剣?魔法?こちらはレーザーですが? ①
「………どうして…助ける…?」
死に体だったはずのフェルトは、みるみるうちに回復していき、虚ろな瞳に光が戻ってきた。
俺は神秘を施すために触れていた手をどけて、彼女の疑問に疑問で返す。
「どうしてって、何さ?」
「…貴様は、私を殺すと…私とミサ隊長の首を土産に、戦線と和解すると…そう言っていたろう」
「そういう手もあるって確認してただけのつもりだったんだが…俺は最初から、お前を見捨てるつもりはないぜ?」
「なぜだ…?」
「俺は、ミサと約束したからな。お前があいつのやろうとしている事について、どこまで知っているのか知らないが…ミサは俺とライアにとって重要な存在だ。あいつに死なれたら困る」
「一体、何の話だ…?」
やはり、フェルトでさえミサの真意は知らないらしい。
やれやれ、どこまで用心深いんだか、あの女。
「ま、とにかく…ミサとの約束は絶対に守る。あいつも俺との約束を守ってくれているしな。そんなわけで……この状況の落とし前は、他の誰かに取ってもらわなくちゃいけないわけだが…」
俺が振り返った先には、恐らくこの襲撃の黒幕であろう男が、楽しそうに笑っていた。
「テメェ…かなり強そうだなぁ?なにもんだ?」
「002、と呼ばれている。お前は?」
「神威涯だ。七政権の…いわゆる序列クラスってやつだ。たかだか一級冒険者風情がこの俺の炎を防ぐたぁ、どういう了見だぁ?」
「そっちこそ、フェルトだけでなく、ティアまで随分と可愛がってくれたそうじゃねぇの。面倒だ、最初から全力でかかってこいよ。神威くん」
「ぁんだと?舐めんじゃねぇぞガキが」
瞬間、神威は黒い炎を両腕に纏い、指揮者のように炎を操ってこちらにぶつけた。
無論、俺は何もしない。
この程度の炎、自動防御で十分だ。
「なっ!?なんだ、何が起きやがった!?」
驚愕する神威を無視して、俺はそよ風が吹く公園を散歩するかの如く、悠々と神威に向かって歩き出す。
「ふざけんじゃねぇ!!死ね!死ね!死ねぇぇ!!」
必死に黒炎が降り注ぐが、しかし止まらない。
歩く。
歩く。
歩く。
気付けば、俺の目の前には口をパクパクと開いては閉じ、何をする事も言う事もできない神威がいた。
「どうした?続けろよ」
下から仰いで、男の目を正視する。
「攻撃の手を止めるのは得策じゃない。せっかく蓄積していたダメージが清算されてしまうぞ。あと二日も攻撃を続けていれば、シールドを破れたかもしれないのに」
「ぐっ…ぅぅぅ!」
苦虫を嚙み潰したかのように、男は怒りで震えていた。
「急げよ。俺は今、チャンスをやっているんだぜ?お前を殺すまでのリミットが、近づいてる。早くしろ、次だ。それとも、もう終わりか?」
「このッ…クソガキがァッ!!」
腕を振り上げて、炎もまとわぬ無手の攻撃が迫る。
俺はあえてシールドを解除し、神威の腕を掴んでひきつけ、肘に膝蹴りを入れてへし折る。
「あがっ!?」
情けない声を上げたその顎へ回し蹴りを放って顎を粉砕し、蹴った足が地面につくと同時に地面を蹴って回転して、後ろ蹴りをわき腹へぶち込む。
吹き飛ぶ神威よりも速く走って背後に回り込むと、背骨を殴って勢いを殺し、回し蹴りに見せかけた旋風脚で喉を打ち抜いて吹き飛ばした。
神威は燃えた建物にぶつかり、血反吐を吐き散らかす。
俺はその眼前まで歩き、見下ろした。
「立て。次だ」
「ふっ…ふざけんな…俺は…七政賢だぞ…良快なんだぞ…!序列クラスである、この俺が…!こんな、どこの馬の骨とも知れねぇガキに、こんな、こんな事が…!」
「そう思うなら次だ。早くしろ。何度でも教えてやる。お前が土下座して詫びるまで、何度でも」
男の目に、段々と闇が落ちていく。
人々が絶望と呼ぶその感情に、支配されつつあるのだろう。
「何度でも、何度でも…安心しろ、どこの骨が折れたって、どの部位が千切れたって俺が治してやる。決して死なせはしない。ほら、次だ」
「ああ…ああああぁぁぁぁっぁ!!」
伸し掛かる絶望をはねのけるように、男は虚勢の雄たけびを上げて飛び上がり、折れていない方の手に炎を集めた。
俺はポケットから手を出し、人差し指を向ける。
そこにエネルギーをためて、丁寧にレーザーを生成した。
神威にとっては、きっと一瞬の出来事だったろう。
けれど、俺はゆっくり丁寧に、時間をかけて狙いを定め、一発だけレーザーを撃つ。
それは寸分たがわず男の炎を溜めていた左手に命中し、肘から焼き切った。
「あっ…ぎぃぃ…!?」
痛みに悶絶する男を無視し、俺はもう一度レーザーを指先に再装填する。
それを、そっと男の額へ向かって動かし、狙いを定めた。