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『黄玉白虎』





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「ティア、一旦降ろしますね。足元に気を付けて」


 そう優しく囁いて、ライアは己が抱えた子供を地面に降ろした。

 降ろされた子供、ティアは自分たちを見下ろす魔人に怯え、ライアの背中に隠れる。


「大丈夫ですよ、あなたは私が守ります」


 言いながらティアの頭を撫でた直後、魔法使いの兵士が小さな杖から火の玉を撃ちだした。

 しかし、ライアがそれを視界に捉えると、忽ち火の玉は霧散して消える。


「ね?大丈夫でしょう?」


 無論ティアには何が起きたのかわからなかったが、ライアのその笑顔で彼女がやったのだと理解した。

 だが、理解できなかったのはティアだけではなかったようで、動揺が波紋のように兵士たちに広がった。


「何、だ…?今、何が起きた?」


「わからん…魔法が、消えたのか?」


 それなら物理で攻撃するまでだと言わんばかりに、弓兵が矢を番える。

 しかし、その瞬間。


「『動くな』」


 一言、普段の敬語から一変して、ライアが兵士たちを睨んで命令した。

 すると、弦を引き絞ったまま兵士たちは石像のように固まり、呼吸さえ停止する。


「私は邪眼を二つ、持っておりまして…左目が『封殺の邪眼』。あらゆるエネルギーを攪拌して消し去る、歪曲の力。そして右目が『強制の邪眼』。この右目で見られた者は、私の命令があるまで動けません。どちらも父譲りなんですが…」


 と、いつも通りの長尺で説明していると、幾人かの兵士たちが小刻みに痙攣し始めていた。

 邪眼でも意志とは無関係な、生理的な動きまでは強制できないため、窒息し続けた身体が震え出したのだろう。


「このまま放置して、地上で溺死するまで待ってもいいのですが…まぁ、その処し方は悪趣味ですね」


 ライアは目を閉じると、指を鳴らす。


「威を示せ。『黄玉白虎(フェンリル)』」


 邪眼を解いた影響で兵士たちが過呼吸気味に倒れこんだが、それは地獄の終わりではなく、むしろ始まりだったのだと空間を割って現れた獣を見て悟る。


 顔だけで5メートルはあろう、煌びやかな鉱石を瞳にはめ込んだ狼。

 それが電撃を滞留しながら兵士に突っ込み、一口で食べた。

 むしゃむしゃと咀嚼し、牙の間から血液が飛び散って、それが他の兵士の甲冑に付着する。


「あ、あり得ない……黄玉白虎(フェンリル)だと…!?だとしたら、魔物じゃない!《《魔獣》》じゃないかッ!七大魔獣を、使役なんて出来るはずが──」


 ただただ驚愕したまま、最後まで言い切る事もなく。

 近くにいた兵士たちは次々に捕食されていった。


「よく噛んで食べてくださいね、リル」


 飼い犬に話しかけるように窘めていると、ふとティアがライアの手を握る。


「ライアお姉ちゃん、すごいっ!」


 目を輝かせ、飛び跳ねていた。


「え、そ、そうですか?」


 褒められ慣れていないライアは、嬉しそうにわずかにはにかむ。


「凄いよっ!物語の中の天人様みたいに綺麗だし、まるでウーシア様だ!」


「えっ?(ウーシア)を、知っているんですか?」


「知ってるよ!熾天人ウーシア様!千年前に私たちを守ってくれた、世界一やさしい天人様だって!」


 それを聞き、ライアは喜びに顔が綻んだ。

 母の情報を知っているのかと食いついたが、そういうわけではなかった。

 それでも、千年前の母が後世にこのように伝わったのが、誇らしかったのだ。


「ええ、そうですね。ウーシアは、優しい人ですから。では、こちらは片付いたようですし、私達も002を追いましょうか。きっとティアのお父様が待っていますよ」


「うん…!」


 ライアは握られた手を握りなおして、キャンプ地へ向かった。




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