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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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エピローグ

 翌日はとても爽やかな、青い空と白い雲が雄大に広がっていた。

 北の果てではこんな日は珍しいらしい。

 メイの突然の告白、みな驚いたが…最終的には今生の別れという訳でもないので、それぞれ納得していた。

 空よりも青い、紺青の湖は今日も静かに時の神殿を包んでいる。

 これは、時紡ぐ聖名がその力を行使して、以前の状態に完全に復元したものだ。

 ベルクも戦闘に必要なため、この地を火山帯に変えただけなので、元の時間に戻すのにベルクの干渉は無いのだ。

 セイガからすればまさに神の所業、景色の変貌に驚かされるばかりだった。

 神殿の入口、橋の袂にはミナっちと従者(クロノ)…鳥がその上を渡っている。

 セイガ達も、それに倣う形で橋の上に立つメイとマキさんを見守っている。

 因みに、大佐は多忙な人なので、残念ながら昨日の夕食の後、地下基地へと帰って行った。

「困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくれ」

 最後に握手した大佐の手はあまりにも大きくて、その指先を摘まむような感じだったけれど…大佐の心意気はとても温かかった。

 そんなことをメイが考えていたら、ミナっちが最初に手を差し出した。

「何か進展があったら…また連絡しますね~」

 すこしひやっとするミナっちの手のひら、非の打ちどころのない容姿、神殿の彫像がそのまま生気を持って動き出したような…そんな存在

「…メイちゃんもすぐ美人さんになりますよ、うふふふふ~♪」

 本当に心を読まれてるかもしれない、メイはちょっとだけ戦慄した。

『お互いに』

『これからも宜しく』

 横のマキさんと従者たちが仲良く浮遊している。

「ま、我儘はいつものことだからな…達者でな、メイ坊」

「ハリュウ…これは別にワガママじゃないもん!」

 メイはハリュウの手を力いっぱい握り返す、嫌味や軽口ばかりのハリュウ…けれども大切なところではずっと力を貸してくれた。

 素直に感謝するのは少し癪だけれど…大事な仲間、それだけは変わらないとメイは感じていた。

「また…ね」

「精進しろよ?」

 …何だか、色々と見透かされているようで……照れ隠しにメイはハリュウの足元にローキックを入れた。

「あいたっ…全くお前はいつもそうだな」

 ハリュウの反射神経ならば、軽く躱せるだろうに、いつも受けている彼の…そんなところは、メイも好きだった。

「めーちゃ…っ」

 ユメカは既に涙顔、くしゃくしゃになった顔も…とても可愛らしい。

「いつでもっ…(うち)に帰ってきてくれていいんだからね、ふたりの…部屋は…ずっと残しておくから…っ」

「ありがと…心配かけてごめんね……大好きだよ♪」

 ひしと抱き合うふたり…

 ユメカはとても柔らかく、いい匂いがする…

 メイと同じくらいの小さな体…でもその内に秘めたエネルギーは…とても大きい。

(ゆーちゃん…おしあわせにね…)

 そのままゆっくりと、時間がすすむ…

 離れるのは、とても寂しいけれど…これではいつまでもお別れできない。

「ずっと、心はいっしょだよ♪」

 ようやく、ユメカがそう口にして、メイの手を放す。

 短い間だったけれど…家族のような、大切な友達だった。

 だからこそ…

 最後に、メイがセイガの方へ、手を伸ばす。

「ありがとうございました! セイガさんがいなかったら…ボクはこうしていなかったと思います」

 セイガが無言でメイの手を取る。

 力強く、温かい…最初に触れられたあの時から…ずっと優しい瞳……

(…大好きです……)

 これからも見ていて欲しかった…けれどもそれは叶わぬ夢…

 だから…遠い空から…見ています。

 それがここから離れる本当の理由だった。

「メイ」

 真っ直ぐなセイガの視線…想いが零れそうになる。

「…はい」

 セイガは、なんて言っていいか…悩んでいる風だった。

「絶対…」

 ぜったい…ああ、あまり嬉しくなっちゃうようなことは言わないで欲しい…

「俺は絶対、メイを救うから…いつでも甘えて欲しい」

 …!

 どうして…この人はいつも……

 メイは、俯きながらセイガの手を離した。

「それじゃあ…またっ…!」

 橋の上を一歩一歩…歩き出す。

「バイバイ!」

 大きく両手を振るユメカ、軽く右手を振るハリュウ、ミナっちは従者と連携を取りながら派手なパフォーマンスでメイを見送った。

「さようならー!」

 大きく礼をしてから、右手を振るメイ…

 その間…セイガだけは無言でメイを見つめていた。

 行き先を向く、もう泣かないと決めたから…

 湖の上、橋の先には何があるのだろう…

 メイは方向オンチなので、まずはみんなから離れて…マキさんとふたりきりになったら次の目的地と現在地の確認をしようと考えていた。

 振り返りはしない…そんなコトしたら…泣きそうなのが知られてしまうし…


 別れられなくなってしまう


 沈黙、きっと…セイガさんはまだ手を振ってはいないだろう…

 どうして?

 どうして……


「メイ!」

 セイガの声がする。

 強くて、優しい声…ずっとメイを見ている。

 メイは、立ち止まる。


「ボクは…」

 ううん…と、首を軽く振るメイ…そして


「私…ここにいてもいいかな?」 


 メイがゆっくりと振り返る、そこには満面の笑顔をしたセイガがすぐ傍にいた。

「勿論だ、俺はメイに……ずっといて欲しい!」

 ダメだ…


「…これからも……見ていてくれますか?…」


 ぼろぼろと、涙が止まらない。

「ああ、傍で応援するよ」

 セイガの力強い笑顔…

 メイはそのままセイガの胸へと飛び込んだ。

「セイガさん! セイガさんっ!!」

 大声で泣き続けるメイ…

 駆け寄る音がする、気が付くと横からユメカが抱きついてきた。

 ハリュウも紛れて女性ふたりに抱きつこうとするが、先にセイガが肩を組んできたので名残惜しそうにそちらに従った。


「みんなっ、ありがとう! ありがとう……大好き!」


 そうして、セイガの新しい仲間である、メイは…

 再びセイガ達と共にいることを選んだのだった。

 頭上の太陽は輝き、風と鳥は紺青の空と湖の上を渡っている。

 それらはきっと…これからの彼等の旅路を祝福しているのだろう。


 そう、これは聖河・ラムルとメイ・フェルステンの出逢いの物語

                                 【完】

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