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番人の葬儀屋  作者: あじのこ
第9章 魂の系譜
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鞭の音

重厚なカーテンが閉められた薄暗い部屋の中で、リリアの冷たい目がニズルに向けられた。

彼女の手には鞭が握られ、その先端は微かに揺れ、まるでリリアの手のひらから命令を待っているかのように静かに待機している。


ニズルはその目を見た瞬間、背筋が凍りつくのを感じた。彼の手足はロープで縛られ、身動きが取れない。リリアの冷徹な視線が彼の心を抉るように突き刺さり、息を呑む間もなく、彼は膝をついて地面に額を擦りつけた。


「お願いだ、た……助けてくれ……!」


その声には恐怖と懇願が混じり、必死にリリアの足元にすがりつこうとする。しかしリリアは動かず、ただその冷徹な眼差しをニズルに向け続ける。


「お前がどれほどの罪を犯したか、知っているか?」


リリアの声は冷たく響き、鞭が空気を切る音と共に響いた。ニズルはその音に震え、顔を上げることさえできなかった。彼の目に浮かんだのは、恐怖と後悔。しかしリリアの目には、そんなものは何の意味も持たなかった。


「シュヴァイツァーを殺したときにあの場にいたのはお前だな?」


その言葉が放たれた瞬間、ニズルの体が一瞬硬直した。彼の心臓が激しく鼓動し、冷や汗が背中を伝う。リリアが言ったその言葉に、彼の心の中で何かが崩れる音がした。


「いや、違う! オレは……オレはただ、金に、金で雇われただけなんだ!信じてくれ!」


ニズルは必死に否定しようとしたが、その言葉には力がなかった。リリアの目には、彼の言葉がまるで嘘に見えた。


「頼まれた、だと? ふざけるな。」


リリアは冷ややかな笑みを浮かべ、鞭を一気に振り下ろした。鞭が床に激しく叩きつけられ、その音が部屋中に響き渡る。ニズルはその衝撃で体を縮め、恐怖で声も出せずにただ震えていた。


「シュヴァイツァーが死んだあの現場に、どうしてお前がいた? 説明してみろ。」


リリアの声は低く、鋭く、まるで刃物のようにニズルを切り裂いていく。彼はその問いに答えることができなかった。答えられるはずがなかった。リリアの目の前で、彼はただの罪人に過ぎなかったからだ。


「知らねぇよ!あの男が死んだ理由なんて……」

「……お前が死ななければならない理由は、山ほどある。狩人商会のニズル。」

「な、なんでオレの名前を……!」


リリアは無言のまま、再び鞭を振り上げた。その音が響く前に、ニズルは必死に顔を上げて、恐怖に満ちた目でリリアを見つめた。


「頼む……助けてくれ!オレは本当に何も……!」


リリアは無慈悲に鞭を振り下ろす。その一撃がニズルの体に痛みを走らせ、彼は耐えきれずにうめき声を上げた。


その時、バッシュは胸が締めつけられるような感覚に襲われた。リリアの怒りが部屋を満たし、その冷徹さがまるで空気そのもののように重く感じられる。ヴァルの顔には痛みと後悔が交錯し、彼の目はリリアを見つめていたが、言葉を発することはできなかった。バッシュはその光景に耐えきれず、ついに声を上げた。


「やめろ!」


その声は部屋の中で響き渡り、リリアの怒りが一瞬、静止したかのように感じられた。バッシュは息を荒げながらも、彼女に向かって歩み寄ろうとした。


リリアの手に握られた鞭が微かに震え、その先端がバッシュを鋭く見据えていた。バッシュの声は冷徹な怒りを含み、リリアの存在を真正面から否定するかのように響いた。リリアは一瞬、バッシュの言葉に驚いたように目を見開いたが、すぐにその冷徹な表情を取り戻す。


「また邪魔をするのか……小僧」


バッシュはその言葉に微動だにせず、踏み込んだ一歩一歩がリリアとの距離を縮めていく。彼の目は、ただの怒りではなく、過去の記憶と決して消えない傷を抱えたまま、リリアを見据えていた。


「邪魔じゃない。オレだってシュヴァイツァーがやられたのには頭にきてる!」


その言葉が部屋の中で静かに響き渡り、リリアの怒りの火花が一瞬、消えたように感じられた。しかし、すぐに彼女の表情が歪み、再びその冷徹な怒りを見せ始める。


「でも、今アンタのやっていることはダメだ。やったらダメなことだ。絶対。シュヴァイツァーだってこんなこと望まない!」


バッシュはそのままリリアの前に立ち塞がり、鞭を持つ手を無視して彼女の視線を捉えた。


「おお……!小僧、ありがとう……ありがとう……」


ニズルの声が震える。しかし、バッシュはその言葉に耳を貸さず、冷たく言い放った。


「勘違いすんなよ。オレはアンタにあの鉱山で突き落とされたこと、許したわけじゃねぇからな」


ぐぬぅ……と、ニズルの声にならない声を背中に受けながら、バッシュは続けた。


「でも、リリアさんのやり方も気に入らねぇ。こんなのは間違っている!」

「………」


バッシュの言葉が静かに響く中、リリアはその場で一瞬、動きを止めた。彼女の手が鞭を握りしめ、震えながらも執務テーブルの上にそれを置いた。


「ロイデン。暖炉に火を入れてくれ」


バッシュはその声に驚きつつも、目の前のリリアから目を離さなかった。彼女の冷徹な姿勢が少しずつ変わり始めていることを感じ取ったからだ。


扉の前に立っていた、腰の曲がりつつある執事がゆっくりと動き出し、暖炉の火入れの準備を始めた。

やがて暖炉に灯る火の温もりが、部屋の中の緊張を和らげるかのように感じられた。


「……勘違いするな。興が削がれただけだ。」


リリアは鋭い視線をバッシュに投げかけた。

見られただけでバッシュは背筋がビリビリと震えた。


「それでは聞かせてもらおうではないか。少年の言う『やり方』とやらを」と、リリアの冷たい声が部屋の中に響いた。

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