夢の守人 ⑥
「へー、じゃあお前ら二人は、そのカルメン村ってとこの孤児院で育ったのか!だったらなんで、この人類解放戦線とかいう世界の終わりみたいなところに来ちまったんだよ?」
赤髪の少女、ミーシャはづけづけと不躾に、私達の会話に混ざっては質問を投げ続けていた。
「それは……孤児院にとって、誰かに引き取ってもらうっていうのはとても、幸せな事で…だから…」
本当は、シウバに引き取られるのは私一人だった。
けれど、私がソフィアと一緒が良いと駄々をこねて…
その結果が、この誰にも気づかれない地下の牢獄。
罪悪感に俯くと、再びソフィアが私の手を握ってくれた。
「…何があっても、二人一緒が良い。そう思ったから、私とフェルトは二人で引き取られてここにきたんだ。ミーシャちゃんは?」
聞くと、彼女はあっけらかんと笑いながら口を開く。
「あたしは領域首都のスラム出身なんだ!ある日戦線の奴らに『衣食住を保証してやるからうちで働かないか』って言われてさ!それがまさか、こっちの『お勤め』だったとはな!ガハハッ!」
恐らく、この牢屋のような室内とかけての発言だろう。
知っていたら勝手に犯罪やって本物の刑務所に入っていたのにな、などと呑気に言って笑っている。
その緊張感のない様子に、私は耐えられず疑問を呈する。
「ミーシャは、その、どうしてそんなに笑っていられるの?拷問を、受けたでしょ?」
「拷問?あぁ、あのプネウマ耐容上限量テストってやつ?確かにあれはきつかったな!でも、ここは雨水凌げるし、飯だって出る!扱いは酷いもんだけど、ま、スラムと大差ないな!」
楽しそうに笑う姿は、本当に何も気にしていないようだった。
「なぁなぁ!それより、この首に付けられたやつってなんだろうな?」
そう言ってミーシャが触っているのは、私や子供達全員の首に付けられたチョーカーのような装置。
それを平気で強く掴んでは外そうとするミーシャを、私は咄嗟に止めた。
「だっ、駄目だよミーシャ!説明聞いてなかったの!?」
「へ?」
「これは魔力を流し込む無針注射装置だよ!私達が命令に背いたり、反抗的な態度を見せたら猛毒の魔力が流し込まれる。急性魔力中毒で、すぐに死んじゃうんだよ!」
必死に説明したものの、ミーシャはわかっているのかいないのか、へー、とだけ言って装置から手を離した。
「よくわかんないけど、わかった!明日は戦闘力テストだってな!三人力を合わせて、頑張ろうぜ!」
運動会にでも参加しているかのような気軽さに、若干不安になりながらも、この夜は三人で朝になるまで話し続けた。
次の日。
ミーシャは帰ってこなかった。
「…………あの」
牢屋に押し込まれた直後に、室内にミーシャがいないことがわかって。
私が最後の帰還者だとわかっていたから、顔の見えない看守へ柵に飛びつく様に話しかけていた。
「ミーシャは…どこですか?」
「…ミーシャ?」
「えっと…41628の事です」
「ここにいる者で全てだ。私語は慎め検体41629」
その意味を、しばらく噛みしめた。
ゆっくりと振り返ると、ソフィアが泣いていた。
「……ねぇ、ソフィア。ミーシャは…」
死んだのかな?
聞くよりも早く、ソフィアに抱きしめられていた。
「……よかった」
「…え?」
「フェルトが……帰ってきて」
言われて、やっと実感した。
今、私は生きて帰れるかもわからない場所へ行っていたんだと。
そして、実際につい早朝まで話していた友人が、死んだのだと。
その実感を、私はこれから何度も経験する事になる。




