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宝石採取

 昼過ぎ、しみだらけの床に酒瓶がたくさん転がっている部屋のベットで、1人の若い男が横になっていた。

(また金を稼ぎにいかなきゃならんのか…。面倒くせえ…。)

 ジェルは空になった財布を見て思った。もう一度眠ろうという考えを振り切り、頭をぼりぼりかきながら起き上がった。だらだらと支度をし、剣を持って外に出て、いつも行っている狩り場所に向かった。

 数時間後、ジェルは狩り場所の森の中で、切り株に座り込んでいた。

(全く見あたらねえな…。)

がさっ

 剣を取って身構えるが、草むらから出てきたのはウサギだった。

(いっそこいつを捕まえて売るか?安く買われて家賃すら払えねえな…。やっぱり群れが移動しちまったのか?)

 ジェルが狩ろうとしているのは、宝石でできた甲羅を持っている魔物だ。この魔物は動きが遅いためにたいした腕のないものでも見つけることができれば簡単に狩ることができ、売れば数ヶ月間は暮らすことができるため、ジェルはこの魔物を狩って金が無くなるまでは数ヶ月寝て過ごしを繰り返していたのだった。さらに数時間粘ったが、目的の魔物を狩ることはできなかった。がっくりしながら家に帰り玄関を開けると、ばさっと紙が床に落ちた。

(家賃の催促はもう致しません、今まで申し訳ありませんでしたっていう紙…のわけないよな。)

 家賃の催促の紙だった。

 次の日、ジェルは酒場に置いてある掲示板の前にいた。掲示板には普段、仕事を紹介する紙、日雇いの募集、魔物退治の依頼などが数多く張ってあるのだ。

(牧場に出て来る怪鳥を退治?牛が食べられて困ってます、だ?俺にどうにかできるわけねえな…。日雇い…もなしか。定職は…どうだ?)

 仕事の紹介を一つ一つ見ていく。

(要炎魔法ぉ?俺にそんなことできるかよ。アクセサリの販売ねえ…貴族に頭下げるのか…やめだ。ん?後貴族相手の営業ばっかりじゃねえか…。残ってるのは…宝石の採取か…。)

 数日後、ジェルは宝石採取を行う会社の経営者であるギルワットの説明を聞いていた。ギルワットは金縁のメガネをかけた中年の男で、やや自身がなさそうに穏やかな口調で説明した。

「仕事はここから南にある洞窟で宝石を掘り出すというものです。洞窟には、宝石でできた甲羅を背負った魔物もいますが…たいした強くはないので…危険ではありません。洞窟自体も崩壊の可能性のある場所は十分に調査し、採掘場所からは外してありますので…安全でしょう。賃金の面ですが…一般的な発掘の仕事に比べてやや低く設定されているのですが、これは調査や安全面、作業量に配慮した結果でもあるわけでして…。えー、やや賃金が安くとも長く続けられる仕事であることは保証致します。それと、採掘した宝石が多い場合には、それだけ賃金に上乗せしてお支払い致します。…どうですか?」

 ジェルは承諾した。というより、つい昨日大家ともめたばかりで他に選択肢がなかった。

 次の日、早速ジェルは宝石を掘っていた。巨大な洞窟の中たいまつの薄暗い明かりに照らされて、数百人の男達がジェルと同じようにつるはしで岩を突いていて、その後ろでは掘り出した宝石の原石をトロッコで運ぶ男達がいる。

(全く、むさくるしいところだ…、)

カーン!カーン…

 鐘が鳴ると、つるはしを持っていた者達は手を止めて移動し始め、原石を運搬していた者達は慌てて運んだり、乱暴にその場にぶちまけたりしていた。

(おいおい、俺達がせっかく掘り出したんだぞ。)

 ジェルは言ってやろうかと思ったが、周囲が何も言わないので止めておいた。

(1日目からもめるのはまずいよな…。)

 ジェルはどこに行けばよいか分からなかったが、人の流れに乗って進んでいくと、つるはしやヘルメットを置く場所があったので置いて、洞窟の出口まで流れに乗って行った。

(ふうー…。いい汗かいた…。)

 外はもう夕方になっていて、汗をかいた体に涼しい風がふんわりと当った。

(さて、今日の分の金をもらって、飯でも食いに…行く前に汗を流さないとな…。)

 そう思いながら歩いていると、前にふらふらと歩く年配の男がいた。

「大丈夫か?おっさん。」

 その男の前に回りこんでみると、その男は青白い顔をして、胸に手を当てて苦しそうに息をしていた。

(おいおい、病気かよ。)

「だ、大丈夫だ…。ありがとう…。あんた…新しくここに来たのか?」

「あ?ああ…。」

「早くこの仕事を止めるんだ…。」

「え?」

 年配の男はふらふらと歩いていく。

「おっさん。おっさん!」

(無視かよ…。)

 ジェルも年配の男を無視して、追い抜かして歩く。

(せっかく、人が心配してやってんのに…。)

 何か気配を感じ取り、後ろを振り返ってみる。

(なんだあ?みんなくたくただな、おい…。)

 青白い顔をしていたのは年配の男だけではなかった。先ほど見たほどではないにしても、ほとんど全員が疲れきった顔をして、会話1つせずに歩いている。

(中毒にでもなるガスでも、出でるんじゃないだろうな、あの洞窟…。)

 もやもやした気分になりながらも、戻って誰かに聞くのは面倒なので、そのまま進んで、金を受け取りに洞窟から離れたところに建っている小さな事務所に行った。

(賃金が安いって言ってたけど、まあまあじゃないか?)

 事務所から出たところで、自分より年下だと思われる小太りの男とすれ違った。

(今のやつは普通の顔色だったな…。)

 小太りの男が出てくるのを待って聞いてみる。

「俺、今日ここに来たんだけど、なんでみんなあんなに疲れてるんだ?」

「え?ええっと、僕も今日から働き始めたんで分からないです…。」

「そうか…。まあ、そのうち分かるのか?じゃあな…。」

 ジェルは立ち去ろうとする。

「あの、僕モルモクって言います。よろしく。」

「ん?ああ、俺はジェル…。じゃあな…。」

「は、はい。さようなら…。」

 次の日、この日もジェルはつるはしで宝石を掘っている。

(掘ってれば疲れてくるか…ここの連中は毎日掘ってるんだろうし…。まだ2日目だけど、俺も昨日の疲れが取れてないからな…。)

カーン!カーン…

(お、午前は終わりか…。ああ、腹減った。)

 大きく息を吐き出してから、つるはしを置いて、弁当を取りに行く。鉱区まで移動するのに時間がかかるため、昼食は洞窟内でとることになっているのだ。

(全く…ここの連中と来たら…。昼飯時くらいしゃべれないのか?面倒だが、聞いてみるか…。)

 軽く周りを見渡して、一番顔色のよい、自分より数年年上そうな華奢なメガネの男に聞いてみる。

「どうして、ここの人達はこんな疲れきってるんです?まあ、つるはし振るったりしてるんだから、当然といえば当然ですけど。」

「みんな、恐れてるんだ。ここには、たまに魔物が出る。」

「魔物って、宝石の甲羅のやつですね。あれなら俺でも…。」

「君の知ってるような、そんなやつじゃないんだ…。」

(あれがここに出るのか…1匹倒せば…またしばらくのんびり過ごせるな…。でかいって言ったってあれはのろまだし…。!でかいなら年単位で働かなくてもいいかもしれない!)

 そう考えたジェルは期待すらしながら毎日洞窟に向かっていた。そして数日後、今日のジェルはトロッコで原石を運んでいた。

グルルルル

(なんだ?どこかでトロッコが壊れて引きずってる音か?)

 ばたばたと周りの人達が出口に向かって走り出す。

(なんだ?)

「何やってるんだ!逃げろ!」

 数日前、ジェルが魔物のことを聞いたメガネの男が叫んで、走り去っていった。数十秒後、ジェルの周りには誰もいなくなった。ジェルはトロッコを離れて、つるはしを取って魔物が来るのを待った。

(でかい…あれを倒せば、一生働かなくていいんじゃないか?)

 のっしのっしとゆっくり、大小様々の宝石でできた甲羅を背負った魔物が現れた。高さはジェルの1・5倍くらいだろうか。

「おおおお!」

 つるはしを頭に突き立てる。

がつん

(硬い…。)

 何度かつるはしを振り下ろしたが、硬い皮に阻まれて傷一つつけられない。

(ちくしょう…硬てえ…。小さいやつなら柔らかかったのに…。)

ビシュ

「痛っ?」

 痛みが走った頬をなでてみると、手にべったりと血が付いていた。

(?いつの間に?)

ばらばらばら…

 後ろの壁に宝石のかけらがぶつかって砕けた。

(こいつ…甲羅の宝石を飛ばしてる?)

 後ずさりする。

ぼんっ

 甲羅についていたジェルの頭くらいの大きさの塊が飛んできた。

「う」

 飛んできたことが分かったときには、ジェルの頭に塊が命中して、地面に倒れこんだ。

「ひいいいいい!」

 ジェルは驚いて叫び声を挙げた。数秒だけ飛んでいた意識が戻ると、魔物の、長い牙がびっしりと並んだ口がジェルの顔の前にあったのだ。まだ半分ほど飛んでいた意識を取り戻して、横に転がって魔物の口から離れて、起き上がって走り出す。

「はっ、はっ。」

 頭からだらだらと垂れてくる血と汗が目に入らないように、手でぬぐいながら走り続ける。

オオオオオン!!!

「ぐっ…。デケエ声だ!」

 轟音に耳を塞ぐ。

ズンズンズン!

 後ろを振り向くと、猛烈な速さで魔物が走ってきていた。

(あんなに足速かったのか!)

 出口と鉱区の中間地点にあたる開けた場所に出た。そこには3人ほど様子を見ている人達がいた。

「逃げろおお!来るぞ!!」

 音を聞いて逃げようかと身構えていた数人は、ジェルの声を聞いて走り出す。

「うわっ!」

 ジェルの前を走っていた3人のうちの1人の体に宝石がめり込んで倒れた。

「大丈夫か!」

 ジェルは倒れた人に駆け寄る。

「ほうっておけ!逃」

 振り向いて叫ぼうとした男の顔に宝石がめり込んだ。ジェルは慌てて1人走り出す。

 洞窟を出たところに人が集まって、それぞれが知り合いの無事を確認したりしていた。息を切らしているジェルにモルモックが話しかけてきた。

「ジェルさん達の鉱区で…何があったんですか?」

「怪物が…怪物が出たんだ…。」

 ジェルの顔は青白くなっていた。

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