第一:幕開けにケルベロス!!? part2
葉月たちの教室がある校舎の向こう側にある、三階建の建物、『第二職員校舎』。
それを越えると中等部の人間が主に行く第二繁華街地区があり、そこをさらに越えると、生徒用の一般寮、または『生徒会』や、『風紀委員会』、『執行部』の為に作られた、一般生徒の寮よりも豪華な寮などが並んでいる住宅地みたいなところへと続いている。
中学用ホールは第二繁華街地区い当る部分の地下に存在するため、第二職員校舎のそばにある、地下へと続く広い階段を下る。 そして、階段を下りきり、通路へと入る。
そこで少し歩いた左右前と分かれ道になっていたが、天井の、地下鉄でよく見る案内標識みたいな物に、右側が中等部三年生校舎前、前方が第二繁華街地区南口前、左側が中等部二年生校舎前と書かれていた。
「って、どれも違うじゃん!」
愛海はそういうが、 しかし、生徒たちは、左角を曲がっていく。 葉月も今曲がろうとしていたところだった。
「いや、生徒手帳に地図帳のってるだろ。 あぁ、持ってきてないのかそうなのか」
そうまさにバカな人間でも見るかのような目線を愛海に一瞬送ってから、葉月は右手に持っているなんだか一世代前の携帯ゲーム機のような小型無線機に目線を移す。 この無線機こそ、生徒手帳である。
昔は紙で作られたまさに手帳を使っていたらしいが、3、40年ほど前からこういうタイプのものが使われるようになっている。 ボタンはなく、ほとんど一面が液晶画面であり、タッチ操作で使用するものだ。 ちなみに、なくした時、壊した場合の最購入額は1800円。 これでも安く設定してあるらしいが、バカにできない。
とりあえず、葉月は「だってそれ意味解らないんだもん!」とか言う姉を無視しながら液晶を見続ける。 画面上でも分かれ道が多く、かなり複雑にはなっているが、先に目的地を検索してあるため、カーナビのように、矢印で示してくれている。
(まぁ、こんなものなくても、この流れについていけば普通にたどり着けるんだけどね……)
葉月がわざわざ生徒手帳を取り出したのは、まぁ簡単に言えば念のためである。 実はこの流れ、全員が全員ホールへ行く一年生ばかりではない。
全員私服のせいでわかりにくいが、中には道の解らない一年生のために案内を務める『生徒会』や、『風紀委員会』、または『執行部』などもいるし、他にも、入学式には参加しないで他の校舎へ行く教師。 または、たまたまこの場所を通った上級生(これは少数)などもいるのだ。
葉月と愛海がそんな人間たちの作った流れに流されるまま歩いていくこと約5分。 そこで迎えていたのは、城門の様な二枚扉と、その向こうに見える、あまりにも広大なホールだった。
天井はプラネタリウムのように丸く、幾つもの証明が照らしているが、このホールはやや薄暗さが残っている。 無数の座席は映画館の座席と同じ様に平行だが、12つのブロック分けになっていて、それらが下る感じに奥にある大きなステージへと伸びている。
「うっわ何ここ広っ! コンサート会場!?」
「声がでかい……席は知らされてるんだから、さっさと行くよ」
まだ少し人混む中、少し探しただけで見つけた、下った所の(Eブロックは右と前から二番目ずつのブロック)空いてる座席に二人は向かい、隣同士に座った。 式が始まるまで一応まだ時間は余っていたので、葉月はいつもの、周りから見たら内容がまったくわからなそうな本を読み始め、愛海はもう座ったとほぼ同時に回りの女子達と喋っていた。
しばらくして、葉月がその書物を閉じるのとほぼ同時に女性の声が葉月や愛海の鼓膜に直接響いた。
『皆様。 これより第17回、魔立如月学園の、入学式を始めたいと思います』
『魔術的通信法』だ。 放送とかでは聞き逃してしまう可能性(または隣のバカみたいにはなっから話を聞いていない可能性)があるから、空気中の音波の流れに伴って、対象の鼓膜を直接叩く方法だ。 これを発動させた女性はかなりの実力の持ち主なのだろう。 その証拠に、今の女性の声を聞いたであろう辺りの生徒達の話し声が止み、辺りの空気が緊張の一色に染まった。
そもそも、『魔術的通信法』自体も高等術なのに、ホール内に居る生徒全員を対象に発動できるのは、相当な努力、または天才的な才能が無い限り無理だ。 この学校の教師がどの位の実力があるかを、一瞬で証明した。
それでもボーっと本を読み続ける葉月だが、今の報せで明かりが消えた訳でもないのでゆっくりと読める。 前から二段目、しかもほぼど真ん中という、ステージからは比較的見つかりやすそうな位置なのだが、あまりに気にはしなかった。
しかし何かが気になり、チラリとステージを見てみる。 ステージに居る教師陣の中に何故か幼い子供がいたが、誰かの子供が迷子になったのだろうと、葉月はいちいち気にしたりもせず、視線を本へと戻した。 しかし、
(ん? なんだ?)
視線を感じ、本を静かに閉じる。 どこからかと目だけを動かし、すぐに見つける。 右方向、やや遠めの座席に座る少年を見た。
このホールに生徒は中等部の一年生しかいないから、同い年なのだろうが、それにしては背が高い。 おそらく160台後半位だと思う。 瞳は氷のような水色をしていて、長めの浅葱色の髪は、右目隠し、もみ上げ部分は胸辺りまで伸びている。
葉月が言えることではないが、服装もやや変わっていて、エナメルで出来た黒のジャケットと、同じ色のサイズがピッタシな黒のズボンを履いていた。 ズボンを締めているベルトはかなり太い。 全体的に見て、まるでこれからバイクにでも乗るような格好だ。
(っ……何だ、アイツ?)
その少年と目があった瞬間、体が潰されてしまいそうな程重い空気が、葉月を包んだ。
おかしい。 葉月はあの少年を見ているだけだ。 それだけなのに、空気が重い。 氷のような少年の目が葉月の体を凍らせる。 目を逸らそうとするが、あの少年の氷の目はそれすら許さない。
決して、あの少年が殺気立てた目でこちらを見ているわけではない。 そして、他の生徒にそんなプレッシャーは与えられていない。 葉月があの少年を見て勝手にそう感じているだけだ。 それは、説明するならば、、「なぜこんなものが存在するんだ」というような、圧倒感と違和感だった。
『では、これより、魔法名授与を開始します!』
魔術的通信法での教師の声が葉月の鼓膜を叩き、同時に嫌に重い緊張を途切らせた。 正直、心底感謝した。 やっと解放された気分になった。
精神を見えない鎖で縛られていたかのように固まっていた体の力が一気に抜ける。 それと同時に、葉月はあの少年を視界から省き、ステージのほうを見た。
(それにしても、アイツ………なんなんだ?)
葉月は体を俯かせて悩んだ。 心底訳の解らないあの少年は一体………。 すると、愛海が心配そうに俯いた葉月の顔を覗き込んできた。
「どうしたの、葉月? 具合悪いの?」
「え? いや、アイツ……」
葉月はさっき少年の事を言おうと思ったが、止める事にした。
言いたくない。 言ったら愛海は葉月をどこまでも心配する。 本人には言わないが、葉月は愛海にあまり心配かけたくないのだ。
そもそも、葉月は悩み事などを相手に直接言う人間ではないし、言ったことも無い。 なのに、姉という、ある意味最も身近な存在に、こんなことを言うのは、葉月に出来るはずがなかった。
「いや、なんでもない……」
頭の上に疑問符を浮かせながら「そう? なら良いけど……」と言って首を傾げるが、すぐに明るい表情へと戻る。
誤魔化せきれただろうかと不安になるが、鈍感な愛海のことだ、誤魔化せたに決まっている。 それにしても表情と気持ちの切り替えの速いやつだ。 この切り替えの早さは、葉月も姉の数少ない長所として認めていた。
「いよいよ魔法名もらえるね!」
「え? あぁ、そうだな……」
その言葉に反応してやっと葉月が顔を上げた。 あの沈黙の中、そんなに時間が経っていたとは思わなかった。
「それでは校長先生……」
校長先生と言われ、ステージの前へと出た人物は驚いたことに、先程まで、迷子のように教師陣に紛れ込んでいた、葉月よりも幼い子供だった。
黒い髪は爆発したようにぼさぼさで、その可愛らしい顔も寝ぼけていた。 服装もパジャマのみで、どう見てもただの寝起きの子供(自分も十分すぎるほど子供だが)としか言えなかった。
「ども~! この魔法学園の現校長、白木葉で~っす♪ では……」
妙に高いテンションの挨拶が始まり、校長はその言葉と同時に、親指を人差し指で抑えた状態で自分の額に持っていく。 そして、
「早速、始めようか」
その親指で自分の額を弾いた。
その刹那、葉月の視界が闇一色に染まった。
はい!第一話、第二部の公開です!
本当に遅くて申し訳ないと思います。何とかしよう努力はしてるのですが……すいません。
え~、今回の変更点ですが、まず一つ
生徒手帳がデジタル化したことですねw生徒手帳の存在は前のやつの5話で吉良が出していますが、これは今で普通に使っている紙の奴です。
しかし、今回登場したのは本当にデジタルwまなびス○レートに出てきた奴を想像していただければこれ幸いです(解ってくださればw)
そしてもう一つは、なんと、あいつの髪の色を変更!
金髪の少年としてのあいつでしたが、今回は浅葱色へと変更。これに関しては色々理由があるのですが、それに関しては後にw
このくらいでしょうか?
一応一話はあと二回で終わらせるつもりです。
毎度の事ながらのスローペースですが、きながに暇な時にこちらに振り向いてくだされば嬉しいですw
では、今回はこの辺で、
皆様の、感想、評価、アドバイスを、心からお待ちしております!