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番人の葬儀屋  作者: あじのこ
第10章 前編
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ある狐の旅2

ソッロはヴァルとバッシュと別れた後、足元に注意を払いながらも、どこか遠くのことに思いを馳せていた。何度も立ち止まり、頭の中であれこれと考えを巡らせるうちに、気づけば森の中をぐるぐると迷っていた。


生来の方向音痴と、木々の間に差し込む薄明かりが、彼の足取りを一層不安定にさせる。風が木の葉を揺らし、時折耳に届く動物たちの鳴き声が、静寂の中で響き渡る。


「はぁああ……またか…」


ソッロは呟きながら、立ち止まって深く息を吸い込んだ。方向感覚が狂っている。どれだけ歩いても、見覚えのある道に辿り着くことができない。だが、あきらめることはなかった。何度も何度も歩き続け、ようやく森の外れに辿り着いたとき、目の前に広がっていたのは見知らぬ景色だった。


目の前には、壮大な王都が広がっていた。高くそびえ立つ城壁の向こうに、無数の建物が立ち並び、その中央には不自然なほど空高く伸びる塔がひときわ目を引く。

その塔は、ソッロの記憶には決してなかったものだ。


まるで天に向かって伸びるように、圧倒的な存在感を放っている。


「なんだありゃ……!?」


ソッロは驚きのあまり足を止め、しばらくその光景を見つめた。以前見たことのある王都の景色とは一変していた。


その象徴とも言える王都の中央に位置する塔が、今や王の存在を完全に覆い隠すかのようにそびえ立っている。


城壁や王の宮殿が霞むほどに、その巨大な塔は圧倒的な存在感を放っていた。まるで王の支配は超越し、雲の上にいるという神明へと手を伸ばそうとしているかのようだった。


「あんなもの、前はなかったじゃないか…」


ソッロは呟き、思わず眉をひそめた。あれではまるで、神々の領域に挑戦するかのようだ。


風の噂で聞いていた話が、まさか本当だったのか。王はこの世のあらゆる名声を欲し、今度は天空にまで手を伸ばすつもりなのか。


その塔の高さ、そしてその不遜なまでの存在感は、ソッロとってただの王都のシンボル以上の意味を持っているように感じられた。


まるで、王がこの地における支配を超えて、天に届くことを目指しているかのようだった。


……そういえば、ヴァルと一緒にいたあの小僧。王国になにかを探しにいくようなことを言ってなかったっけ?確か、何か重要なものを見つけるために王都に行くとかなんとか…。うーん、そんな気がしてきたぞ。


ソッロは首をひねりながら、しばらくその塔を見上げていたが、すぐに顔をしかめて自分に言い聞かせるように呟いた。


「いやいや……!!待て待て。そうだとしても、今のオレには王都に行く理由なんてないし、あの塔には近づかない方が身のためた。行かない方がいいんだ。絶対に。こんなところに足を踏み入れるのは危険だ。」


しかし、現実はそう簡単ではない。考えれば考えるほど、戻る道を選ぶのが正しいような気がしてきたが、ソッロの体力はすでに限界を迎えつつあった。


結局、冷静に考えた結果、最も現実的な選択肢は王都へ向かうことだった。


「まあ……でも……せっかくの機会だし、ちょっとだけ覗いてみるのも悪くないかもな。どうせ戻ったところで、何も解決しないだろうし。」


そんなことを言い訳にしながら、ソッロは迷いながらも、足が吸い寄せられるように王都へと向かって動き出した。心の中では、何度も自分を納得させようとする言葉が駆け巡っていたが、足元はすでに王都の方向へ進んでいる。


「ま、あの小僧も王国を目指すと言っていたし、なんとかなるだろう。……たぶん。」


ソッロは肩をすくめ、軽い気持ちで王都に向かって歩き始めた。

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