2度目の晩餐
エドワルド三世の行動と発言は完全に常軌を逸していた。
エドワルド3世はヴァルとバッシュ、2人の事など完全に忘れ去ってしまったかのように振る舞った。
こいつは狂っている。
バッシュは確信した。
これで完全にエドワルド3世が狂人のように振る舞っているのであれば、まだバッシュは自分の気持ちを落ち着かせられただろう。
だがエドワルド三世はあの陽気な笑顔で昨晩同様に、2人を客人としてもてなすよう2人のエルフに告げるのだった。
そして、ヴァルとバッシュはエドワルド3世とネモフィラ夫人の食卓と招かれ、やはり先ほど同様に2人の恋物語を聞かせられるのであった。その話はこれで3度目だとバッシュはなるべく目立たないように溜息をついた。
エドワルド三世が話している最中、バッシュはこれは何か悪い冗談なのだろうかと考えた。あるいはからかわれているのではないかと思ったが、エドワルド三世の側に仕える2人のエルフも、妻のネモフィラ夫人でさえ、エドワルド3世の狂った行動を何一つ指摘することもなく昨晩と同じような言葉を選び、同じように行動をしていた。
それはエドワルド三世を極力刺激しないようにするための方策であったのだが、外部から来たバッシュには、ただただ出来の悪い演劇を見せられているかのように思えてならなかった。
ヴァルとバッシュは昨晩同様に豪華な客間へと案内された。客間まで案内するププの表情は昨晩同様に1つも変わることがなかった。夜の冷たい廊下を歩き部屋の前にたどり着くとバッシュはププに詰め寄った。
「あれは一体、何の冗談なんだ!」
冗談にしても気味が悪い、いやもはや狂っている。
バッシュは食事の席で思っていたことを我慢することなく話した。全てを吐き出すように話すと後ろからヴァルが背中をさすった。
その手の温かみに僅かばかり冷静さを取り戻すと、今度はププが重たい唇をそっと開けて呟いた。
「…兄上様は昔の夢を見ているのです」
「昔の、夢…?」
「ここは兄上様が幸せだった時間を繰り返しているのです」
薄暗い廊下を歩くため手に持ったランタンの明かりがププの顔を照らした。その顔は無表情というには侘しい。この少女は一体どれほどの時間をここで過ごしてきたのだろうか。
諦観に似た絶望を受け入れてなお自分の愛しい人の世話をしてきた。それを知らないバッシュが強い言葉で畳み掛けた。
「それなら、あの子供たちもあのイカれ野郎に付き合わされてるのか」
「こどもたち?」
ププはそう聞き返した。
いままでほとんど無表情であったププがこの時初めて感情を露にしたのだ。驚愕。
バッシュは逆に驚いた。驚いたププの顔は思ったよりもずっと幼く感じたのだ。
「子供たちに、ミカエル達に会ったのですか!?」
ププはバッシュの肩をグイッと掴んだ。そのあまりの勢いにバッシュは先ほどまでの勢いを削がれた。バッシュはププもおかしいのではないかと勘ぐりヴァルの方へ助けを求めるように視線を向けた。ヴァルは話を促すように「子供に会ったの?」と静かな声で尋ねた。
会ったというか…かくれんぼをしていたのに出会しただけなんだけどなぁ、とバッシュは呟いた。その呟きを聞くとププは視線を落として、なにかを決めかねるようにしばらく沈黙してからようやく意を決したように顔を上げた。
「…子供たちに会えたのならば、それが全てなのでしょう」
私に出来るのはここまでです。
そう言ってププは扉のノブを手にかけて、回した。
「神明のご加護を…」
開かれた扉の中を覗く。
ププによって開かれた扉の中は昨晩2人が過ごした豪華な寝室ではなく、幾重にも重なった黒い闇が広がっていた。




