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番人の葬儀屋  作者: あじのこ
第5章 巌窟のアルカナ
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石の神託

「エリオス……か?」


ヴァルが静かに声をかける。だが、その問いかけに答えはなく、エリオスはただ無言で立ち尽くしている。ヴァルと貸家魔女は互いに目を合わせ、エリオスから漂う尋常ではない空気に、ヴァルはゆっくりと玄関に近づいていく。


ヴァルは慎重に言葉を選びながら、エリオスに向けて問いかける。


「列車の中でも話だが、君の父親に――」


だが、エリオスは一切の躊躇なく、冷徹に口を開いた。


「父は、死んだ」


その言葉が放たれた瞬間、ヴァルの視線は自然とエリオスが手にしている杖に引き寄せられる。血のような赤黒い色合いをしたその杖は、まるで生きているかのように僅かに震えている。その杖の先端には、司祭の象徴として知られる精緻な飾りが施されていたが、それが不気味なほどに血の痕跡を宿している。


ヴァルはその異様な杖に目を留め、息を呑む。


「その杖は……」

「父からもらったものだ。代償を払ってな」


エリオスは言葉を続けるが、声には感情がない。彼はその杖を無造作に持ち、まるでそれが何の価値もないものかのように、平然とした表情でヴァルを見つめ返す。


貸家魔女はその光景を黙って見守りながら、煙草を一息吸う。その煙がゆっくりと立ち上り、部屋の中に漂う不穏な空気に溶け込んでいく。


エリオスがゆっくりと杖を握り締め、その赤黒い血の痕を見つめながら、口を開く。


「お前がいけないんだ。お前が……」


その言葉は、最初は静かで冷徹だったが、次第に怒声へと変わり、エリオスの声はだんだんと荒れていく。


「お前が!あの時!お前が現れさえしなければ……!」


その声は耳をつんざくような叫びとなり、部屋の空気が一瞬にして重く凍りつく。彼の目はどこか遠くを見つめ、顔に浮かぶのは狂気の色だった。彼の理性が崩れ、かつての父親に対する憎しみが凝縮されているかのようだ。


エリオスは震える手で杖を掲げ、周囲を見渡す。彼の目に映るものすべてが、彼を追い詰める幻に見えるのか、息を呑むような表情でその場を支配しようとしている。


「お前のせいだ……お前のせいで……」


その言葉が、空気を震わせながら、深い沈黙の中に消えていった。エリオスは息を荒くし、少しずつその足元を震わせながら、ゆっくりと前に進んでくる。


ヴァルと貸家魔女は無言のまま、その様子を見守るだけだった。何も言わず、ただその狂気の中にある異様な力を感じ取っていた。

エリオスがゆっくりと杖を握り締め、その赤黒い血の痕を見つめながら、口を開く。


「お前がいけないんだ。お前が……」


エリオスは血に染まった杖の先で、力強く地面を叩いた。その音はまるで空気を裂くように響き、瞬時に周囲の空気が変わった。


ダンッ!


その音が鳴り響くと同時に、周囲の空間が歪み、ヴァルの視界が一瞬にして変わった。気づくと、足元の地面にはすでに数本の骨が並び、その間には細かい血のしずくが点々と散らばっている。ヴァルが何かを感じ取る前に、すでに儀式は始まっていたのだ。


足元から、黒い糸のようなものが現れ、ヴァルの足首をゆっくりと絡め始める。まるで、そこに引き寄せられるように動いているようだった。彼の周りに次々と現れる黒い影のようなものは、儀式の準備を整えるかのように動き回っていた。目の前に広がるものは、ただの風景ではなく、何か異様な力に支配された場所のように見えた。


そして、最も不気味なのは、ヴァルの周りを取り囲むように現れた白い布のようなものだった。それは、まるで生きているかのように艶かしく動き、ヴァルの体を包み込み始める。布はじわじわと彼の体にまとわりつき、まるで魂を閉じ込めるように覆い尽くしていった。肌に触れるその感触は冷たく、次第に重く、圧し掛かるように感じられた。


その儀式の中心に立つエリオスは、無表情で杖を握りしめていた。杖は、血そのもので作られているように見えた。表面は濃い赤に染まり、まるで生きているかのように脈動しているように見える。その血の杖からは、見る者の心を凍らせるような冷気と、何か恐ろしい力が溢れ出ていた。血が固まりながらも、まるで命を持っているかのようにゆらめき、微かに滴り落ちるその光景は、恐怖以外の何ものでもなかった。


エリオスは、ただ無言でヴァルを見つめていた。


「お前が……すべてを壊したんだ。」


血の杖が再び地面を打つと、儀式の力が一気に増し、ヴァルの周囲に異様な空気が漂い始めた。血の力が空間を覆い、次第に不気味な文字が浮かび上がる。

それはまるで血そのものが書き記されたかのように、空中に浮かぶ古びた文字だった。その文字がまるで響くようにヴァルの耳に届き、まるで死の宣告をするかのように告げられる。


「──その者の魂は、ここにて永遠に封じられるべし」


その言葉が頭上に現れると同時に、周囲の空気が一層凍りついた。ヴァルの目の前に現れたものは、血のように赤く染まった大きな髑髏。目玉のない眼窩がヴァルを見下ろしていた。視線が交わる度に、その髑髏から漏れ出す不吉なオーラがヴァルを包み込み、心臓を重く締めつけた。


「──葬送儀礼を開始する……」


髑髏の口から、さらに不気味な現象が続く。文字がゆらめきながら、左右に二分されていく。その形はまるで何かが欠けているかのように、半分だけが見える不完全な告知だった。

その切れ端を見つめるヴァルの胸に、鋭い恐怖が走る。告げられるべき全ての文字が、そこにはなかった。


髑髏の顔がゆっくりと動き、再びヴァルを見つめる。その顔が不気味にほほえんだかのように見えた瞬間、ヴァルの体が震え、魂の一部がまるで引き寄せられるかのように、儀式の力に飲み込まれ始める。


アナスタシアの元に残されたもう半分の魂。

それがまだ彼を守っているのだ。


天空に浮かぶ半分だけの文字が、闇を切り裂くように輝く。その奇妙で不完全な形に、エリオスは目を見開いた。


「なんだあれは…半分……半分……だと……?」


その言葉が響くと、彼の顔に驚愕が走り、じっとヴァルを見つめる。ヴァルはその目に冷徹な何かを感じながらも、静かに立ち尽くしていた。


その瞬間、エリオスの表情が一変した。顔色が蒼白になり、震えた声で叫んだ。


「そういうことか……悪魔め……!!」


その叫びは、狂気と憎しみを孕んでいた。彼の目には、長年の謎が解けたような満足感が浮かび、同時に深い憤怒が込み上げてきた。


ヴァルはじっと彼を見返すが、その目には動じた様子はなく、ただ冷徹にこの状況を受け入れているかのように立っていた。


エリオスの手に握られた血の杖が、再び震える。次の儀式が始まる前触れのように。


「な、なんてことしてくれてんだい!?ボンクラ息子!!」


貸家魔女の声は震え、かすかに裏返った。言葉にならない驚愕と怒りが入り混じり、彼女の体が微かに震えているのがわかる。しかし、言葉はもう空虚で、響き渡る振動に飲み込まれてしまった。


「生きてる人間に葬送儀礼をおこなうなんて……!そんなことをして!」


その言葉を発した瞬間、足元に強烈な振動が走り、周囲の空気が重くひび割れた。街全体が震えるような感覚が体に伝わり、まるで地面そのものが命を持っているかのような錯覚を覚える。


ヴァルの目が見開かれる。振動が急激に強まり、地面が割れ、建物の壁が音を立てて崩れ始める。その振動の中心から、ひときわ不気味な音が響き、目の前の街の岩石が動き出した。それはまるで生き物のようにうねりながら、形を変えていく。


最初はただの岩だった。

それが、次第に血に塗れたように赤く染まり、まるで動き始めた巨獣のように膨れ上がり、周囲の街並みが呑み込まれていく。岩は牙をむき、爪を立て、血のような液体を吐き出しながら、恐ろしい形をとっていく。


「あ、あれは…!」


貸家魔女はその場に立ちすくみ、震える手で何かを掴もうとするが、何も掴めない。目の前の巨大な岩塊がますます迫り、息苦しさと共に、街全体がまるで圧し潰されていくかのような感覚に包まれる。


その時、エリオスはただ黙って立っていた。彼の目は狂気に満ちており、その冷徹な眼差しは何も見ていないようだった。まるで目の前の光景が、彼の心を完全に飲み込んでしまったかのようだ。


「ああ……」


エリオスの唇が微かに動くが、その声はどこか空虚で、彼の中で何かが完全に壊れてしまったことを感じさせる。その後、彼は振り向きもせずに、ただ無言で血の杖を強く握りしめる。


その瞬間、街全体が唸りを上げた。

地面が揺れ、古びた石造りの階段が生き物のように動き出した。


ゴーレム。


それは神明が遣わした規則を守るための守護者。

遥か古の時代に生まれ、人々の伝説の中でのみ語られてきた存在。それが、今、現実の街に現れた。


ズドンという重い音が響き渡ると、ゴーレムは岩の巨体を揺らし、家々を、道を、人を、容赦なく踏み潰した。その姿は無慈悲そのもの。死の兆しが街の隅々まで伝わり、逃げる場所はもうどこにもなかった。


街の道、家々、そして生きる者たちの希望……すべてがエリオスの呪いに飲み込まれ、破滅の時がゆっくりと迫っていた。

ちょっと意味不明なとこがあってすみません…。あとで書き直そうとは思ってます…。

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