表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番人の葬儀屋  作者: あじのこ
第3章 夢の国で会いましょう
22/241

隠し池

「お、やった!」


少年の声が軽やかに踊った。即席で作った釣竿の先にはそれは立派な川魚がぴちぴちと動き、なんとか逃げようと必死の体であった。

釣り糸を手繰り寄せて魚を捕まえる。少年は今日の夕飯を捕まえて上機嫌だった。


この『隠し池』を見つけたのは幸運だった。

おそらく近隣の村人が税逃れや飢饉に備えて作ったのだろう。


住むことを放棄された村を通り過ぎた先で川の水を汲もうしたら靴を流されてしまった。


慌てて靴を追いかけていくと、人の目から隠されるように木々が生い茂ったこの『隠し池』までたどり着いたのだった。

池の中を覗くと大量の、そして大きく太った川魚が優雅に泳いでいた。そうなると早めの野営を決めて、バッシュは釣竿を作って釣りへと興じた。


魚の口から釣り糸を外して小石を土手に積み上げて作った囲いの中へ魚を入れた。これでもう6匹目だった。


釣りは楽しいがたくさん釣りすぎても仕方がない。バッシュは木から摘み取ったブルーベリーを口の中に放って食べながら釣りの片付けを始めた。ここは木の実も十分すぎるほど茂っていた。

季節の果物から木の実まで、人の手によって植えられたのは明らかだったが伸び放題に伸びた枝を見ていると管理されなくなって数年は経過しているようだった。

そのうちここは動物に荒らされ、自然の過酷さについていけなくなったか弱い木々から枯れていくだろう。そうなる前にこの幸運を享受できたことに感謝だ。

バッシュは心の中で感謝を述べながらぴちぴちと動く川魚のエラ上部の根本をナイフで切り取った。


ーーー


「お疲れさま」


魚の血抜きを終えて野営場所まで戻ってきたバッシュを黒衣のマントを羽織るヴァルが出迎えた。一緒にいるようになって数日が経つがいまだにバッシュはこの人物が男なのか女なのかバッシュには分からなかった。


声は高すぎず、低すぎず。黒い髪は肩ほどまで長い。成人を迎えた男にしては体の線が細すぎるようだったが、そもそもマントを羽織っているので全身を見たことが無かった。

だが、旅の同行者としてそこはどうでも良かった。バッシュは自分の旅の目的である王国までこの同行者の通行手形を利用できればそれで良かった。それにこいつはオレの雇い主なのだ。…まだ給金は笛しか貰っていないのだが。


ヴァルはちょうど火おこしを終えて、連れて歩く小馬のトロントにブラッシングをしていた。ヴァルはこの小馬をなによりも大切にしていたが、歳を取りすぎてろくに荷物も運べないやつだった。しかし、この小馬はヴァルの持つ不思議な鏡を通ると虹色に輝く立派な姿の霊馬となって空を駆ける、世にも不思議な馬だった。


「ヴァル、見てくれよ」

「大量だね」

「へへん」


バッシュは思わず笑った。

やはり釣りは釣れると楽しい。あの池ならば釣竿がなくても獲れるほど川魚に満ちていた。あそこまで育った魚を放棄して、あんな立派な隠し池を作った村人はどこに行ってしまったのだろうか?バッシュはふっと考えたが、魚を丸焼きしするため串刺しするのに夢中になると忘れてしまった。


暗闇の中をパチパチと火が囁く。炎の灯りが2人を包み込んだ。バッシュは串に刺した魚を数度向きを替えていた。すこし塩が足らなかったかもしれない、やはり次の街で調味料などを買い足そうと考えていると。


『ふわぁ〜』


2人以外に声がした。

ヴァルの胸元に忍ばせた小袋から煌々と灯りが灯った。リヒトだ。ヴァルは小袋の紐を解くとゆるゆるとした動きで小さな光の球が、宙を浮いた。


『もう夜なの?人間の時間は経つのが早いわ…』


まだ寝ぼけてているかのように、光球は緩慢な動きで宙を漂った。初めて見る人には怪異に思えるこの漂う光の球も、慣れてしまうとバッシュにとっては日常だった。


『わぁ〜魚!美味しそう!』

「いや、おまえまた食うのかよ…」


リヒトはよくしゃべり、よく食べた。ヴァルよりも食べているのではないかと思うほど。心なしかヴァルもいつもより食事が進んでいるようにも思えた。


「そもそもお前、どうやって食べているんだ?というか、神明の梯子が地上のものを食べていいのか?ようは神の使いだろ?」 

「うっ…うるさいわね!ニンゲン!」


あーわかった。ごめんて。と、いいながらバッシュは拾ってきた果物を神の梯子と呼ばれるリヒトに恭しく捧げた。リヒトは嬉しそうに飛び上がりながら果物の海に飛び込んだ。

バッシュはこの光球のやり込み方を学びつつあった。


するとグイッと袖を引っ張る力に思わず体が動いた。見事な漆黒の硬い獣の毛が指に当たった。普通の犬よりも体の大きい黒犬はバッシュの足に顎を置き、くたびれたように体を休ませた。


「エゾフ、どこに行っていたんだ。お前も食べるか?」


もう少し待っていろ、お前用に塩なしの魚も用意したんだと言ってバッシュは串焼きにした魚を回転させた。焼き上がるまでもう少しだった。


「調味料が終わったからこんなのしか出来なかったな。次の街にはどれくらいで着くだろう」

「あと一週間くらいかな…ここも随分と風景が変わった」

「来たことあるの?」

「昔、立ち寄ったことがある。王国の先王の末弟がこの辺りを領地としていたはずだ。…村もあったはずなのに」

「ふーん」


そういう話には興味のないバッシュは魚の焼き具合に無心していた。もういい頃合いだろう。

バッシュが火から串焼きの魚を外そうと体を屈めた瞬間。


焚き火の炎が音を立てて立ち上がった。


「わぁあ!!?なんだ!?」


バッシュは焼き上がった魚を手に持ったまま尻餅をついた。弾けた火の粉が周囲に舞った。降り注いだ火の粉にバッシュは思わず手で払い除けようとするが。あつ!え?熱くない!?


エゾフは瞬時に倒れるバッシュをひょいっと避けて炎の明るさから隠れた場所ですでに大勢を整えていた。

文字通り立ち上がった炎はヴァルの方に向けて

腕のように炎を伸ばし、なにかを手渡す。

ヴァルは少しも驚きもせず、炎の腕から手紙を受け取った。


「…手紙だ」

『手紙よ』


その手紙は炎の中でも少しも燃えることがなかった。炎の使いはヴァルに手紙を渡すと焚き火の中に消えてしまった。あっという間の出来事にバッシュは尻餅をついたままポカンとしていた。


食事くらいゆっくりさせてヨォ〜と、文句を言うバッシュを尻目にヴァルは手紙の封蝋を切った。手紙の封蝋には先王の末弟が使用する蝶々の紋章が入っていた。

手紙を読むヴァルの表情が僅かに暗くなる。


「なんて書いてあるんだ?」


焼き過ぎてしまった串焼きの魚を回収しながらバッシュは問いかける。僅かに間をおいてヴァルはバッシュの問いかけに答えた。


「…仕事の依頼だ」

「仕事って…」

『この辺りに番人の葬儀屋はいないのね』

「以前通った時には狩人の葬儀屋がいたはずだけど、ずいぶん昔の話だから」


「え〜オレは先を急ぎたいんだけど」

『なに言ってるのよ。呼ばれてるんだから行かなくちゃ。そもそも葬儀を手伝うって話で一緒にいるんでしょ』


リヒトはバッシュの顔のあたりをくるくると飛んだ。それを邪魔そうに払い退けて、バッシュはむくれた顔で焼いた魚を頬張った。


ーーー


ふっと目が覚めた。


バッシュは寝ぼけた眼を擦る。むくりと起き上がるとあたりは霧が立ち込めていた。


隣ではヴァルやエゾフも横になって眠っていた。小馬のトロントも膝を折って寝息を立てていた。

あれ…オレいつの間にか寝ちゃったんだろう。火の番をしていたはずなのにいつ寝たのか記憶にないまま、喉の渇きを覚えてバッシュは水の入った皮袋に手を掛けた。


ーーああ、水が終わっている。


空の皮袋を持ちながら、バッシュは面倒くさそうに立ち上がった。池まで汲みにいかなくては。ノロノロとバッシュは隠し池の方へ歩いて行った。


夜が明けたら手紙の主のところまでいかなくては行けない。


バッシュ自身の旅は期限を決めてあるわけではない。だが、自分の旅路を知らない人間に邪魔されるのは嫌だった。

機嫌の悪くなるバッシュにヴァルはごめんね、と声を掛けた。しかし、あんな炎の中から手紙をよこす主は果たして人間なのだろうか?


バッシュは少し背筋が冷たくなった。

早く水を汲んで戻ろう。半端に水を溜めた皮袋を手に抱えてバッシュは駆け出した。



ーーー



息を切らして急いで野営場所に戻ると焚き火の切れた暗闇の中、なにかが動いていた。

バッシュは背筋がゾッとした。

離れている間に狼や熊が来てしまったのだろうか。いや、森に隠れる犯罪者かもしれない。


ーーーそれかあの異形の姿をした「ケガレ」だったら。

バッシュは水の入った皮袋を捨てると両手に殴るにはちょうどよい手頃な木の枝を持つとそっと忍び寄る。

霧が酷くなってきていた。少し先もよく見えない。


バッシュは息を殺して眠るヴァルの側にいる黒い塊に向けて振り下ろす。


「ーーーああ、ツレがいたのか。お前さんは大丈夫か?」


突然後ろから声を掛けたれた。後ろに人なんていなかったはずなのに。バッシュは驚いて体勢を崩し、倒れた。すると両手の中の木の棒を取り上げられた。


「少年よ、怖がることはない。私はここを統治するエドワルド3世。」


狩猟でこの辺りに来ていてね、と人の良さそうな男は狩猟帽子をクイっと指であげた。

修正加筆する予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ