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ライアさんの早口講座




 改めて双眼鏡を覗くと、その身体的特徴が目についた。


「悪魔が、エルフを襲ってるのか……?」


 甲冑を来た奴らは全員、頭から黒い角が生えているように見える。

 それに対し、襲われている人々は耳が長い。


「…002、私以外の前でそれは言わない方が賢明かもしれません」


「ん?何のこと?」


「悪魔は魔人の、エルフは森人の蔑称です。とても差別的な意味合いが含まれるので…」


「森人と魔人……?ちょっとライアも一緒に見てくれ」


 これはライアに解説してもらった方がいいと判断し、俺は懐から二つ目の双眼鏡をライアに手渡した。


「どうだライア?あの耳が長いのが森人で、角が生えているのが魔人で合っているか?」


「ええ、間違いありません。そもそもこのシナスタジア雨林自体、森人の生息地ですから」


 やはり、エルフ的なのを森人、悪魔的なのを魔人と呼ぶらしい。


「どうして襲われてるんだろうな?せっかくの第一村人が、もう死んじまってるよ。やっぱり、あの悪魔みたいな種族は悪い奴なのか?」


「いえ、そういうわけでは……そうですね、002にこの世界のヒト科の種族についてお教えしましょう」


 お。始まるか。


「この世界は元々、人間、魔人、天人の三種族が支配していました。しかし千年前の戦争で人間が衰退し、三種族間の不戦条約と敗戦した人間達の資源で三権調停機構を設立する事で、戦争は終結しました」


「ふむふむ。メモメモ」


 と言いつつ掌を指でなぞるが、もちろんメモなどしていない。


「そうして現在は地上を魔人、天空を天人が支配していますが、この支配は完全ではなく、そもそも戦争に不参加だった森人や獣人といった他種族が今も世界の端で細々と暮らしています」


「うーん、為になるなぁ」


 いずれテストに出るに違いない。


「しかし、です。今の世界を平和たらしめている三権調停機構が保護している権利とは、戦争に参加した三種族だけです。この三種族はその人権をTMIに保護され、不条理には決してあいません。ですが、その他の種族が奴隷や人道を無視した扱いを受けても、TMIが動く事も取り締まる事もないのです。ですからこのように、侵略的な戦争や略奪に合う事もある、という事です」


「ははぁ。なるほどなぁ」


「002、聞いていましたか?」


「もちろん。ところで、俺はその三権なんちゃらの保護を受けれる権利は持ってるのか?」


 残念ながらライアの話の半分は聞いていなかったが、バレたくなかったので即座に質問をした。


「いいえ、恐らく持っていません。強化人間である002は魔人、天人、人間、森人、獣人、その他多くの知的生命体の遺伝子配列を組み込まれて誕生していますので」


「それなら、むしろ権利は内包してるんじゃ?」


「いえ、そもそもこの世界で複数の種族の遺伝子を持っている『混血』自体、あり得ない存在なのです」


「おや?」


「つまり、例えば天人と魔人が交配しても子供は作れない、という事です。同じヒト科でも、属が異なり、交雑できません。見た目や知能こそ似通っていますが、その実、身体機能に大きな違いがあるのです。そのため、TMIは混血種を想定しておらず、私や002はヒト科とさえ認識されない可能性が高いです」


「はえー、人とチンパンジーくらい離れてるんだな」


 ん?

 となると、ライアって何なんだ?

 俺は人工的な存在だからわかるけど、両親がいるって言ってたよな?

 それも天人と魔人、交雑できないはずの両親。


 ますます不可解な存在だと思いながらライアを見ていると、目が合った。


「それで、どうしますか002?ようやく見つけた知的生命体ですが」


 言われて、燃え盛る村を見る。


「どうするもこうするもないだろ。無視する」


 一瞬脳裏に助けるという選択肢が湧いたが、即座に却下した。


 ここからでは脅威度も測定できないので、強さもわからない。

 もし巨大ミミズのように脅威度の測定から逆探知され、発見されれば戦闘になるかもしれない。

 あまりに危険で、ノーリターン。

 どう考えてもここで危険を冒す意味が見当たらない。


 ライアを助けたのは特別だ。

 ライア無しで外に出る事と、深層で戦う事のリスクを天秤にかけ、それでもライアを助けた方がメリットがあると考えた。

 俺自身、ライアに恩義を感じていたのもある。

 もうあのような無茶は当分したくない。

 結局深層で何度も死にかけ、骨身に沁みたのだ。もっと慎重に行動すべきだと。


「よし。見殺しにする。ライアも構わないか?」


「ええ、私も賛成です。では迂回して進みましょう」


「もう日も暮れるから、そう遠くまではいけないけど…」


 そうして俺たちは再び空を飛び、煙を迂回して進む事にした。

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