後継者2
部屋に入ると、ヴァルはドアを静かに閉め、しばらくの間、何も言わずに立ち尽くしていた。バッシュはベッドに腰掛け、無関心そうに天井を見上げている。
ヴァルは深呼吸を一つしてから、慎重に言葉を選んだ。
「バッシュ、……君に話しておかなければならないことがある。」
その言葉に、バッシュはわずかに顔を向けたが、すぐにまた天井に視線を戻した。
「なんだよ?」
ヴァルは少し間をおいて、真剣な表情で言った。
「君が後継者に選ばれたことについて、少し説明しなければならない。」
バッシュはその言葉に目を細め、眉をひそめた。
「そもそも後継者って、なんだよ?」
ヴァルは一瞬黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「葬儀屋は……神明によって選ばれるという。神明の意志で、時期が来ると代を引き継ぐ者が現れるという伝承があるんだ。」
バッシュはその言葉をじっと聞き、目を細めた。
「だから、俺がその『後継者』ってわけか?」
ヴァルは頷き、少し顔をしかめながら言った。
「そうだ。ただし、君がその役目を引き継ぐかどうかは、君の自由だ。強制されることはない。」
バッシュはしばらく黙っていた後、軽く肩をすくめて言った。
「ふーん……そんな話か。じゃあ、俺には関係ないな。」
ヴァルはその言葉を受け入れ、少しだけ安堵の表情を浮かべた。
「本来なら、俺が後継者を育てる立場にある。だけど、この仕事を無理に引き継がせるべきなのか、今でも迷ってるんだ。葬儀屋の務めは、ただの仕事じゃない。命を預かる、重い責任が伴う。君には、それを背負わせたくない。」
その言葉にバッシュは、梟の森の番人やケガレとの闘い、そしてエゾフの母親の暖かい血を思い出していたが、それを振り払うように冷たく笑った。
「安心しろ、ヴァル。オレは後継者なんて興味ない。俺の道は俺が決める。オレには……やらなきゃいけないことがあるんだ。」
ヴァルはその言葉を受け、しばらく黙っていた。部屋には静かな空気が流れ、二人の間に言葉が途切れた。