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10/65

last but not least ①



 夢を見たんだ。



 少女が泣いている夢。


 誰にも知られず、誰にも聞こえない啼哭。


 今はもう、それが夢じゃないと知っている。


 だから俺は、ただ落ちた。


「どうして!?来てはいけない!何のために、私は…!」


 あと一歩でこのクソったれな迷宮から出られたっていうのに、俺は何故か引き返し、あろう事か深淵目指して落ちていた。


「迷宮には攻略の報酬があるもんだろ?それを貰ってからじゃなきゃ、溜飲も下がらねぇって話さッ!この、無遠慮な転生のな!」


 ライアが最初に示した聖地の縦穴は、深層に続く落ちてしまえば二度とは這い上がれぬラストダンジョン直送だった。

 縦穴は人工物ではない。

 故に、ただ普通に落ちるだけでは隆起した突起や穴のうねりにぶつかって即死する。

 それを避けるため、両手から小まめにレーザーを噴出して落下の軌道を調整し、最短最速で俺は落ちていく。


「今からでも引き返して!002、深層には千では済まない数の魔物が溜まっています!生きては帰れない!」


「知ってるさ、そんな事!」


「えっ!?」


「夢の中で、お前の身体と繋がった!お前がどこにいるのか、何を見ているのか、全部知ってる!」


「なら、どうして…!?」


「俺には、お前が必要だからだッ!」


「ッ!?」


「お前、言ったよな!?俺に、この迷宮から出るべきだって!俺を言い包めて、深部に向かわせる事だって出来た!本来の強化人間の使命を果たさせるため、迷宮に抑留する事だって!」


「……!」


「だが、お前は俺を選んだ!自分の使命や欲望、保身よりも俺の権利を優先し、最後までそれを貫こうとした!」


「だから、何だっていうんですか!?」


「お前が俺を信じたように、俺もお前を信じるって言ってんだよ!」


「…ッ!」


「虫のいい話だってのはわかってる!たった三日、俺たちは互いの顔も知らない!どころか俺は異世界から来た人間で、互いが理解の範疇になくたって仕方がない!だから、お前が俺を最後まで信じる義理も謂れもない!でもな…!」


 そこで、俺の中に沸き起こったのは先ほどまでの、ライアの別れの言葉だった。


「最後くらい、本当の事を言えよッ!」


「本当の、事、ですか…?」


「そうだッ!あんな別れが、お前の望みなんかじゃないだろッ!?千年俺を待ったんだろ!?これから先、いくらでも『俺』を教えてやるッ!だから、こんな迷宮なんかより、俺を選べ!」


「──っ!」


「迷宮暮らしにすっかり慣れて、自分で選べないってんだったら俺が選ばせてやる。声も出せねぇってんなら代わりに叫んでやる!地の底から引っ張り上げて、その面拝ませて貰うぞ、ライア!」


 馬鹿だな、俺は。

 何を息巻いているのか。


 これは全部、ライアのため、何かじゃない。

 全部自分のためだ。


 これから先に進むには一人じゃ不安だった。

 だから助けるって名目で、お供を欲しがっているだけ。


 何もかっこいい事なんか無いし、人に誇れるような行動じゃないかもしれない。


 だけど何故だろうな。

 今、この世界に来てから一番ワクワクしている。


 ライアを助け出せば、俺はもう一人じゃない。

 その先に、もっと楽しい事が待っている。

 そんな予感があるんだ。


 落ちれば落ちるほど、縦穴に張り付いている魔物が増えていく。

 やがて壁全てを覆うようになっていき、無数の欲望の眼差しに見送られて底を目指す。


 もうライアからの声は聞こえなかった。

 けれど、そんな事はどうでもいい。

 どうせすぐに、直接話すのだから。


 深層まで、約二千メートルの落下を経て、底には地面なんか無かった。

 ただ溢れんばかりの魔物が積み上がり、「あぁ、良いクッションになる」なんて呑気に考えながら着地した。


 瞬間、俺の足底は何十もの魔物を踏み潰して岩盤を踏みしめ、尚も止まらずクレーターを作る。

 魔物の体液の爆風が吹き荒れて、水が穴に吸い込まれていくように、一瞬で俺を覆い尽くさんと魔物が群がろうとしていた。


「ハッハッハッハッ!さァ!始めようか!ライアッ!」








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