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英雄に刮目する払暁





「ぱぱぁぁ!おきてよっ!ぱぱあぁぁぁああぁっぁぁぁ!」


 キャンプ地には燃えカスしか残らなかった。

 燻る煙がわずかに上がるばかりの沼地に、ティアの慟哭が響く。


 ティアはぐったりとした父親の胸元に顔をうずめ、泣き続けていた。

 魔人を掃討し、ついでに檻を破壊して囚われていた人たちを開放した。

 そんな事をしている間にティア達が駆け付け、檻の中で倒れている男を発見した瞬間からこれだった。

 俺がその様子を見ていると、隣に40代男が寄ってくる。


「まずは、助けてくれてありがとう。私はポールというものだ」


「……あぁ、なるほど。お前がティアの父親を治療してくれたのか?」


「おぉ、流石だね。見ただけでわかるとは」


「ティアの父親、明らかに致命傷を負っている。誰かが治療しなきゃ、虫の息とはいえ今の今まで生きてはいないだろ?だが、囚われていたのは村民の女ばかり。なら、お前しかいない」


「その通り。だが、あの子には申し訳ない事をした。私では、わずかに延命するのが精々で、このままではもう……」


「ふむ……いや、それで十分だ」


「え…?」



 疑問符を浮かべたポールを無視して歩き出し、俺はティアの父親の元まで向かう。

 そっとしゃがみ込み、男に触れた。


「てんじん、さま…」


 泣き腫れて、潤んだ瞳は落っこちてしまいそうなティアが、縋るようにこちらを見た。


「お前の天人様を信じろ、ティア」


 昨日の晩、ライアがティアに施していたのを俺は見た。

 他人の治療などやった事もないが、見よう見まねで。

 体内のプネウマを練り上げて、自分を治療するときの感覚を思い出しながら目を瞑った。

 しばらくそうしていると、触れている手から反応が返る。


「うっ…うぅ…」


「ぱぱっ!?」


 俺も目を開けると、どうやら父親が目は覚まさないものの苦悶の声を上げたようだった。

 触れていた手からスキャンを行い、状態を確認すると、ほとんどの外傷は治っている。

 治している側に実感はないが、治療は成功したようだった。


「もう大丈夫だ」


「ぱぱぁぁぁ!」


 今度は喜びに泣いて、ティアは父親に抱き着く。

 それを見守っていると、いつの間にやら俺の治療を見物する人たちに囲われていたようで、その輪を破ってライアが現れる。


「002、今のは?」


「ん?ライアもやってただろ?治療だよ」


「いえ、私が行っていたのはアルカナによる治療です。今あなたが行ったのは、神秘ですよ。無自覚ですか?」


「うん」


「…そうですか。私の見よう見まねで、神秘による他者の治療を……」


「えっと、何かまずいか?」


「いえ、ただ、それは天人でさえ限られた者にしかできない行為です。神秘とは無から有を作り出す力。それによる治療は欠損した部位や、脳の損傷でさえ治癒可能です。やはり、あなたのプネウマとの親和性は天人に匹敵、あるいはそれ以上かもしれません」


 それがどれくらい凄い事なのかイマイチわからなかったので、適当に相槌を打って立ち上がる。

 すると、俺を見る森人たちの目が変わっていた。


「神秘だ……じゃあ、天人様…?」


「きっと天人様だよ…なんてお美しい…」


 魅了されたような、信奉するような瞳でこちらを見つめ、ポールが一歩前に出ると俺に傅いた。


「改めまして、助けてくださり本当に、本当にありがとうございます…天人様…!ぜひ、このお礼をさせてくれませんか!」


「え?ん?まぁ、いいけど…」


 何で敬語に変わったの?


「あなたを、特例の一級冒険者として招待させてください…!」


「ん?んぅ?」


 待て、待て待て。

 まず一から説明してほしい。

 冒険者って何?お前誰?そもそも俺天人じゃないし。


 色々突っ込みたい気持ちが喉につっかえて、逆に何も言えなかった。






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