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敬天愛人 ①





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 シナスタジア雨林には、魔物が多くない。


 これは、空気中のプネウマが多いためである。

 空気中のプネウマの濃度は、地脈にどの程度プネウマ鉱石が存在するかによって変動する。

 千年前の戦時中、急激に採掘され続けた事によって、現在は多くの土地からプネウマは枯渇している。

 そんな中でも、このシナスタジア雨林は非常に広大かつ入り組んだ地形であることから、まだ手付かずの地脈を多く残していた。

 それが空気中にプネウマを多く含んでいる要因であり、また、迷宮とは異なり基本的には魔力を好む魔物にとって居心地の悪い場所でもある。


 だが、瘴国の兵士たちがキャンプ地に選んだ沼は、例外であった。

 かつて手付かずのシナスタジア雨林に目を付けた者がプネウマを掘り続け、その結果地盤沈下を引き起こして沈んだ一画。

 例外的に空気中のプネウマが少なく、故にこそ魔人である彼らの過ごしやすいキャンプ地として選んだ。

 けれど、過ごしやすいのは魔物もまた、同じである。


 彼らが安息地として選んだ場所は魔物が寄り付きやすい場所であり、それを警戒するため二十人余りの兵士が沼を囲う傾斜の外側に、立哨する事となった。


「くそっ!これじゃあちっとも休まらねぇ!」


 一人の兵士が愚痴を零しながら、猪ような魔物に突き立てた剣を引き抜く。

 その声も所作も、鬱蒼と茂った森には良く響いた。

 マングローブのような葉の広い木々は太陽光をほとんど通さない。男は太い根による凹凸の激しい地形に足を取られ、わずかによろめく。


「おい、静かにしろって。また魔物が寄ってくるぞ」


 答えたのは、背に弓を携えた兵士だった。


「わかってる。けどよ、俺達いつまで哨戒してればいいんだよ?早くこんな場所出ていけばいいのに」


「仕方ないだろ。一旦態勢を整えるまで数日はかかる」


「それはそうだけどよ…つか、アグルの班は何してやがるんだ?包囲網抜けたガキ追ってどっか行ったきり、まだ帰ってないんだろ?」


「さぁな。迷ってどこかで野宿してるんじゃないか?」


「あるいは、返り討ちにあってたりしてな?」


「ないだろ」


 冗談を言い合って、男たちは笑った。


 踵を返し、自分達の持ち場へ向かおうとした時だった。

 遠くの背後から、わずかな物音を聞く。


「おい、聞こえたか?」


「あぁ。また魔物か?」


 振り返った先には、暗がりが広がるのみ。

 いい加減森の闇にも目が慣れてきた二人だったが、十メートルも離れれば木々や傾斜など遮るものも多く、物理的に見渡すことが出来ない。

 それでも、それらの間を縫って見えるものは、ただの暗闇のみだった。


 弓を背中に携えていた男が、ゆっくりとそれを手に持つ。

 腰に携帯した矢筒から矢を取り出し、筈を中仕掛に噛ませて弦を引いた。


 弓兵は総じて、目が良い。

 これは魔人の場合、魔力を視力上昇に充てる強化術を学ぶためだ。


 しかし、その視力を以てしても。

 その斬撃を見る事は出来なかった。


 結果として、弓兵は自分に何が起きたのか最後まで理解できなかった。

 ただ視界が大きく左右に広がり、《《左右に倒れた》》。


 その異変に「?」と疑問を浮かべたまま、没する。


「……は?」


 けれど当然、隣でそれを見ていた剣を持つ兵士には、一連の全てが見えていた。


 キィィィンと一瞬耳を劈くような高音の風切り音が鳴ったかと思えば、隣にいた弓兵が真っ二つに両断され、割れたように倒れた死んだのだ。


 何かが攻撃を仕掛けた来た。


 分かった事は、ただそれだけ。


 見えない斬撃、その恐怖に駆り立てられて、男は全力で走り出した。





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