赫焉として出づ
「まずい…ッ!貴様、こんな村の真ん中で魔法を使う気かッ!?」
あまりに、不安定な魔力。
それが神威の身体から溢れ出て、咽かえるような瘴気に眉を顰める。
すぐにティアを立たせて私の後ろに追いやり、張りつめた警戒心を座す男へ向けた。
「何を考えている!?何なんだ、お前は!?」
「何ってそらぁ……世界征服に決まってんだろォ!?」
長椅子を弾き飛ばすように立ち上がり、神威の燃え滾る瞳が私をとらえる。
「魔界大帝のいない今ッ!!王座は空位になったんだぜ!?何を呑気に教会なんぞで祈ってやがる!?これは、千年前の大戦争がもう一度始まるって、そういう意味なんだよわかんねぇのか薄ノロエルフ!!」
「貴様は、瘴国の執政官という身分でありながら、自ら戦争を起こす気なのか…ッ!?」
「あたぼうよッ!!魔界大帝がいなくなっても、まだ魔界には将軍がいる。簡単には倒せねぇ。だったら外堀だ。魔界を囲うように点在する国々を一個ずつ手中に収めるのさ。まずはここ、森人の領域。次は龍国、後詰で海を捕ったら魔界を奪う」
「この世界を、地獄にでも変えるつもりか…?」
「理想郷さ。魔界を支配したら、最後は天人どもとの全面戦争だ。千年前の借りをきっちり返し、はた迷惑なTMIと人類解放戦線を潰す。これで世界はすっきりって算段だ」
「ふざけてるッ!他の七政賢は貴様の愚行を容認しているのか!?」
「容認?てめぇ何にもわかってねぇよ。全然わかってねぇ。俺たち七政賢はなぁ、それぞれが瘴国の王であり、神だ。それぞれの思うやり方で、国を導く。その過程で人を救うのも自由、殺すのも自由、戦争すんのも自由、世界手に入れるのも自由。全員が違うやり方で理想を求めりゃ、どれか一個くらいはたどり着く。それが、俺たち七政賢だ」
「やはり、森人を襲って回っていたのは貴様だったわけだ。このっ、下郎めが…!」
「ハハッ!何とでも言えよ!勝てば官軍!実際、千年前そうやって裾野を作ったのがこの世界だろうがッ!」
神威の激高と呼応するように、魔力が熱を放ち始めて発火する。
それはガスでも燃やしたように大気中に燃え広がり、神威自身をも燃やす。
しかし、神威は炎を手繰って両腕に纏い、熱をさらに上げた。
「…炎が、黒く…!」
「これが『良快』としての俺の権能。鉄を溶かし、土を歪め、光さえ捻じ曲げる。さぁて、この町はどれくらい耐えられるか見ものだなぁ!?」
瞬間、両腕の炎が爆発したように膨張し、私の視界を覆いつくす。
これが範囲攻撃なのだと理解するよりも早く、私はティアを抱いて叫んでいた。
「<無尽の盾>!!」
風のアルカナ。
私とティアを風の盾が包み込んだが、そんなものは一瞬にして砕け、全ては漆黒の炎の濁流に飲まれて壊れた。
-----------------




