あなたの光はいつも炎の中で揺らめいて
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「助けてっ!誰か、お願い!助けてよっ!」
こんなに走っているのに。
こんなに叫んでいるのに。
こんなに求めているのに。
誰一人として、私を見ようとしなかった。
「お願い!今も私を助けてくれた人が戦っているの!誰でもいい、誰か…!」
街を走り続ける。
煙を超えて、炎を超えて、戦場を超えて。
声の限り叫んだ。
すると、今まさに逃げている四人の冒険者グループを発見した。
私は一生懸命走って、そのうちの一人に抱き着く。
「お願いしますっ!助けてください!」
「ちょ…!なんだ君!?何をしてるんだ、早く逃げなさい!」
「悪魔が、魔人が私達を襲ったの!その人は賢者で、凄く強くて…私を守るためにお姉さんが一人で戦ってて…!」
「何言ってるかわかんないよ!悪いけど、他を当たってくれ!」
私を無理やり引きはがし、冒険者は走って去っていく。
どうして?
話くらい聞いてよ。
立ち止まっている暇はない。
すぐに私は立ち上がって、叫びながら走った。
燃える火の手の先で、沢山の人が死んでいた。戦っていた。
何度も、多くの人と目が合った。
私の声は、きっと、町中の人に届いた事だろう。
けれど、誰もが目を逸らし、顔を逸らし、無視をした。
「お願いだよ、話だけでいいから、聞いてよ…!戦ってるんだよ、今も一人で…!」
手当たり次第に声をかけて、その全てをあしらわれて。
それはまるで、この炎の街で一人ぼっちになったような、寂しい気持ちでいっぱいになった。
何度も転んで血だらけになった私の足は、次第に思う様に走ってくれなくなっていく。
途方もなく苦しくなってきて、煙に心まで窒息しそうになってやっと、私は理解した。
特別、だったんだと。
私の周りにいた大人は、きっと皆、特別な人だった。
私を命懸けで隠して守った母も。
一人で魔人の兵隊を相手取った父も。
見返りも求めず救ってくれた天人様も。
自らを諦めろと、そう言って背中を見せたあのお姉さんも。
そんな人達が周りにいてくれたから、知らなかった。
きっと、私を無視して自分を優先したこの町の人達が当たり前で、普通の事で。
誰かのために戦えるあの人たちが、特別で、異常な事で。
でもね。
それが、あまりにかっこよくて、綺麗で。
私もいつか、そうありたいと本当に思ったから。
だからもう、誰かに守られるだけは嫌で、自分を許せなくて。
お姉さんの覚悟を無駄にするとわかっていても、それでも私はお姉さんを諦めたくなかったんだ。
もう何も、諦めたくなかったんだよ。
でも、私は特別にはなれなかった。
私が信じるあの御方なら、どうしたのかな。
「ごめんなさい…ごめん、なさい…お姉さん…」
力が抜けて、涙が止まらなくて。
嗚咽に揺れる身体を支えていられず、膝から崩れ落ちた。
地面に倒れ込むように両手をついて、無力な私はただ泣いた。
「……誰か……お願いです…神様、どうか……助けてください」
「わかった」
声が、聞こえた。
「……え?」
恐る恐る、顔を上げた先で。
「助けるよ、ティア。何度だってね」
天人様でも、女神でもない。
私にはそれが、神に見えた。
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