少年ポトロ
そこは薄暗い部屋だった。
薄いカーテン越しにかすかな光が差し込み、壁には埃をかぶった古びた書棚が並んでいる。雑然と積まれた本や道具が静けさの中に沈み、足元には足音を吸い込むような厚い絨毯が敷かれていた。
バッシュは、埃が舞う重い空気を吸い込むと、喉にわずかなざらつきを感じた。その薄暗い部屋の湿った埃の匂いが、鼻腔にじわりと染み込んでくるようだった。
この部屋が久しく使われていないことは明らかだった。見知らぬ場所であったが、空気は重々しい静寂に包まれていた。
「おい、誰かいるのか…?」
不安に駆られながらも、バッシュはその場に潜む気配の正体を探るために一歩ずつ足を進めた。だが、カーテンの隙間から漏れるわずかな光が生み出す影は、深い暗闇に沈んだまま、何の姿も見せない。静かに息を潜め、耳を澄ませると、微かな物音が再び聞こえてくる。
「誰か、いるのか…?」
もう一度問いかけると、暗闇の奥でわずかに影が揺れた。バッシュの心臓が跳ね上がり、足が一瞬止まる。視線を凝らすと、近くの暗がりの中に何者かが潜んでいるのを感じた。
息を整え、恐る恐るその方向へ歩み寄る。影が徐々に輪郭を持ち始め、ほんの数歩先に、一人の少年が立っているのが見えた。彼もバッシュの存在に気付いたのか、驚きに目を見開いている。驚きと安堵が交差しつつも、同時に何かがバッシュの中でざわめき始める。
「お前…誰だ?」と、バッシュが問いかけると、少年は後ずさりしながらも真剣な目でバッシュを見返してくる。その目には、驚きと焦りが入り交じっていた。
バッシュの問いかけに、彼は深く息をつきながら、緊迫した声で言った。
「お願いです、司祭様を助けて…!捕まってしまって、色々してみたんだけど、どうにもできなくなってしまって…時間がないんです!!」
その言葉に一瞬、バッシュは呆気に取られた。
何のことなのかまったくわからない。
「待ってくれ…待ってくれ、待ってくれ!?ここはどこなんだ?司祭って?そもそもお前は誰なんだ?」
溢れ出る疑問を口から吐き出す。そうしていないとおかしくなりそうだったのだ。バッシュの問いかけに少年は大きな瞳で真っ直ぐに見つめた。
「ここは港町のベッロハイズ商業特区!司祭様のお名前はヴァレンティノ・アーク!僕はポトロ!わかりましたか!?わかりましたよね!?だから、お願いです!助けてください!!」
ポトロと名乗った少年は一息にそう言ってバッシュの手を握った。バッシュは金槌で殴られたような衝撃を覚え、思わず頭を後ろに倒した。
脳内ではあの胡散臭い司祭、ヴァレンティノ・アークの憎たらしい嘘くさい笑顔が思い出されていた。




