剣?魔法?こちらはレーザーですが? ②
再び指先に装填したレーザーを放とうとした時、俺はその異変に気付いた。
焼き切ったはずの神威の左腕、そこから漏れ出る異質な魔力が見えたからだ。
「ほう?」
魔力というのはそれが体内で生成される特性上、DNAの塩基配列のように、見た目ではわからないほど微々たる差異が存在する。
それはわずか0.1%にも満たない違いであるが、俺の魔力への感受性が高いせいか、その違いが手に取るようにわかる。
つまり、今神威から漏れ出る魔力は、神威自身のものではない、という事だ。
「面白いな」
ただの好奇心だった。
焼き切れた腕を抱えて絶叫する神威を、俺はしばし観察する。
「ありえねぇありえねぇありえねぇぇぇぇぇ…!!!この俺が、この俺様が…!こんな屈辱が、こんな辱めがあっていいのかよぉぉぉ…!」
まるで恋人を奪われた主人公のように、悲劇に酔いしれるように、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。
「よくそんな被害者面できるなこいつ…」
ドン引きである。
「あぁ…王よ…我が君よ…権能与えし我らが羅刹様よ…どうか、どうか……我が命を、受け取り賜え」
その言葉を口走った瞬間、異質な魔力が溢れかえり、男を包み込む。
「なんだ?」
やがて魔力は炎に変わり、神威自身を焼き尽くして灰へと変えた。
その灰は舞い上がり、巨大な人影を象る。
灰が風に吹かれて去ったあとには、炎の巨人がそこにいた。
「俺の権能、その最後の切り札…『炎神』。これだけは使いたくなかった…一度使えば肉体は消え去り、一定時間後に炎が消えれば俺も消える。命そのものを供物にすることで、俺は限界を超えた無敵の炎を手に入れる…!」
「すげー、炎が喋ってらぁ」
映えるなぁ、写真撮りたい。
あ、そういえば一度も使ってなかったけど、俺武器以外にもスマホみたいなの持ってたな。
もちろん電波もないし、アプリもないし、せいぜいカメラ替わりにしかならないけど。
懐からスマホのような何かを取り出し、自撮りモードにして炎となった神威と一緒に自身を画角にいれ、ピースをして写真を撮る。
「よし」
あとで見返せるのかどうかもよくわからんが、とりあえずよし。
「…何をしている?」
「あー、いいからいいから。続けて」
「くっ…この、クソガキめが…!余裕ぶっこいていられるのも今のうちだぜ!?俺はもう、無敵になったんだ!あらゆる攻撃が、もう俺には通じない!テメェの負けなんだよ!」
「ほう?」
指先にレーザーを集めてビームを撃ってみると、男の言った通り、炎に一瞬穴を穿ったがすぐに塞がり、効いていないようだった。
「なるほど、物理無効ってわけね」
「その通り!!わかったかこのマヌケ!テメェのその傲慢さが、この敗北を招いたんだよぉ!」
ふむ。さて、どうするか。
やり方はいろいろある。
魔法で水を使い消火する方法や、神秘で魂に直接攻撃する方法。
兵器を使って纏めて爆破するという手もある。
いろいろあるにはあるんだが…
「面倒だ。殴るか」
超然と歩きながら、右の手のひらにレーザーの光を凝縮させていく。
「ハッハッハ!馬鹿がッ!もう忘れたか!?テメェの光は、もう俺には効かねぇんだよ!死に腐れやァ!!」
神威は炎そのものの腕を振り上げ、殴ろうとしていた。
俺も右手を振り上げ、凝縮したレーザーを握りつぶす。
一気に潰れたエネルギーが腕に吸い込まれ、右腕の節々からレーザーの青い光が漏れ出る。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
神威の拳とぶつかるように、俺も全力で腕を振りぬいた。
名付けるならそう、これは…
「必殺、レーザーパンチ」
思い付きでやってみた、適当な技だった。
今日はどうやらインスピレーションがよく沸き立つ日だったようで。
しかし、それは俺の予想をはるかに上回り、町の半分を一撃で吹き飛ばした。




