったが、払わないの一点張りだった。なので、事務所から出てきたジェルはいらいらしていた。

「ジェルさん…。」

「なんだよ。」

 話しかけてきたモルモックにぶっきらぼうに答えた。

「あの…魔物が出たんですか?何人か亡くなったって…。」

「そうだよ…。宝石の甲羅の魔物が出たんだよ…。」

「あの、あの魔物だったら…。」

 モルモックはたいしたことはないのでは、と言おうとした。

「違うんだ!デカイし、足も速いし、宝石を飛ばしてきた!宝石が人の顔にめり込むのを俺は見たんだ!」

「あの…大きさはどのくら…。」

 まだ質問しようとするモルモックを置いてジェルは帰っていった。

 それから2週間、ジェルは週の休みを1日から2日に増やしたが洞窟で働いていた。

ゴゴゴ

 ジェルは身構えた。

(!…なんだ、トロッコを動かす音か…。)

 再びつるはしを握りなおして掘り始める。しかし、大勢が働いている洞窟内は次々と音が鳴る。そのたびに身構えてはほっとしてを繰り返していた。

(…ようやく…終わりか…。)

 ふらふらと洞窟を出て、事務室に金を取りに向かう。

(こんな金…。でも、ここから離れて、行くところがあるのか…?払ってない家賃もまだ残ってるし…。)

「…ジェルさん…。」

 事務所から出てくると、青白い顔をしたモルモックが話しかけてきた。

「どうした?」

「僕は…僕はだめです…。魔物が出てきて…。…僕はもう辞めます…。」

「俺も、そうしたいけどな…他に金を稼ぐあてがあるのか…?」

「ないです…。でも、無理ですよ!稼いだって、あいつが来たら終わりですよ!」

「分かってるよ!そんなことは!」

「じゃあ、どうすればいいんですか!」

 腕をつかんできた。

「知らねえよ…俺に聞くな!」

 腕を振り払って、早足でその場を去った。

 次の日、ジェルが金をもらって事務所から出てくるとモルモックが待っていた。

「ジェルさん!待ってましたよ!」

「…何だ?」

「一緒に、洞窟の奥に行きませんか?」

「洞窟の奥?」

「僕達がいる鉱区には、立ち入り禁止の場所があるんです!そこに石があるんですよ!」

「石?何の話をしてるんだ?」

「同じ鉱区の人に聞いたんです。洞窟の一番奥には白い石があって、その石は人の運命を変え、ジェルさん?」

 その場を去ろうとするジェルをモルモックが追いかける。

「ジェルさん!」

「そんな話を信じたのかよ…。」

「石のかけらを手に入れた人がいるんですよ!その人は心臓に病を持った妹がいたんですが、石を渡したら治ったんですよ!」

「ソウカ、ソレデ?」

「その人は、それから金山を掘り当てて貴族に、ジェルさん!」

 再び去ろうとするジェルの腕をつかむ。

「疲れてるんだ。帰る。」

「ジェルさん!貴族の人達がほしがっているんですよ、その石を!」

「…それで?」

「貴族の人達は石の効果を信じてるんです。高値で売れますよ…あの魔物の甲羅の宝石よりも高いとか…。」

 ジェルの目つきが変わった。

(あの魔物を倒すのは無理だ…。石が何なのかはどうでもいい…何とか洞窟の奥に行ければ…。)

「洞窟の奥か…行き方は分かるか?」

「…はい!今日でも、行けますよ…!」

 モルモックの声は高揚した。

 夜、ジェルとモルモックは、森の中に隠れて事務所を見ている。

ジェルの腰についている鞘には、急いで家に帰って取ってきた剣が刺さっている。事務所の明かりが消え、職員が1人出てきてドアに鍵をかけた。

「行くぞ…。」

「はい…。」

 2人は洞窟に向かう。洞窟の入り口には見張りが2人いたが、2人とも酒瓶を片手に眠りこけていた。

「無用心だな…。」

「はい…でも助かります…。」

 2人は入り口に積んであったたいまつに火をつけて、先に進んだ。誰もいない洞窟は静けさに包まれていて、さらに2人のたいまつしか明かりが無いため、いっそう不気味さを感じさせた。2時間後、モルモックが口を開いた。

「こっちです…。」

 洞窟は崩れないようにあちこち木で補強してあるのだが、モルモックが指した先には補強が無く『立入禁止』の立て札が立っていた。

「行こう…。」

 入ると急な下り坂になっていて、いくらか平らだった地面は石の塊に変わった。2人は、ジェルが先頭で慎重に降りていく。

(足が滑って大怪我したら…それだけで終わりだな…。)

 ひやひやしながらジェルは降りていく。モルモックも必死に後を追う。

(今度は登りかよ…。)

 ジェルは上を見上げた。ちょうど下った分ほど登ったさきに穴が見えた。大きく息を吐いて気合を入れる。

「持っていてくれ…。」

 たいまつをモルモックに渡して先に登る。体を安定させられるところに着いたら、たいまつを受けとってモルモックに手を伸ばす。これを繰り返して登って穴に入り、這いつくばって進むと、開けた場所に出た。

「凄い…。」

 モルモックが声を上げた。

「地底湖…か…。デカイな…。」

 一面の湖と天井の高い巨大な空間に、水が湖に注ぐ音だけが響く。神秘的ではあるが闇に吸い込まれそうな恐怖に2人は包まれた。

「ジェルさん…もう…戻りませんか?」

 モルモックは細かく震えていた。

「何言ってるんだ?行くぞ。」

「…行くって…どこに行くんですか…?」

 湖の向こう岸は見えず、2人が立っている岸辺はすぐに途切れていて進めない。

「湖の向こう岸に行ってみよう…。」

「ぼ、僕は…。」

「じゃあ、そこで待ってろ。」

 ジェルは水に入った。ここまで汗をかいて進んできたため、冷たい湖は気持ちが良かった。

(足が着く…。)

 たいまつで照らしても足元がよく見えない。

「うわ!」

 急に深くなり、驚いて声を上げた。

「ジェルさん!」

「大丈夫だ!」

 ジェルは水の底を歩くのを止めて、たいまつの火が消えないように注意しながら泳いだ。

ゴボゴボゴボ…

(何の音だ?どっかから空気が出ているのか?)

ザバアッ

「うぷっ。」

 急に波が出て、ジェルは飲まれた。

「ジェ、ジェ、ジェルさん!」

ゴアアアアアア!!

「うわあああああ!!」

 水面から上がったジェルの正面には、大量の牙の生えた、人間を一飲みにできそうな巨大な口、暗闇で光る目があった。

「ジェルさん!急いで!」

 モルモックの一言で我に返り、急いで岸に向かって泳ぎだす。

ザザザザザ

「げえほっ!」

 後ろから聞こえてくる音に焦って、何度も水を飲んでむせながら泳ぐ。

「こっちへ!」

 モルモックが伸ばした手をつかみ、引っ張り上げられる。2人とも岸に倒れこんでから、慌てて振り向いた。塔のように長い胴体の先に目が光っていた。

「来るぞ!」

 長い胴体が倒れてくる。2人は慌てて、ここに入ってきた洞窟に逃げ込んだ。2人とも何度も頭をぶつけながら、狭い穴を抜けた。

ズン

「ひい!」

「ぐっ…。」

 2人は身構え、息を潜めて待った。逃げようにも体が動かなかった。

ざー…

「湖に戻った音…だな。」

 ジェルの声を聞いて、モルモックは大きく息を吐いた。

「…もう戻りましょうよ…。」

「…ああ、戻ろう…。」

 次の日、夜の影響でジェルは疲れていた。

(眠いな…。)

「大丈夫か?」

 隣にいた、華奢なメガネの男が話しかけてきた。

「はい…少し疲れているだけです。大丈夫です。」

「お前も、立入禁止のところに入ったのか…。」

「え?入ってないですよ?」

「そうか…違ったか。悪かった。たまにいるんだよ…。白い石の話を信じて入るやつが。」

「知ってるんですか?」

「ここにいるやつはみんな知っていて、信じてるやつも多いな。ここにいて疲れきってなければ、誰も信じなかったろうにな…。俺はそんな話は信じない。ここで金を稼いだら店を開くんだ俺は…。」

 そう言ってつるはしを振るった。

「俺は信じてませんよ。でも、貴族に石を売れば金になります。」

「それで洞窟の奥に入ったなら…同じようなものだ。」

「…入ってないですよ…。」

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