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Let sleeping dogs lie ②

 


「どうして……あなたが『それ』を持っているの?」



 ミサの指さす先には、俺の右手があった。

 正確には、右手首に装着した自動化装置を凝視していた。


「それは無尽の翼(エアロ・アーラ)……私が選抜戦士になった子達に送った防御装置。『少しでも長く生きられますように』って、一つ一つ私の血を混ぜて作ったものだから、見間違う事なんてあり得ない。それは、フェルトちゃんのものだ」


 フェルトのもの?

 いや、これは人型兵器から奪ったものだ。

 もしこれがフェルトのものだっていうならそれは、フェルトが人型兵器を操縦していた事になる。

 先ほど盗み聞きした内容を鑑みるに、その可能性が高まってきた。


「さてな。答える義理はないな。村を焼いたのはお前か?なぜフェルトを殺した?」


「先に答えろよ。どこで、それを手に入れた?」


 はぐらかした俺に、ミサは目を細めて圧を放つ。

 その威圧は凄まじく、物理的な重力さえ増加したかのような重みを持たせ、足が地面にわずかにめり込む。


「……襲われたんでな。倒して奪った戦利品だ。文句を言われる筋合いはないが?」


「そう……じゃああなたが、『守護者』…」


「こっちの質問にも答えて貰いたい。まず、お前は誰だ?」


「私は……ミサ。所属は言えないけど、まぁ、察して貰える通りだと思うよ。村を焼いたのは私じゃない。どこだったかな……あぁ、そうだ。瘴国の…七政賢だとかいう人が飼ってた魔物が襲ってたよ。もう魔物の方は私が倒しちゃったけど」


「またあいつらか……なるほどな。で?人類解放戦線のミサさんはどうして、フェルトを襲った?」


「わざわざ言わなかったのに……あなたのせいでしょ」


「あ?」


 ミサはこちらを睨み、髪をかき上げながら言う。


「あなたがフェルトちゃんを手にかけたから、私がこの子を殺さなくちゃいけなくなったの。この責任、どうとってくれるのかな?」


 意味が分からない。

 酷い言いがかりだ。確かに先に手を出したのは俺だが、あの時人型兵器は明らかに戦闘態勢に入っていて、対話もできなかった。そもそも俺はあの兵器を壊しただけで、中身は殺してない。


 このミサとかいう女に声を荒げて反駁してもいいが、正直勝てる自信があまりない。

 いや、勝てるかもしれない。特にライアと二人がかりなら確実に勝てる。

 だが、人型兵器を倒したらこいつが来たわけで、こいつを倒したらもっとやばいのが来るかもしれない。

 これ以上、人類解放戦線とかいうのといざこざを起こしたくないのが本音だ。

 なんならこれ以上関わりたくもない。


 どうしたものか、と冷静に周囲を見ると、ある事に気づく。


 ちらりとミサを見てから、俺はゆっくり歩き出した。


「責任…ね。とりあえず、証人が減るのは避けたいね」


「何を言ってるの…?」


 ミサは歩き出した俺を警戒し、数歩退く。

 その様子に細心の注意を払いながら、俺は倒れているフェルトに近づいた。

 そのまま胸から大量の血を流している身体に触れようと手を伸ばす。


「ッ!?待て!フェルトちゃんに触るな!」


「いいや触るね!死んじまったら迷宮深層でのこと、お前に説明して貰えなくなるんでね!」


「何をっ…!?」


 触れて、神秘を使う。

 フェルトは死んでいる。

 ここにあるのは死体だ。だが、まだ死にたてホヤホヤ。

 何を以て死んでいると判断するか、医療の現場では心肺停止が基準となる。

 より正確に言うと呼吸停止、心拍停止、瞳孔散大が死の判定基準になるわけだが、その要項を満たしていたとしても、蘇生する可能性というのはゼロじゃない。

 まだ死後硬直もしていないし、死んですぐなので脳も綺麗なままだ。

 身体全体で見れば死んでいるが、細胞単位で見ればまだ『生きている』のだ。

 無論、心臓が動いていないので血が全身を巡らず、酸素がないのでもうあと数分で復活の目はなくなる。


 しかし、まだフェルトが刺されてから1分程度。

 心停止から三分以内の心臓マッサージによる生還率は75%と言われている。


 神秘で助けられる範囲である可能性は、十分にあった。


 その考えは正しかったようで。


 俺が触れて数秒後、フェルトの身体がビクッと震え、血を吐き出して呼吸を再開した。


「うそっ…!?心臓を、治したの!?そんな高度な神秘、Hvs(ヘヴンズ)だって出来るかどうか…!」


「さて、じゃあ話を戻そうか、ミサ」




 俺が立ち上がった時には、どうにもミサの俺を見る目は変わったように見えた。




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